経済の国際化時代を迎え,日本の労使関係制度もまた国際化の影響を免れることはできない。日本生産性本部は,このような情況の変化と,伝統的な日本の労使関係の体質とを併せ考慮し,昭和44年の初頭に当り,あらためて「産業別労使会議」の設置を全国の労使当事者に呼びかけるものである。念願するところは,国際競争の激化と経済構造の変化に対応し,産業段階における労使の相互の社会的責任の喚起と意思疎通を円滑ならしめんとするためにある。労使間の理解と信頼はこれによって,より一層助長されるであろう。
   われわれは,昭和32年,生産性本部内に労使協議制常任委員会(中山伊知郎委員長)を設置し今日までわが国労使関係近代化の方途を調査,研究してきた。この間われわれは,わが国労使関係の特殊事情にかんがみ,労働条件の維持,改善をはかる団体交渉とならんでより一層の労使の意思疎通をはかるため,企業内の労使協議制を提唱した。その結果,企業内労使協議制は急速に普及し,それは労使間の通念となった。
   労使協議の成果は企業内労使関係の安定となり,それは,またわが国経済の発展を支えた一つの要因であった。
   この提唱に先立って,われわれは次の四原則をかかげた。第一に労使協議は主として共通の問題をあつかう。第二は協議制には労使対等の原則が尊重されなけれぱならない。第三に労使協議は労使が平和的に話し合うことを建て前とする。第四は組織自由の原則で,企業内協議のメカニズムは決して固定的ではなく,各レベルにおいて行なわれることが望ましいとの弾力的運営を付言した。
   昭和30年代以降,わが国経済は急速な変革をとげ,産業社会も激変した。貿易の自由化をはじめ資本の自由化まで,経済の国際化は年を追って進み,国際化時代を迎えている。また技術革新の展開,とりわけ,コンピュータリゼーションの進展は著しいものがある。さらに,労働力不足問題がからみ,これをうけて産業界は企業の体質改善,国除競争力強化など産業の再編成にとり組んでいる。
   経済,産業の変化は当然労働運動にも波及し,労働戦線の流動化を中心に,わが国労働組合はあらたな運動の方向を懸命に求めつづけている。
   これら労使双方における変化の結果,登場してきたものは,企業のワクを越えて産業に共通する諸問題を解決していこうとする社会的要請である。労組の産業政策への取り組みは,これを物語るものであるし,産業界がナショナル.インタレストにもとづく産業の再編成に努力するのも,これに応えようとするものにほかならない。
   このような情勢において,企業内労使協議制の実験に成功をおさめた労使は,いまや産業レベルにおける労使協議制の活用,発展に努力する時に当面している。繊維産業にみられる労使会議をはじめ,造船,自動車,電機,金属鉱山,石炭,電力産業などでは,公式,非公式を問わず,労使協議の機運は高まっており,欧米諸国においても,その重要性を認識し,これを推進しようとしている。
   われわれは,これまであらゆる機会に,地域別を含めあらゆるレベルで労使が協議することが肝要であると指摘してきたが,あらためて,内外情勢に対応するため,産業別労使の話し合いの場を設置することを提唱する。その結果と実績の上に国民経済レベルの労使協議も展望されよう。
   産業別労使協議制に期待されるものは,何よりもまず労使双方の相互理解と相互信頼を助長することである。相互信頼と理解の助長は労使関係の成熟につながるものである。
   産業別労使協議制を育成するために,たとえぱ労使双方に共通する経営,生産,雇用,産業政策問題さらに,安全衛生,福利厚生,災害.公害対策などについて産業.業種の実態に即して,労使合意のうえ,協議することが望ましい。企業内協議で掲げた四原則は,産業別労使会議においても,これを準用するものとする。
   問題の出発点は,国際化時代における日本経済の現状認識のいかんにあり,同時に労使関係の近代化をめざす意欲にある。(昭和44年版労使関係白書)
|