1.生産性向上が遂行せられるについて,それに対する労使の積極的協力関係の確立が必要であることには,何びとも異存はあるまい。ところで,この際に労使協議制が特に提唱される所以のものは「苦しいときの神頼み」としてではなく,(a)そこには,古典的な労使関係上の問題とは全く異なる新しい問題,すなわち,「パイの分配」のみならず,「パイの増大」の問題が発生し,とりわけ後の問題についての労使の自覚的協力的処理が要求せられること,(b)そして,その処理は,労働組合組織を基盤とする労使対等の場における理性的協議によってなされることが妥当かつ必要であると考えられるによる。
2.最近2年間にわたって,多くの部外の資料を総合検討し,あるいは本部の実態調査を含む諸調査を行なった結果を総合すると,
(1) わが国の労使協議制は,工場委員会,経営協議会,生産委員会,生産性会議等の名称をもって,古くから行なわれ,今日では,かなり高い普及度を示し(14, 000,総組合数の37%一1958年),それは,一方で労使の相互理解を深め,無用な紛争を防止し,生産性向上から生ずる諸問題の解決に役立ち,前述の目的のための強い可能性があることを示している。
(2) しかし,他方で,この可能性をさらに強め,かつ高めるという点からすると,それは必ずしも満足的だとはいえず,機構的にも運営上も多くの改善の余地を残し,労使双方ともに若干の混迷や危惧や不満を感じている点も少なくない。
しかし,そういうことをもって,それが正常な労使関係の確立や発展に甚だしい危険を与えると解するのは不当な歪曲である。未熟とはいえ,わが国の労使は,もはやそうした危険からみずからを守りながら,問題を解決しうるほどには成長している。
(3) わが国の労使協議制には,根本的には労使関係の日本的特殊性やその成熟の不完全さや生産性向上問題への認識不足によると思われるが,明確に前進の目標をとらえて構想され運営されているものは,まだ少ない。その多くのものは設置の動機からみると労働運動への防波堤であったり,その突破口たらしめようとしたり,あるいは過度の闘争主義への反省に基づいて,団交の代わりに,従って(企業別)組合の組織をそのままに基盤として設けられ,さらに,それと同時に苦情処理的機能をももたせるものが多い。組合を基盤とし,その背景の上に立つ点はいいけれども,いわぱ団交代用品的性格をその動機として生み,また,その性格を残しているために,新しい使命に対しては,なお以下の点で問題を生む。
- 一般には,普及度が高いにもかかわらず,労働運動の波の来方が遅く,または緩やかな中小企業,ホワイト.カラーの組合では,その設置は,比較的少ない。
- 付議事項は,その動機に基づき,本来団交事項たるべき事項(労働条件―苦情処理を含む)が中心であり,労使協議機関が団交と分離していても,僅かに団交事項についての事前協議的にしか用いられない(それ自体悪いことではない)。従って,例えぱ,前述の目標からすれば不可欠と思われる新技術導入の際の事前協議さえ余り行なわれない。
- 団交を基準とするから,その設置単位は,企業別組合の組織単位と密接して,企業別であり,地域別,産業別あるいは企業内の所要設置単位はほとんど無視され,僅かに苦情処理機構的ピラミット構成が形式的にとられる。
- とりあげる問題が団交事項的であるから,その構成員もその例に従い,会社幹部と組合役員がex officioにこれに当たるのが通例である。従って,たとえ生産性向上関係の事項が付議せられてもすべて抽象化,組織化されるために,それが影響する具体的,個別的な利益グループ(性別,年令別,職種別,職階別,工場別等)の意見を直接に代表する委員の選出はほとんどみられず,専門家が起用されることも少ない,僅かに専門委員会が若干の場合に活用されるにとどまる。
- かくして,協議の方法も,闘争的ではないが,団交的,対立的であるのが通常であり,多数をもって意見の決定を求め,またその合意に直ちに労働協約上の効力を認め,不調の場合には争議調整機関にかけるものが多い。しかし,一方では,闘争主義への反動が強く働きすぎた場合には,平和的であろうとする余りに事無かれ王義に堕し,遂には一方的諮問機関化したものがある。また,他方では,一般に,国交的性格が強い場合も労働条件でなく,生産性向上の問題が付議されるときには,構成員の不勉強も手伝って,一方的諮問的となるものが少なくない。労使が対等の立場で真に協議するというものは,まだ少ないといえる。
- 労使協議制の精神的基盤である労使の責任感に基づく人間的な相互尊重と理解,要するに信頼感は,不充分にしか存在しない。敵対的とはいえぬにしても,冷戦的ないしは武装平和的心理が強い。それは,以上の事実からもいえるし,また労使が労使協議制への意見または希望として,共に相手方が「おとなになること」を望んでいることも,これを裏付ける。
(4) かくて,改善の方向はおのずから明らかである。
- ホワイト.カラー,公務員,公共企業体職員,中小企業等の労使関係で労使協議制は,とくに普及される必要がある。
- 付議事項は整理され,団交(「パイの分配」)との関係を明確にし,生産性向上(「パイの増大」)に関する問題に重点をおく必要があるし,また具体的には,積極的に労使の協力分野を開拓することが努められるぺきである。必要な場合には,生産性委員会等の機構的分化も考慮されうる。そのような機構的運営的整理によって団交と並ぶ労使の意思疎通機関としての,その縦横無尽の活用が期待される。
- 設置の単位について,組合を基盤としながらも,生産性向上問題の具体的発生を考慮して超企業別,あるいは企業内の設置単位にも工夫が行なわれるべきである。
- 構成員についても組合役員を中心としながら,利益グループの具体的意見を直接に代表しうるもの,あるいは専門家の起用が行なわれるべきである。
- 団交的,あるいは諮問的話し合いは排さるべく,団交の場合よりも一層強い誠意によって貫かれた対等の立場における理性的,合理的協議が行なわれるべく,かつ付議事項についての労使双方の充分な準備と説明と検討の仕方には,なお反省の余地が多い。
- 労使協議制を通じて労使双方はもちろん,労使それぞれの陣営内の相互的人間尊重及び理解と信頼とが強められる努力が不可欠である。合意に達した点についての労使それぞれの立場での責任と協力関係,秘密の厳守,委員の選出についての工夫,協議における誠意等は,すべてこの足がかりである。
- しかし,前述のように改善を要する問題点は,何れもその根ざすところ深く,永い慣行の上に立っている。従ってその改善は,徐々に忍耐強く,かつ諸種の要素とにらみ合わせて,慎重に,かつ総合的に行なわれる必要がある。断片的な,徒らに独善的な理想に走った非現実的な,性急な改善は,かえって諸問題点の有機的関係の上に立つ労使協議制そのものを破壊する。それは,改悪以外の何ものをももたらさないであろう。(報告書要約)
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