健全な情報社会をめざして
 情報化レビュー・電子版
 第216号

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韓国IT事情 第27回
 
『政府3.0とオープンデータ戦略 』


    韓国では去る 7月29日、「公共データの提供及び利用活性化に関する法律」が公布された。この法律は、政府機関と自治体など公共機関に対して、保有している公共情報を正当な事由がない限り公開することを義務付け、国民にその利用の権利を保障する。情報を公開する側はデータを使いやすく加工する必要があり、国民はそれを商業的な目的で活用したり販売することができる。同法は10月末から施行される。この法律を裏付けるために8月6日「公共機関の情報公開に関する法律(情報公開法)」の改正案が国会で可決された。今回このような法整備は、政府の情報公開のやり方を「情報をありのまま」、「全過程において」、「国民を中心に」変えるための布石であると言われている。
    今までの情報公開は、国民から請求があった場合、情報を要約したリストを提供し、原文の公開はまたその原文請求があった際に手続きを踏んで行っていた。これからは、請求がなくても公共機関が自ら積極的に情報を公開し、それも初めから原文を公開するという画期的な措置である。原文公開は、情報システムの構築と連携を考慮して来年3月1日から段階的に実施される。昨年31万件にとどまった公開情報が今後、毎年1億件にのぼると推定される。おおよそ300倍以上である。対象機関も既存の政府官庁と自治体に加え、政府の投資機関から、公的委員会、政府の出資・出捐機関までが追加されて約1,700機関に拡がった。

    韓国政府は去る6月19日、パク・クネ大統領や政府関係者らが出席するなかで「政府3.0」のビジョンを公表した。「政府3.0」とは、公共の情報を積極的に公開して行政の高めることと共に、省庁間の縦割り行政を無くし、国民にオーダーメード型のサービスを提供する、また雇用の創出と創造経済を支援する新しい政府のビジョンである。「政府 3.0」は政府の運営方式を国家中心から国民中心に全面的に切り替えることを意味する、とパク大統領は述べた。「政府3.0」はパク大統領の国政哲学の核心である。政府1.0では政府から国民へ一方通行で情報が伝わり、国政運営は政府が中心で効率性を重視した。政府2.0になって情報が政府と国民の間に双方向で流れ、国政運営が国民中心に変わり始めた。それでも情報公開にはいろいろ制限があったり、国民の国政参加は受動的だった。
    「政府 3.0」では双方向の情報疎通に、政府は国民一人ひとりに対してオーダーメード型の情報を提供し、国政運営に国民の能動的な参加を導き出すという。キーワードは「開放、共有、疎通、参加、協力」である。 政府は国民個人の声を聞いて個人の要求を満たす、いわゆるスマート政府を志向する。政府にとって国民はもはや集団としてではなく、個人として存在するという。政府は8月から全国の自治体を回り、「政府3.0」を実践する政策について地方の公務員と議論する会合を開き始めた。自治体はそれぞれ独自の政策課題を発掘して「地方3.0」を推進するという。

    一方、政府の人事の面においても、民間から政府の管理職以上の人材を抜擢する「開放型職位」を課長級で現行の135個から252個にふやすし、政府内の公募で適任者を選抜する「公募職位」は全体定員の10%に義務化する。これは今年の年末から実施される計画である。また、民間そして省庁の組織的な縦割りをなくすために、大学と公共機関、研究機関まで公務員の人事交流を増やすという。
    公共データの全体的な公開で15万人分の新しい雇用が生まれ、24兆ウォン(約2兆1千億円)の経済的な効果があると試算する研究結果が出ている。現在は交通、地理、気象などの公共情報が民間での活用度が高く、この分野で2,260種類が公開されている。2017年まで6,150種類に増える見込で、Open APIで別途提供されるリアルタイム情報は35種から356種になる。既にソウルのバス情報を利用したサービスで40億ウォン(約3億5千万円)近くの実績をあげたベンチャーの事例もいくつかある。ソウル以外には首都圏の京幾道や南部の釜山など27個所の自治体がリアルタイムのバス情報を提供している。スマートフォンで民間の交通情報を活用することで、移動時間の節約など年間 6,175億ウォンにのぼると経済効果を推定した研究結果も出た。また、道路交通情報の活用で混雑をさけることから得られる効果は年間約3兆 6千億ウォンという。これは、全国の交通混雑費用が年間約30兆ウォンと言われているなか、その約10%に当たる。

    政府は「政府3.0」を推進するために今後5年間約2兆 2,800億ウォンの予算を執行する予定である。既存の事業1兆 1,600億ウォンに新規事業の予算が約1兆 1,200億ウォン追加された額で、国家情報化事業の全般に効率化を図り、追加予算を最小化する方針だ。因みに今年の国家情報化事業の全体予算は3兆2,900億ウォンの規模である。
    公共情報の公開には、情報公開法の改訂にもかかわらずいまだに制限がある。同法では、法令上秘密に分類されている情報、国家安保、国民生命•身体の保護、私生活保護、公正な意志決定、裁判、経営•営業上秘密、投機が憂慮される情報などが非公開対象になっている。また個人情報保護法により、個人情報とプライバシーを侵害する恐れがある情報の公開は厳格に禁止されている。
    このような状況の中で保健医療分野での情報をどのように加工してどこまで公開すべきかについて保健福祉部は頭を抱えている。管轄の国民健康保険公団と保険審査評価院などが蓄積しているいわゆるビッグデータは膨大で、研究者らが政府の積極的な情報公開に期待を寄せているからだ。今までこの種のデータは、研究のために提供してもらうのにも相当な難しさを感じて来た。

    政府は個人情報保護のために2017年まで全国100余箇所に「地域拠点支援センター」を設立する計画である。地域の事業者と住民を対象に個人情報保護の教育を実施するほか、これから起業する人に対してコンサルティングとセキュリティソリューションの導入費用を支援する方針である。また、個人情報漏えい事故を事前に防ぐために、個人情報を取り扱う公共機関に対して、「個人情報モニタリングシステム」を稼動して状況をリアルタイムで点検するなど、政府組織全体にわたって新しい法律の適切な運用を監視する体制を整える計画である。
    その他、課題は多いものの、韓国政府の今回のバージョンアップ宣言に国民の期待は高まっている。「政府3.0」 政策が成功裏に定着し、更なるバージョンアップが行われることが期待されている。


 
<寄稿者のプロフィール>
李  中淳(リ・ジュンスン) 氏
東京工業大学 像情報工学研究所 特任准教授
1984年 韓国・延世大学物理学科卒業、1986年 延世大学大学院物理学科修士課程修了後、韓国(株) LG電子入社。東京事務所に出向中に東京工業大学博士課程修了。(財)医療情報システム開発センター、日立コンピュータ機器、(株)INFINITT、NTTコミュニケーションズ、NTT PCコミュニケーションズを経て、2008年5月より現職。 工学博士。