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おもてなしのこころ   2008年6月15日号

   この連載のタイトルにある「ハイ・サービス」はあまり聞きなれない言葉と思う。

   サービスのイノベーションや生産性向上に役立つベストプラクティスを「ハイ・サービス日本300選」として表彰することを目的に、平成19年にサービス産業生産性協議会が作った造語である。モノづくりの世界では、革新的技術をハイテクと呼び、これに対応している。

   今回はこの「ハイ・サービス日本300選」の第1回受賞企業に選ばれた加賀屋の取り組みを紹介する。

   あまりにも有名で、多くの人が加賀屋を知っていると思う。

   加賀屋は能登半島の付け根にある和倉温泉の旅館の一つである。創業は明治39年(1906年)で、プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選の総合第一位を長年にわたって守り続けている。年間宿泊者は22万人で、246ある客室は70〜80%の稼働率である。日本人だけでなく、外国人宿泊者も多い。

   それでは加賀屋は、どのようなサービスをどのように提供しているのだろうか。加賀屋のサービスを紹介した本も出版されており、私も雪が降る今年の冬のある日に訪問し、スタッフに直接お話を聞き、現場を見学させていただく機会を得た。

   加賀屋では、サービスの質を高めるために、お客様のことをできるだけ理解しようとする。過去に宿泊されたことがあれば、そのときの記録を見つけ、また予約時のちょっとした会話からも宿泊の目的が分かるときもある。ただこのような方法には限界がある。お客様ともっとも身近に接することのできるのは180名いる客室係であり、客室係はお客様が到着してから、ささいな会話から情況を理解し、やってもらいたいことを気づくようにしている。

   つまり、加賀屋ではサービスの質を高め、お客様に満足していただくために、客室係はお客様のニーズを理解するセンサーの役割を果たしている。そのために、客室係ができるだけ長くお客様と接していられるよう組織運営を行っている。たとえば、部屋を出て食事を取りに行くことは客室係には大きな肉体的負担であり、またお客様の価値につながるサービスでもない。そのために、加賀屋では料理の搬送システムを平成元年に導入したことは有名である。

   また、客室のささいな情報でもスムーズに必要な部署へ伝達するための経路が設定されており、それを速やかに組織的に対応し、データを集中的に管理するようにしている。

   接客は結局のところ働く意欲が重要である。そして、現場で臨機応変に対応できるよう、接客の基本が記された小さなカードの「加賀屋客室係十二訓」を全ての客室係が携行している。

   子どものことが気になっては、集中して接客することができないことから、加賀屋では早朝から深夜まで子どもを預かる保育園「カンガルーハウス」も運営している。

   そして、喜ばれた取り組みやクレームを旅館全体で蓄積し、分析することで、さらに良いサービスを提供できるようにしている。

   このように、加賀屋のサービスの提供方法を見ると、次のようにまとめることができる。

   加賀屋のベストプラクティスのポイント
      (1) サービスを通じた顧客情報収集
      (2) 顧客情報の一元管理
      (3) サービス現場を支える組織とシステム
      (4) 労働環境の整備によるモチベーション高揚

   つまり、客室係をサービスフロントとして、客室係のサービスを通じて「顧客情報」を収集し、それを一元管理することですべての部署が連携し、何百人のスタッフが客室係をサポートしながら、サービスの内容や提供方法を多様なお客様一人ひとりに臨機応変に最適化している。その結果、お客様の高い評価を得て、安くない宿泊料でありながら、繰り返し宿泊に訪れる固定客を多く得ている。また、このような方法で蓄積した旅館業のノウハウを提供するコンサルタント会社も設立し、また接客のノウハウを学ぶ企業研修も行っている。海外進出も進められている。

   次回は私が講演するときにいつも紹介する回転寿司のくらコーポレーションの取り組みを紹介したい。

【筆者略歴】

産業技術総合研究所 サービス工学研究センター 次長 内藤 耕氏

産業技術総合研究所サービス工学研究センター次長
サービス産業生産性協議会科学的工学的アプローチ委員会委員長
金属鉱業事業団、国際協力事業団、世界銀行グループを経て、現職。著書 ・編著に『サービス工学入門』(東京大学出版会)など。

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