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■人的資源管理コラム:大学教職員の評価制度

「第2回 能力主義が機能するための条件」<2011/12/13>

1.等級の見直し
 まず一つ目は、等級数の見直しである。人事院勧告準拠の大学では、国家公務員に準ずる俸給表を使っているために、等級数も公務員にあわせて設定している大学がほとんどである。国家公務員の行政職(一)は、役割や職務をもとに10級(平成22年時点)を設定している。そのため、公務員準拠の大学では、同じく10級程度の等級を設定している大学が多くみられる。しかし、行政職(一)は約1.4万人の職員が対象であり、それなりに仕事や職能に違いがあるために機能する話であって、仮に、事務職員が100名程度の組織の場合、果たして10等級も必要かどうか、よく検討すべきであろう。
 ある程度の等級数を設定することは、昇格しようとする意識をもたせるインセンティブとなりえる。ただ、等級を細かく設定すると、等級ごとの違いを明確に定義できないことや、優秀な若年層がなかなか昇格できない、等級数にあわせて処遇も細分化するため、昇格してもメリハリのある昇格昇給がつきにくいといった問題が生ずる。なによりも等級を細分化することで、等級ごとの評価項目や着眼点の違いが不鮮明になってしまうのである。
 図1は実際に等級制度の改編を行ったコンサルティング事例(事務職員、約80名)である。この大学も、国家公務員準拠の人事制度となっており、改定前は図の左側のように等級数が10等級となっていた。しかし、80人程度の規模の組織で10等級もの等級数を設定しても、実際には全く機能していなかった。少ない人数で一人一人が幅広い業務を分担しているため、等級定義と実際の業務内容は全く合わなくなっていたのである。
 実際に行っている業務内容などのヒアリング調査を行い、実態に即して図の右側のように6等級に改編(等級の大括り)し、等級ごとに等級定義(職能要件)、評価項目および標準滞留年数、ならびに従来明確ではなかった昇格要件を設定した。昇格要件は、基本的には直近3年程度の人事考課結果を重視し、加えて上司推薦で決定することとしているが、一般職層から管理専任職層に昇格する時(V→W)は、管理職層に昇格することの重要性から「節目昇格」として、人事考課結果、上司推薦に加えて、担当業務の課題や改善・改革方策に関する論文および経営層の役員面接を加えた。いずれにせよ、人事院勧告に横並びで等級数を合わせるのではなく、自校の実態に沿った等級数に設定すべきであろう。ちなみに、民間企業では、100〜300人程度の規模以下であれば、おおよそ6等級程度という企業が多いようである。


2.能力評価項目のコンピテンシー化
 二つ目のポイントは能力評価項目の見直しである。評価項目あるいは着眼点が抽象的では、どうしても主観的な評価になりがちであり、評価を育成につなげることも難しくなる。そもそも職能資格制度における、能力(職能)の考え方は、“職務を遂行できる能力“という考え方で設定をされており、抽象的な能力表現となりやすい側面を持っている。こうした問題に対する、一つの解決策としてコンピテンシーという考え方がある。
 1997年に武田薬品工業が日本で初めて“コンピテンシー”という概念で能力を評価する仕組みを採り入れて以後、多くの日本企業でコンピテンシーの導入が進んでいる。では、職務遂行能力とコンピテンシーは何が違うのであろうか。
 図2のように職務遂行能力は職務を出発点として、職務を遂行できる能力として抽出・設定されるが、職務に求められる成果を必ずしも明確に意識して設定されているわけではない。一方、コンピテンシーの考え方は、図のように職務と能力の間に成果が入っている。つまり、職務に求められる成果を出すための能力は何かという観点で設定されたものがコンピテンシーといえる。


 コンピテンシーで能力を設定している大学事例を見ると、例えば「コミュニケーション能力」では、「学生及び教職員とのコミュニケーション能力に優れ、相手の立場や意図を理解し、一方的な指示や対立を避けて、状況に応じたサポートや臨機応変な対応をしている」といった着眼点を設定しており、評価をする際の視点がある程度明確になっている。
 もっとも、実際にはコンピテンシー的な評価をいれても、実際どのくらい成果と直結しているか、確証はない。そのため、ある程度評価結果データが出揃った段階で、成果評価とコンピテンシー評価の整合性を検証しておく必要があろう(*1)。
注(*1):成果評価とコンピテンシー評価の整合性検証については、拙著「健全な大学経営に向けた教職員評価・賃金制度の構築実務」(生産性労働情報センター)、pp..52−57参照頂きたい。

3.評価を育成につなげるための仕組み
 能力評価の課題として、よく指摘される点の一つとして、評価の結果をフィードバックしにくく、そのために評価を育成につなげることができにくいという点がある。評価制度を導入している多くの組織では、図3のように現場における1次評価は絶対評価を行うが、原資管理の観点から相対評価で調整を行うのが一般的である。すると、絶対評価と相対評価に齟齬が生じてくるが、現場の1次評価者としては、あくまで調整の結果である評価結果をフィードバックするだけであって、結果に責任をもてないことになる。そのため、評価が育成につながらなくなるのである。

 この問題を完全に解決するのは難しいが、参考までに、私がある大学に導入した事例を紹介したい(図4)。
 絶対評価から相対評価に調整をする場合、現場の管理職にとって最も悩ましい(つまりは、最もフィードバックしにくいのは)、1次評価でB(標準評価)だったのが最終評価(相対評価)でCとなったというようなケースであろう。この場合、最終評価でCがついた職員の中には、もともと1次評価の段階ですでにCだったという職員と、たまたま調整の結果でCになってしまったという職員が混在していることになる。
 そこで、次のように絶対評価と相対評価を組み合わせて、最終評価を決める方法をとった。まず、C以下、D以下(いずれも標準より低いレベル)の評価となる絶対得点の基準を定めた。これにより絶対評価でBなのに相対評価でCになるといったケースを除外できるようにしたのである。また、この基準となる得点を管理職には公開した。そうすると、もしCやD評価をつけた場合、評価者はこうした評価になることを承知で評価していることになる。つまり、評価者はCやD評価をつける理由が明確なはずであり、フィードバックも可能といえる。この方法により、BとCを絶対評価(絶対得点)で区分した上で、S、A、Bについては相対評価(分布規制)をかけるようにした。同時に、もし仮に、C,Dとなる職員が一人もいなくても、全体の原資が膨らまないように昇給ピッチを修整した。こうした方法も参考にしていただければと思う。



4.おわりに
 大学という組織は、学生を評価することはあっても、自らを評価する仕組みはこれまでほとんど採りいれられなかった。ようやく、近年大学評価や授業評価という取り組みがされているが、まだまだ評価ということ自体に慣れていないのが現状である。そうした中で、例えば「今度、能力主義評価をとりいれる」といっても恐らく多くの職員はピンとこないだろうし、何が変わるのか様子見となるだろう。しかし、もしこれを「能力主義評価による分配システムを採り入れる」と言ったらどうだろう。恐らく、多くの職員はその重要性に気がつくのではないだろうか。そのように言うことで初めて、能力主義を議論する共通のスタートに立てるのである。是非、こうしたことも評価制度を構築する際の参考にしていただきたい。

(日本生産性本部大学人事戦略クラスター上席主任研究員 東狐 貴一)
注 公益社団法人 私学経営研究会「私学経営」(No.437 2011年7月号掲載)


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