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私が講演を行うとき、先進的な事例として必ず紹介しているのが、今回の「くら寿司」である。関西方面では知らない人はいないと思うが、戦前の健康に良い食文化を再現する「食の戦前回帰」という企業理念を持つ。本社が大阪府堺市にあるくらコーポレーションで、回転寿司チェーンを展開している。前回紹介した旅館の加賀屋とともに「ハイ・サービス日本300選」の第1回受賞企業の中の一つである。
最近はその取り組みがテレビや新聞、雑誌でも報道され、その取り組みを知る人も多いと思う。私も実際の店舗で回転寿司を食べながら、つまりサービスを体験しながら、その取り組みについて直接お話をお聞きし、見学する機会を得た。
そもそも回転寿司とは薄利多売、また魚の鮮度管理が非常に難しい大変なビジネスと聞く。しかし、企業理念を実現するために、食の安全や安心に向けた取り組みに積極的に取り組んでいる。
例えば、衛生管理を徹底的に行い、厨房も菌を減らすようドライ環境にしている。回転寿司にとって食材の乾燥が大きな課題である。会社によっては加湿機を使っていると聞いたこともあるが、衛生面を最優先にするため、くら寿司ではあえてドライ環境にしている。
また、口に入るものはすべて無添加にしている。そのため、30〜55分過ぎたところで、機械で確実に廃棄している。そしてこの廃棄率をすべての店舗で集計している。
廃棄率は現在約6%で、ちょっと油断すると7%に上がってしまうとのことである。この低い廃棄率は収益に大きく貢献する一方、それを実現する方法が素晴らしい。
廃棄率を低く抑えるための取り組みは、店舗での顧客の行動計測である。来店したお客さんがどのような属性で、どのような寿司をどのように食べているかを実際の店舗でデータを取得し、分析を行っているのである。
顧客の属性は、来店時に店員が「大人」「小人」の人数を入力して把握する。
通常の回転寿司の場合、食べた寿司の皿を積み上げ、その枚数を数えて会計を行う。どれだけ食べたかが目に見え、そこも一つの楽しみである。
しかし、くら寿司では、それぞれの客席に廃棄口があり、その中では水が流れ、皿の一次洗浄と殺菌を行っている(写真)。皿の裏側にはQRコードがつけられ、会計システムと連動させるだけでなく、結果としてどのような寿司をどのタイミングで食べたのかというデータをあわせて取得できるのである。
またできるだけ早く廃棄口に投入してもらうよう、一定枚数を超えると抽選で景品を当てることができる仕掛けもある。早く投入してもらえば、より正確に飲食履歴が分かるだけでなく、皿の乾燥を回避でき、洗浄も楽になる。
このような方法で顧客のデータを分析した結果、平均4人のグループで来店し、一人約8皿食べ、20〜30分で回転していることが分かってきた。
このデータ分析を踏まえ、実際の店舗では、来店顧客の属性と滞在時間、過去の飲食履歴から、出す寿司を決定し、厨房でレーン上にある寿司のギャップを調理する。
このように、くら寿司では行動データの分析を通じて廃棄率を下げ、収益力の強化につなげている。一方、この取り組みを顧客視点から見れば、常に食べたい寿司がレーンの上にあり、待たずに食べることができ、顧客満足の向上にもつながっている。
このように、店舗運営の効率化と顧客満足の向上の両方を同時に達成しているくら寿司の取り組みを見ると、次のようにまとめることができる。
くら寿司のベストプラクティスのポイント
(1) サービス現場で顧客の行動観測とデータ分析 (2) 調理内容を来店顧客にカスタマイズ
つまり、実際の店舗で、寿司を食べている顧客の属性、滞留時間、飲食履歴を観測し続け、蓄積したデータを分析することで、調理内容を今いる顧客に速やかにカスタマイズしているのである。
次回は、地方の生活鉄道として、新たな取り組みを積極的に行っている福井県の「えちぜん鉄道」について紹介する。
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【筆者略歴】
産業技術総合研究所 サービス工学研究センター 次長 内藤 耕氏
産業技術総合研究所サービス工学研究センター次長 サービス産業生産性協議会科学的工学的アプローチ委員会委員長
金属鉱業事業団、国際協力事業団、世界銀行グループを経て、現職。著書
・編著に『サービス工学入門』(東京大学出版会)など。
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