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サービス提供通じてニーズ把握   2008年7月25日号

   茨城県つくば市と首都圏を結ぶ「つくばエクスプレス」が2005年8月に、また地下鉄の「副都心線」が2008年6月に開業した。鉄道の開業は新しい人の流れを作り、地域を活性化していく。ただこのような開業はむしろ珍しく、特に地方部では、最近は路線の廃止や便数の減少が続いている。

   ここで紹介しようと思うのが、平成12年と平成13年、二度に及ぶ大きな衝突事故で2年半運行が止まり、第三セクターとして平成15年に再開した「えちぜん鉄道」である。地元の福井県では「えち鉄」と親しまれ、様々な取り組みを行い、結果として乗客数を伸ばしている地方の生活鉄道である。

   えちぜん鉄道が運行していないとき、バスが代行したが、そもそもバスは遅れ、多くの人が乗れないこともあり、道路も渋滞し、地域全体がおかしくなった。バスが鉄道の代行にならないことを地元が認識し、強い存続運動が起こり、第三セクターとして再開することが決まった。

   新しいえちぜん鉄道は、「地域共生型サービス企業」を打ち出している。社会の不特定多数の客ではなく、一人ひとりの客と乗員が顔なじみになり、地域における触れ合いを大事にしている。乗客をカスタマーと位置づけ、全ての乗務員、アテンダント、駅務員が顧客接点を担っていると自覚している。

   特にアテンダントはほかの鉄道会社には無い新しい試みである。多くの駅が無人で、また高齢者の割合が高い。沿線に多くの観光地を持つ。したがってアテンダントの仕事は、切符の販売、乗降補助、観光案内などのサービスを乗客に提供することである。

   アテンダント一人ひとりは、どのような人が乗っているのかを知るために、乗客との会話を大事にしている。そして、気づいたことを日報や連絡帳に記し、会社全体で情報共有を図っている。

   その結果、高齢者の乗降の多い駅があれば、すぐに手すりをつけるなど、できることは速やかに行うようにしている。また、鉄道の利便性を高めるために、JRや路線バスとの接続をスムーズにしている。観光客のために、接続バスの時刻表を必ず持ち、また地元で無ければ分からないおいしい食堂や名所、イベント情報の提供も行っている。アテンダントが知らないことを聞かれれば、本部に携帯電話で確認し、回答している。

   このようなことは、アテンダントが日ごろから、どのような人が電車を利用し、何をやろうとしているのかを会話を通じて理解しているからできるのである。つまり、アテンダントの見えない重要な役割は、サービスの提供を通じて、客のニーズを把握することである。そして、乗客の利便性を高め、顧客満足向上のために、会社全体や周辺の企業とともに細かいサービス連携と調整を行い、ニーズに合わせたサービス内容に修正し続けているのである。

   その結果、親は安心して子どもを一人で電車に乗せるようになった。週末の通院やショッピングのための利用者も増えている。また、体が不自由であっても利用でき、これまで家族に自動車で連れて行ってもらった病院に一人で行けるようになった。多くの観光客も利用するようになった。

   このようにアテンダントを通じて吸収した様々な情報を分析することで、これまで認識されていなかったニーズを顕在化することができ、減少し続けていた乗客は増加に転じた。そして、無人駅の花壇の手入れや草刈、ごみ拾いを地元の住民が積極的に行い、地域住民・企業、行政、鉄道が共存共栄できるようになってきた。

   このように、えちぜん鉄道の試みを見ると、次のようにまとめることができる。

   えちぜん鉄道のベストプラクティスのポイント
      (1)一人ひとりの客への関心(顧客から個客へ)
      (2)サービス提供を通じて潜在的ニーズ把握
      (3)事業者間のサービス連携で顧客満足向上

   つまり、アテンダントのサービス提供を通じて、乗客一人ひとりの潜在的なニーズが理解されているのである。そして、そのニーズに従い、様々な事業者間でサービスの内容や提供方法を最適化し、地域全体の魅力を高めるだけでなく、顧客満足も向上し、結果として地域の生活を支えるプラットフォームとしての役割を担うようになった。

   次回は、ビジネスマンの出張者にターゲットを絞り、睡眠にこだわるホテルチェーン「スーパーホテル」を紹介する。

(写真) えちぜん鉄道

【筆者略歴】

産業技術総合研究所 サービス工学研究センター 次長 内藤 耕氏

産業技術総合研究所サービス工学研究センター次長
サービス産業生産性協議会科学的工学的アプローチ委員会委員長
金属鉱業事業団、国際協力事業団、世界銀行グループを経て、現職。著書 ・編著に『サービス工学入門』(東京大学出版会)など。

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