「情報化シンポジウム・イン・大阪」開催報告  
 
IoT、ビッグデータ等を活用した新たなものづくりの方向性を探る〜ファブ施設、オープンイノベーションを通じた新規事業開発と地域の活性化〜
    情報化推進国民会議は去る12月6日、大阪大学中之島センターにて、関西生産性本部、関西情報センター、地域情報化推進機構などとの共催、総務省近畿総合通信局、経済産業省近畿経済産業局、NTT西日本(株) 経営企画部の後援により、「情報化シンポジウム・イン・大阪」を開催した。このシンポジウムは、情報化推進国民会議が毎年全国各地で開催しているシンポジウムの1つで、「IoT、ビッグデータ等を活用した新たなものづくりの方向性を探る〜ファブ施設、オープンイノベーションを通じた新規事業開発と地域の活性化〜」をテーマに、関西圏の各地から110名が参加した。

徳増氏


   はじめに各主催者を代表して関西生産性本部の小宅(おおや)専務理事から開催挨拶があり、引き続き基調講演として、経済産業 製造産業局 参事官 ものづくり政策審議室長 徳増 伸二氏より「ものづくりの現状と今後の課題〜第4次産業革命の実現に向けて〜」と題した講演があった。その中で徳増氏は、政府が最近言っている第4次産業革命では、大きな技術のブレイクスルーが起きており、例えば、ハードウェアの処理性能が指数関数的に進化していること、世界のデータ量が2年ごとに倍増していること、ディープランニング等によりAI技術が非連続的に発展していることがあげられる。こうしたブレイクスルーを通じて、IoT、ビッグデータ、AI、ロボットが進化発展し、これまで不可能と思われていた社会の実現が可能になり、産業構造や就業構造が劇的に変わる可能性が出てきた。コマツはその先進事例の1つであるが、海外では、ネットからリアルへ、リアルからネットへの動きが活発化している。
 こうした動きは、別の見方をすれば、OS、データベース、クラウド基盤等のIT基盤・ソフトウェア企業群やロボット、センサー、制御装置、機械装置等の製造現場・ハードウェア企業群は、今後の利益の源泉が生産最適化、設計・提案支援、遠隔操作、中小企業の共同受注等のソリューションにあるとみて、最大限現場でうまく処理して、単なるものづくりでなくソリューションをつくっていく、そうした分野にいち早くポジションを確保するようなプラットフォーマーになっていくことが重要、と強調した。
 付加価値が「もの」そのものから「サービス」や「ソリューション」へと移る中、日本企業は最先端テクノロジーへの投資は強化しているものの、ビジネスモデル変革への意識や取り組みが弱いので、ものづくりを通じて価値づくりを進める「ものづくり+(プラス)企業」になることが期待される、と述べた。

  竹村氏


   次にパネル討議への導入部として、ファブラボ浜松テイクスペース 代表 竹村 真人氏が「ファブラボの可能性〜機械工作、電子工作からバイオ研究へ」と題して講演した。ファブラボは日本には17か所あるが、世界には約1000か所あり、しかもネットワークでつながっている。レーザーカッター、3Dプリンター、小型CNC、大型CNC、カッティングマシンなどを揃えたラボで、人間に危害を加えるものや道徳に反するものを除いて、個人が楽しみながら、ほぼ何でも作ることで世界を変えていくことをコンセプトとしている。

 ファブラボ浜松では、移動のカフェやかき氷屋に必要な道具を自ら作ったり、木工や溶接なども手掛けて、新しい技術の習得に務めている。メンバーは約20名、協力者が50名ほどいる。また、農業も手掛けていて、田んぼの草を取るアイガモ・ロボット・プロジェクトを行っているが、これはインターネット上でデータを共有しながらのオープンソースで運用している。共有データをコピー、改変しながら、ものづくりに活かしているファブラボだが、それが今バイオラボの方に関心が向いてきている。近年、DNAの配列情報の読み取り、書き出しが飛躍的に進歩してきたが、それに必要なバイオ機材を自分たちで作ろう、としている。しかも、バイオラボもネットワーク化し始めており、バイオアカデミーという場で、バイオセキュリティや実験のノウハウ等を半年間にわたって学ぶこともできるようになっている。

 最後に、日本はルールを守るという素晴らしさがある反面、グレーゾーンにあるのもに対する認識は厳しい、と感じている。個人レベルの趣味やアイデアの中で、ものづくりの99個がダメでも1つ素晴らしいものが生み出せるような、そんな多様性や失敗を認める文化が浜松に根付くことを期待して活動していきたい、と結んだ。

秋吉氏


   続く特別講演では、株式会社VUILD design&management 代表取締役 秋吉 浩気 氏が「最先端デジタル製造技術と日本伝統建築構法の融合を活かして地域課題や社会問題の解決をめざす」と題した講演を行った。秋吉氏は、日本特有の地域資源とは日本の国土の2/3を占める森林、木材である、と考えており、化石燃料と異なり、人の手で数十年単位で生産することのできる「自給自足型の地域資源」であることから、日本の環境が育んできた「木と共生する文化」と、その文化が醸成した「伝統木工技術」を継承することで、活き活きとした未来の暮らしを築くことをめざして活動している。木を扱う、活かす技術は日本で確立していて、匠の技にデジタル技術を載せて進化させていくことで世界と勝負ができる、と考えている。

 木材の加工には誰でも扱うことのできる、安価で高性能の大型木工機械「Shopbot」を使っている。これは、 今や木材加工の世界共通言語になりつつあり、世界に7000台ほどあり、300万円程度で購入できる。国内では、 16か所に導入済みだが、ファブラボ以外のところにも入っていて、工務店は新規の事業や市場の開拓、地方自治体は林業や地域の活性化、大学は新しい人材や知財の創出を目的に導入している。

 皆でデザインして、創って、組み立てて、持ち込んで、使ってみて、遊んでみる、こうしたことがデジタル技術の力でできるようになってきたことを体験してほしいため、VUILDの自社工房を川崎駅近くにオープンさせた。ぜひ足を運んでほしい、とのこと。

倉本氏


 次に、多摩ファビリティ研究所 代表 倉本 義介 氏が、「ものづくりのバリアフリー化〜必要なものを自ら作る文化を」と題して講演した。倉本氏は大学卒業後、各種OA機器やデジタルカメラなどのマニュアル制作をしていたが、2014年に慶應義塾大学の田中浩也先生の「FabLife」を読み、FabLabを知った。 2000年に交通事故で歩行困難な障碍者となったことから、必要な福祉車両などを自ら作りたい、多摩地区にバリアフリーなファブスペースを作りたいと思い、現在の研究所を立ち上げた。社名のファビリティとはファブリケーションとモビリティを組み合わせた造語である。

 2014年ファブラボの世界大会がバルセロナで開催したが、その時に「オープンソース・ヴィーイクル・ワークショップ」のことを知り、ボディを合板にした移動用の新しいスクーターを自分で作ろうとした。自ら設計をし、部品は台湾やネットオークションで調達、切り出しは木工用のCNCミリングマシン「ShopBot」、売っていない部品は3Dプリンターで作り、溶接はファブァボ浜松で、組み立ては自分の事務所で行った。

 こうして、皆さんの協力でスクーターが完成し、今年のファブラボの世界大会(中国・シンセン)で、ついに世界デビューを果たした。3Dプリンターさえあれば、自分に必要なものや入手できないものが作れる。スクーターだけでなく、不自由な指を補完する箸アダプターも作れるし、その際に必要な知識や疑問等はインターネットが補ってくれるので、必要なものは自分で作る文化がこれから更に広まていくことを願っている、と結んだ。

   最後に、「IoT、ビッグデータ等を活かした第4次産業革命実現の条件〜欧米の最先端動向と日本のめざす道〜」 と題した日本経済新聞社 編集委員 関口 和一 氏の講演があった。第4次産業革命では、インターネットがものづくりや自動運転の分野に入ってくるなど、世界を大きく変えていく。その主なものとしては、圧倒的なコンピュータパワーが増大するパラレルコンピューティング、お互いに所有するものを使い回しすることによって経済的価値を高めるシェアリングエコノミー、従来のビジネスモデルをITを使って大きく変革していくデジタルトランスフォーメーションなどがあげられる。

 さらに、インターネットの技術がモノの世界に入ってきたIoTや人工知能、ビッグデータ、人間の脳をコンピュータが上回るシンギュラリティなどが包含されるが、とりわけ人工知能の分野では、グーグル、アマゾン、フェイスブックなど、アメリカのIT企業が有力なプレイヤ―になっていて、日本にはそうしたプレイヤーはいない。シェアリングエコノミーでは、ウーバーやエアビアンドビがネットワークとスマートデバイスを使って、従来のビジネスモデルを大きく変えてしまった。ただ、既存の業界からは反対の動きもあり、それをどう解決していくかが我々に問われている。

 そこで、色々な規制を見直し、各種データが連携できるような環境、文化、しくみ、プロトコルをつくるとともに、、アナログ的なものづくりでなく、グローバルな視野を持った人を育てること、発想の変わった人たちを組み合わせて、ユニークな商品を作れるようにすること、自社技術でなく、外部からいい技術を寄せ集めてより良いものづくりすること、こうしたことを今後の日本はやっていくべきだ、と結んだ。


パネル討議風景

シンポジウム風景


   以上の基調講演、特別講演を受けたパネルディスカッションでは、ファブラボ浜松の竹村氏、株式会社VUILDの秋吉氏、多摩ファビリティ研究所の倉本氏、日本経済新聞の関口氏をメンバーに、地域情報化推進機構の野村副理事長がコーディネーターを務めた。テーマは「IoT、ビッグデータ等を活用した新たなものづくりの方向性を探る〜ファブラボ、オープンイノベーションを通じた新規事業開発と地域の活性化 」

   はじめに、「第4次産業革命の流れに対して、世界は攻めの姿勢、日本は守りの姿勢のように感じている」とのコーディネーターの指摘に対して、関口氏は、日本のアナログ時代の経営者がデジタル革命による新しいパラダイムに適応できずに競争力を落としてしまった。また、デファクトスタンダードの技術は欧米諸国が主導権を握ってしまっているが、日本がIoT革命のところで出張れば、まだチャンスはある、とした。

   それに関連して、竹村氏は、ファブラボの世界でも、同様に欧米諸国が主導権を握っている。また、能力のある人は、自分の才能を発揮しやすいところや住みやすいところへ行ってしまう傾向がある、と語り、秋吉氏は、テスラモーターズが大学の研究機関を超越するような研究開発をしていて、社会的レベルにまで引き上げているように、ベンチャー、ビジネスの文脈で同時に研究もやっていくことが若い人にとってはチャンスになり、スタートアップ企業を始めた人を応援する環境、仕組みがほしい。また、ファブラボやものづくりに携わることと、第4次産業革命との間のギャップを埋めていく活動や機会があると良い、と強調した。

 海外の大学の研究チームは企業から研究投資をして設備を揃えてもらうかわりに、最先端の研究内容をお返しする、という関係性ができていることから、コーディネータの野村氏は、大学の方から発案をして、こちらの土俵に企業を引っ張ってくる手もありではないか、と提案した。また、「今までの話を聞いて、ものづくりの先にサービスモデルがあると思う。日本企業は、相手を活かす発想に乏しく、変革を嫌い 既得権益を守ろうとする。」との発言を受けて、関口氏は、いくらよい技術を開発しても、その技術を使ってどういうビジネスモデルを作るのかが大事だ。海外では大企業とベンチャーの連携がうまくいっているが、日本では大企業とのコラボレーションがうまくいっていない。ベンチャー企業を上から目線で見下すので、ベンチャ―企業を対等なパートナーとしてうまくコラボレーションしていく仕組みを作るべきだ、とした。また、日本では当初はケチをつけていた3Dプリンターが海外で評価されたり、ドローンを危険視して規制をかけるなどしているうちに、海外ではどうやってビジネスに結びつけるかを先に考えていた、と語った。

 倉本氏は、特許を取っても日本ではほとんど問い合わせが来ないが、英国で特許を取ると、すぐ反応があり、買ってもらえることもある。ここが世界との大きな差と思う。障碍者になってみると、今まで気づかなかったところに視点が行くようになり、既にある製品では使い勝手が悪いので、自分の体や障碍の程度に応じた製品を自分で作るようになった、と体験を語った。

 IoT革命はものづくりだけでなく、我々の生活にどのような影響を与えるかについて、 竹村氏は、今手掛けているバイオラボも3Dプリンターやドローンと同様なことが起きてはいるが、地域にファブラボを作ることで、技術の緩衝剤の役割とか、浸透力を高める役割があると思う。実際に3Dプリンターを使ってみると、何の不安もなく作りたいものが作れるので、バイオラボにおいてもセキュリティを意識しつつイノベーションを促進していきたい。浜松は工業都市だが、インフラが弱くて、下請け工場では3DCADを使いこなせない。そうした面でも、中小企業のプラスのなるような活動をしていきたい、と抱負を語った。

 秋吉氏は、これまでの社会では、すくいあげられなかった人たちの欲求を自分たちが実現できるのはすばらしいことで、ファブラボを「人民のR&Dの拠点」として、みんなで一緒に考えて作ったり、一般の人やユーザーとの接点を持てる場所、しかも世界規模の仲間同士でつながる場としてオープンにすることが大事。また、ファブラボで培ったものは既存の企業では活かせないので、ファブラボで学んだ若者が活躍できるチャンスを作ってほしい、と訴えた。

 倉本氏は、若い人や中小企業が製品開発に参画できる喜びは大きくて、ファブラボに匠の技を持った高齢者も集まってほしい。そうすれば、デジタルに詳しい若者へ技術の継承もできるし、若者と高齢者の間の溝を埋めていける、そんなファブラボを作りたい。正に、関口さんの話にあった「匠の世界からナレッジへ」で、そうしていけば日本の強みとなる、と強調した。

 IoTやビッグデータ等を使った社会課題の解決を考えるとき、どのようなことができるのか、について、倉本氏は、人口減少の中で、北海道では鉄道など公共の交通機関が廃止されるものもあり、移動手段をどう代替するかが問題になっている。それゆえ、免許のいらない乗り物が必要になるので、高齢者用のシニアカーの製造を儲からないからといって減らしているメーカーよりはベンチャー企業にチャンスが生まれてくる。また、GPS測位システムをシニアカーにつければ道路の状況がデータとして集積できるメリットも得られる、と。

 秋吉氏は、同じ機材、同じデータを使って、VUILDのデータセンターで管理して、地域の木材を浜松で加工して、倉本さんの様な、必要なものを欲しているユーザーに届ける、という小さなネットワークを作り、それを全国に広げていくことも可能だ。データも作り方もオープンにして、操作も簡単にすれば、いずれは社会課題を自分で解決できる仕組みまで提供できるようになると思う、と語った。

 竹村氏は、ファブラボでプロトタイプのいい製品は個人でも作れるようになったが、その先のいかに売るかについては知らない人が圧倒的に多い。今はコスト等の問題で中国のシンセンで製造するケースがあるが、やはり日本で完結するようになってほしい、と述べた。

 最後に、コーディネーターの野村氏から、ファブラボの3人がコラボレーションすれば、何か新しいことや新しい仕組みができるのではないか、ぜひチャレンジしてほしい、と締めくくった。