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トップページ > 生産性運動 > 「生産性に関する労使協議制の方向」(昭和32年6月4日 日本生産性本部労使協議制特別委員会)


■「生産性に関する労使協議制の方向」
      (昭和32年6月4日 日本生産性本部労使協議制特別委員会)

「生産性に関する労使協議制の方向」

昭和32年6月4日
日本生産性本部労使協議制特別委員会

1.生産性向上への労使協力の基盤
   最近における生産性向上の問題は,ただ量的な生産性の発展だけでなく,技術革新による生産性の質的な向上という意味をもっていると同時に,それは企業利潤増大のみの手段ではなく,国民経済全体の福祉を増大するためのものであることが強く要請されている。ところでこのような意味をもった生産性向上のための諸施策も,それを受け入れる労使の協力なくしては,効果を期待しえないが,生産性向上のための労使協力を可能ならしめる基盤として,次の諸点が考慮されなければならない。

(1) 労使相互の立場の認識
   生産性向上のための諸施策は,労働者にたいする不公正な取扱いをもたらすのではないか,労働組合の基本的立場を脅かすのではないかと不安疑惑を労働者側に与えている。また経営者,労働組合の闘争態度によって,経営の安全が脅かされ,労使協力が労働者の不当な経営干渉を誘うのではないかと懸念する。それゆえ,これらの労使双方の不安,懸念を排除することが重要であるが,それにはまず経営者が企業の社会性を自覚するとともに,労働組合の社会的機能を正しく認識して,その組織を尊重することが必要である。一方労働者もまた国民経済に果たす社会的責任を自覚すると同時に,企業の経済的基盤を無視してはならない。このような基本的立場の相互理解,労使の相互信頼があってこそはじめて生産性向上についての協力が期待される。

(2) 成果の公正な配分
   生産性向上にたいする労働者の大きな疑念の一つは,それによってもたらされる成果が労働者に公正に分配されるかという点にある。生産性向上の成果は企業のみのものでなく,労働者および社会全体のため公正に配分されなけれぱならない。ところで,なにが公正であるか。その基準を一義的に決めることは現実には種々の困難があり,実際問題としては往々にして,労働者への成果の分配は,団体交渉による賃上げという労使の力関係を背景とした事後の処理によることが多い。これから生ずる紛争をふせぐためには,一方において成果の認定をできるだけ客観的にすると同時に,他方において生産性向上を反映する合理的な賃金制度や,特定の利潤分配方式を労使間で,労働協約その他の取決めによって事前に設置することがのぞましい。

(3) 雇用の安定
   労働によって生活を維持する労働者の最大関心事は,なんといっても雇用の安定である。雇用の安定が労使協力に与える影響は大きく,生産性向上が労働者の人減らしであってはならないことはいうまでもない。現実の解雇が,はたして生産性向上のためのものであるか,企業の破綻を救うためのやむをえない措置であるかは,その都度具体的に検討されねぱならぬことであるにしても,少なくとも経営者は,生産性向上のみを目的とした人員整理は行なわないとの安心感を労働者に与えることがのぞましい。

2.生産性に関する労使協議制のあリ方
   生産性向上に関連する労使間の諸問題は複雑,多岐にわたる。すなわち機械化にともなう労働者の配置転換,新しい労働内容に応ずる賃金体系の整備生産性成果の配分など労働者にとっての基本的な重要問題から,作業研究,職業訓練,安全衛生,品質管理など職場内における日常の生産活動を効率的ならしめるための諸事項にまで及ぶのである。
   そこで,これらの諸問題を労使協議によって合理的に処理するためには,つぎのような諸点が考慮されねぱならない。

(1) 各企業の現状に即した労使協議制
   生産性向上に関連する諸事項はその問題の性質や,各企業における従来からの労使の慣行によって,処理の仕方や段階にもかなりの相違がみられるのであろう。
   あらゆる社会制度がそうであるように,労使協議制は労使のおかれた現状を無視して考えられない。生産性向上の問題もそれが行なわれる産業・企業によっては,事情もおおいに異なるであろうし,それを受け入れる労使関係いかんによっては労使協議制の組織や運営にも違いを生じてくるであろう。
   わが国労使関係の現状においては,画一的な労使協議制を押しつけることでなく,それぞれの労使関係に適合した自発的な労使協議制の発展を促進することが最善の策であると考えられる。

(2) 団体交渉と労使協議制
   企業の労使関係いかんによっては,とくに企業の規模が小さく,労使関係を複雑にすることが不適当なところでは,団体交渉と労使協議制の未分化がかえって労使関係安定の好結果を生んでいる事実があるが,一般的には労使協議制の円滑なる運営のためには両者を区分することがのぞましい。
   戦後,急速に普及した経営協議会がその運営において,さほど見るべきものがなかった大きな原因としては,すでに指摘したとおり,団体交渉と労使協議とが混同され,経営協議会が労使きっ抗の場となったことがあげられる。もともと団体交渉事項と労使協議事項とを明確に区分することはむずかしい問題ではあるが,労使協議制は経営に関連して労使相互の理解を深め,意思の疎通をはかることを主眼とするものであるから,生産性向上にともなう諸問題も,それが労働組合本来の活動を制約しないかぎり,できるだけ労使協議の場において検討し合うことがのぞましいといえる。
   従来,労使協議制についてはともすれぱ組合機能を弱化するという疑念がもたれたが,組合が相当に成長した現状においては,労働組合もその自主的立場から生産性に関する労使協議制に積極的に対処すべき段階であるとおもわれる。

(3) 労使協議機関設置の段階
   生産性向上にともなう諸問題は,職場ごとに異なり,企業の生産段階ごとに違った面が出てくる。したがって,労使協議制は,個々の職場から全企業的なものにまで,段階に応じて設けることがのぞましい。しかし労使協議制の目的は,そのかたちではなく,それを通じて実現される労使の意思疎通にある。その理想は,日常職場における労使の接触を通じて,おのずからその目的を達成することである。したがって職制者と労働者との接触範囲の広狭によっては必ずしも形式的な機関の設置を必要としない。一般的にいって職場.職域が拡大して職制者と労働者との日常接触が疎遠となるにしたがって,労使協議制もより非形式的なものからより形体を整えたものへと移らざるをえない。なお,企業の規模の大小に応じて同様のことがいえるわけである。

(4) 専門技術的機関の設置
   生産性向上の諸施策は,多くの場合高度の技術的変革をふくんでいる。したがってこれらの諸施策を理解し協力するにも,またそれらがもたらす種々の労働間題への対策を講ずるにしても,専門的技術的知識を必要とする場合が少なくない。労使代表のたんなる主張の繰り返しに止まらず科学的検討のうえに立った具体的技術を根拠としたものでなけれぱならない。こういう意味で限定された技術的問題を取り扱う専門的機関を設置することがのぞましい。これはとくにわが国における労使関係の現状からして有効な方法である。なぜならぱ生産性向上にともなう具体的問題の所在を客観的に明らかにすることによって,労使間のいたずらな対立を回避し,合理的に問題を解決させる基礎があたえられるからである。
   このような専門的技術的機関は,特定の問題について調査検討することを主眼とし,この機関の決定がそのまま労使を拘束するという運営は,必ずしも好ましくない。そしてえられた結論はそこに明らかにされた問題の性質や各企業の労働の諸慣行にしたがって,ある場合は団体交渉や苦情処理の資料として活用されるであろう。
   企業別組合組織のもとでは,労使協議制には当然経営者の責任ある代表と労働組合の代表が加わることとなるが,場合によっては,組合役員以外の専門的知織をもった従業員が加えられることものぞましい。とくに専門的技術機関にはその任務に適応した知識をもつ者が参加することが必要であり,時には適当な少数の第三者を加えることが好結果をもたらす場合もあろう。

(5) 産業別労使協議制への発展
   今日取り上げられている生産性向上の問題は,企業のみの利益でなく,国民経済全般の発展を目的としている。したがって有効な解決は1企業の範囲内では十分に期待されない場合がある。中小企業ならびに新規産業の場合においてとくにそうである。
   この場合には,労使協議の場は,自然に地域別ないし産業別に発展せざるをえない。かっての労使協議制がけっきよく企業の枠をこえず,産業.国民経済の見地に立って,実現しなかったのは,労使とも企業意識に捉われたこれまでの労使関係や社会経済関係によるものである。
   真に生産性向上の新しい理念を実現するためには,労使とも企業の社会的存在意義を正しく理解するとともに,産業全体あるいは国民経済的見地に立って,問題を考えることの必要が強調されねぱならない。(第1次中間報告書「生産性と労使協議制のあり方」より)

(注)当時の正式名称は「生産性に関する特別委員会」である。昭和31年ll月10日設置され32年6月4日,本報告を決定した。



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