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■ILOの生産性に関する決議
      (1955年1月 国際労働機構第1回ヨーロッパ地域会議)

ILOの生産性に関する決議

1955年1月
国際労働機構第1回ヨーロッパ地域会議

   国際労働機構の第1回ヨーロッパ地域会議は,ヨーロッパの生活水準と人の福祉の顕著な向上が,生産性の向上の達成と,それにより利益の公平な分配と,さらに全体としての国民所得の分配に依存するものであることを認め,理事会に対し,使用者および労働者とその団体が生産性向上計画に占める役割に関する以下の結論に注意を払うことを要求する。

概 論
1 生産性の向上は,次の諸点を含む全般的な生活水準の引上げの機会を与える。

(a) より低いコストと価格で,より多く消費財と資本財の双方を供給すること。
(b) 実質所得の向上
(c) 労働時間の短縮を含む労働,生活諸条件の改善
(d) 人問生活の経済基礎の全般的強化

2 生産性向上の結果が,より高い生活水準をもたらすことを事実として証明するためには,次の諸点は絶対に重要である。

(a) 労働組合は現在の社会制度のなかにあって自由かつ強力であり,使用者あるいは使用者の組織と対等の立場で団体交渉をする権利が保証されていなければならない。
(b) 生産性を向上するための諸計画は,生産方法の改善によって,労働の効果を高めることを主眼とすべきで,労働を強化するような計画であってはならない。また労働条件の悪化をともなったり労働者の安全と保健を脅かすものであってはならない。
(c) 物資とサーヴィスにたいする需要を十分に高いレベルに維持し,生産性向上が失業を招くことを防止するため,適切な措置がとられなければならない。
(d) 生産性向上がもたらす利益は,資本家と労働者と消費者との間で,公平に分配されなければならない。

3 生産性向上を達成するには,政府と使用者と労働者との側でそれ相当の措置をとることを必要とする。また生産性向上のためには,これら三者はできるだけ緊密な協力態勢をつくり,三者が協議に参加して生産性向上の効果の増大をはかる必要がある。

4 政府は,生産性向上に好適な条件を産み出すため,次の諸項を実行する責任をもっている。すなわち

(a) 均衡ある経済開発計画をたてて,経済の拡大を促進する。
(b) 労使間の協力を促進する。
(c) 個人企業にたいしては,所有権の如何を問わず生産性向上の新しい試みを率先して行なうように奨励する。
(d) 経済,社会政策すなわち海外貿易,資本の形成,事業の制限,配給コストの低減,原料補給確保のための効果的なサーヴィス,保健,住宅,生産性向上技術の科学的あるいは社会学的調査および訓練などに関して適切な政策をたて,これを実行すること。

5 経済組織のあらゆる段階,分野に存在する前近代的企業の能率をいかに増進するかが,生産性向上にあたって緊急を要する問題の一つである。

使用者と使用者団体の役割

6一つの企業の運営を計画,組織,管理するのは経営者の責任であるから,個人の企業の生産性を向上させる場合,その措置をとる責任は主として経営者に存する。その責任を遂行するにあたっては,経営者は人間関係,人事問題,本来技術的な性格を持つ問題,人間性と技術面との双方に関係する組織の問題などをすべて考慮にいれなければならない。

7 使用者団体は,以下の方法で生産性増進に大いに貢献しうる。すなわち

(a) 個々の経営者を激励,援助して,さまざまな分野から生ずる問題に,満足な解決を見いださせる。
(b) 監督制度,職業訓練または当該産業のための事業調査,技術者の訓練などの制度に注意をひくようにする。
(c) 企業間で経験の交換することができるような機会をつくったり,また他の方法でこれを容易にしたりする。
(d) よい結果を生ずる技術があれば,それを広く周知させる。
(e) 生産性向上の基礎となる方法と,この方法の採用される場合に講ぜられるべき安全策についての一般原則に関しては,労働組合と話し合い,意見の一致を見いだすこと。

組織の問題
8一つの企業の組織の欠陥は直接,間接に生産性が伸びるのを阻止することになりうる。換言すれば,不完全な組織は直接的には遅滞と混乱を招き,間接的にはよい人間関係を悪くする原因となり,個々の人間の意欲をくじいて生産性に影響する。生産性を向上させるためには,企業の全体的な組織をよく調べて,命令系統と責任の所在について明瞭に規定しておく必要がある。

人間関係と人事方針の問題
9経営者は,自分の企業内に意思の疎通がよく行なわれるように,一方交通でなく,上り下り二方の情報の通路をつくって,これが有効に活用され,労働者たちが使用者側の計画や方針をできるかぎり知っているように情報を流し,また使用者はいつも労働者側の意見や考え方を知っているようにする責任がある。 このような情報交換が目的とするところは根本的には一つの企業のすべての人員を結合して,その企業の繁栄にたいして,一つの共通な目的と興味とをもつチームとするためである。この目的にどうしたならば一番良く適うかの方法は,各企業の性格や,その複雑な成り立ち方によって,それぞれ異なっているだろう。しかし,生産性を向上させるための方策を計画し,あるいは適用するにあたって,労働者の代表または労働組合が,これに全面参加するということだけは,いかなる産業にも必要欠くべからざることである。

10経営者はつねに先を見て将来に備え,生産性向上が失業の原因とならないことを保証するために,その企業内で能うかぎりの手段をつくす責任がある。また労働者側の代表と協力して,生産性向上の意図をもって新しく試みる技術の改善,その他の変化が,労働者の利益を害することがないように,事前に合理的な保護対策を講じておくことも経営者の責任とみなされる。

11 産業組織の能率化を遂行するにあたっては,すべての段階で,その仕事の関連部門のすべてについて徹底的な訓練を行なうべきである。経営の側に立つ人たちや技術者,監督者にたいしても訓練が必要で,これらの人たちを目的とする,訓練では,

(a) 人間関係に重要な変化があった場合,それは何を意味するかについて徹底的に理解させること。
(b) 生産性向上のため,この人たちの権限で諸技術を適用する場合,技術上懇切に指導を行なうこと。

12 その他,労働者と監督者との関係において,労働者の側でなされている努力を認めること,働く人たちのグループのうちに存する社会的な関係,仕事自体の性格,労働者が得る満足なども,生産性に影響する大切な無形の要因で,経営者は綿密な研究を必要とする。

技術上の問題
13 生産性の向上をはかるにしても,スタイルやモデルの種類を少なくして生産を集中的に行なう場合や,工場設計,肉体的労働条件,作業配置等の改善による場合,または機械化を促進させる場合,とくに材料を取り扱う仕事の機械化の場合は細心の注意を要する。

14 会議は,ヨーロッパの経営者たちが,産業機械技術の問題をはじめ,コストと財政面の管理,生産計画とにきわめて熱心であることを歓迎するものである。適切な保護策さえ併用されれば,技術の向上が生産性向上に貢献できうるところは大きいのである。ゆえに,会議は,この技術にたいする知識を広めることを勧め,この技術がもっとひろく使われるように奨励する。ただ,作業研究は正確な意味での科学ではなく,本質的には,人間の問題であって,単に経営者と労働組合をして,純粋に技術的でない問題の解決を見いだすための一手段としての技術的な方法の問題でしかない。

労働組合と労働者の役割

15労働組合の機能が,その組合員の利益を最大限にまもり,これを高めようとすることはすでに認められている。その結果,労働組合が生産を達成するための計画に参画するということは,経営者の側が,近代の経営技術と産業技術の問題は,労使間の交渉にまつべき問題である,という原則を認めるということに関連する。産業における熟練技術は,単に基本的なものにすぎず,これを補うものは人間関係とか団体交渉の原則である。
近代技術は従来と比べて,労使間の交渉をより以上に必要とすることになる。労働組合は彼らのなかから,よく訓練された人物を代表として出すことによって,新しい技術をどう使うかの原則を協議して決めることができる。

16労働組合がその任務を遂行できるように,組合にはあますところなく情報が与えられなければならず,生産性向上の方法を企画し,これを実行にうつす場合に,彼らが参加できるように機会が与えられなければならず,また与えることは,労働者側に大いなる貢献をなさしめる結果になろう。たとえば,
(a) 生産性向上の結果生ずる種々の変化によって,労働者が悪影響を及ぼされないように,労働組合は経営者と協力して,労働者の権益をまもるための手段を講ずることができる。
(b) この方法に加えるに,教育と説得の力で,組合はその組合員に技術の改善というものの真の姿について認識をもたすことが相当可能で,理屈に適った保護策さえともなっているならば,組合員にも歓迎されるはずである。
労働組合は,かくして生産性向上のための諸計画が真に労働組合の総力をあげての支持と協力を得て実行に移される諸条件を生みいだし,これを持続してゆくうえに,不可欠かつ致命的な役割をとることになる。
(c) 労働組合は,組合員が自己の意見を提案できる機関や,労働委員会その他の労使協議機関に,全面的に参加するよう率先して奨励できる立場になる。
(d) 労働組合は,組合員が十分に技術的な知識をもったうえで,労働技術調査の結果を採用する協議に加わったり,生産性向上の問題や方法と取り組んだりすることができうるし,労働調査の技術,産業技術の方面にも,一般労働者をはじめ職長,組合幹部などの訓練施設を組織することに協力しうるし,また組合自体がその施設を提供することもできる。
  
17生産性の向上から生ずる結果を公平に分配するということは,労働組合または労働者たちの生活にとって重要な問題である。労働者が望むことは,よりよい実質収入を得ること,製品のコストと価格を引き下げること,労働時間を短縮すること,そして社会施設を充実することである。
一国の失業と貧困が,他の国々の繁栄を脅かすものであるから,ヨーロッパの生活水準の低い国々には,賢明な資本投下が行なわれる必要がある。
  
18以上に示されたとおり,考慮される点は広範ではあるが,実際問題としては,ある特定の企業に働く労働者たちは,生産性向上の結果がただちに賃金の上昇と,労働条件の改善という見通しがなければ,その企業内で実施に移される生産性向上運動に協力するものではなく,それを期待するのは無理である。
そこて,生産性向上から生ずる結果の分配方法は,事前に労使が交渉し,協議して合意に達しておく必要があるという,さきの問題にまた戻ってゆく。

ILOの役割

19 ILOは,その権限内の分野で,生産性問題に関係のある他機関の協力を得て,次のとおり生産性の向上に貢献しうる。

(a) ILOが三者構成であるという独特な立場にもとづいて,政府と労使の代表間で一致できる範囲を定義づけ,また,その範囲をできるかぎり拡大するように努める。
(b) 見解と経験とを交換するための話し合いの場を提供する。
(c) 産業全般および特定産業について,次の点を継続的に研究調査する。
(i) 生産性向上問題の種々の面、とくにILOに関係のある面について
(ii) 生産性向上から生ずる利潤が,公平に分配されることを保証する方法
(d) 以上の調査研究の結果や,生産性向上のために,各国で実際にとられている活動に関する情報を,出版物を通じて広く役立たせる。
(e) 生産性向上のために技術援助を要求する国にたいしては,技術援助を直接与えたり,あるいはこれに協力したりする。

会議は,ILOが現在まで各方面において実施した事業が将来も続行され,また,さらに拡張されることを希望する。

20 会議はILOが調査,研究の計画を実施するに際して,つぎの諸点に特別な注意を払うよう要求する。すなわち

(a) 生産性の水準について国際比較ができるように,各国から雇用生産性および賃金などに関する詳細な統計を収集すること,統計はできるかぎり比較の可能なものにすること。
(b) 生産性向上のための方法のうち,方法研究(作業測定を含む),産業技術面で新技術を応用する場合,あるいは生産性向上の方法で労働者や監督者はじめ労使関係の面に直接な衝撃となるもの。
(c) 生産性向上の目的を職業訓練にとりいれる。
(d) 小企業における生産性向上に関する特殊な問題
(e) 生産性の向上と労働者の所得との関係
(f) 労働者にたいし,各企業あるいは産業団体で行なわれている生産性向上に関する心理的あるいは財政的な関心をもたせる諸方法
(g) 生産性と雇用安定の関係
(h) 建設的な労使関係の促進
(i) 各国でとった労働人口の地域的あるいは職業的移動性促進のための諸政策

21 ILOはヨーロッパ以外の多くの国々において,生産性向上のために,それら諸国の政府に技術援助を与えているが,この技術援助から得ている経験を会議はとくに関心をもって注目する。
会議はまたこれと同種の援助が求められた時には,それが拡大技術援助計画のもとにかかれるものであろうと,またはヨーロッパ諸国政府によって組織された他の取極めのもとにおかれるものであろうと,すべて同情をもって考慮されることを希望する。
会議はさらに,ILOの技術的援助活動にたいして,財政面で援助したり,あるいは優秀な専門家を確保するうえでILOの力になったり,先進国の政府が差し伸べている協力や援助を歓迎し,将来もそれがつづけられるばかりでなく,できればさらに拡張されることを希望する。



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