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「たわいのない会話」が重要   2008年9月25日号

   サービスに関わる人であればリッツカールトン大阪を考えたことのない人はいないと思う。書店に行けば、そこのもてなしやサービスについて記した本が多く売られている。

   とにかくこれだけ評価が高いのであればと思い、出張のついでに、朝食だけでもと思い訪ねた。大阪駅からさほど遠くはないが、実は入口が小さく、また中に入ってからは迷路のようになっている。従業員の方に聞き、案内してもらい、やっとのことでレストランに到着できた。朝食をすませ出発しようとしたとき、トイレに行こうとした。しかし、再びその場所が分からず、従業員の方に聞き、そこまで案内してもらうことになった。

   施設の中で、目的地にスムーズにたどり着けない。これはサービスという視点から大きな問題であるが、そこに戦略があり、価値の高いサービスの源がある。このことを2回目に訪問し、話を聞くことで理解した。

   そもそもリッツカールトンは18世紀の邸宅をイメージし設計されている。オフィスではなく、家にお客様を招くというのがコンセプトである。

   したがって家にはない自動ドアを持たない。また、家の中には案内表示もない。自動ドアを設けると、従業員がドアの開閉をやる必要がなくなり、お客様のことが気にならなくなってしまう。また、自宅でトイレの場所を聞かれれば、家人はそこまで案内する。

   この思想がリッツカールトンのサービスの根底にある。まず、お客様に求められてやるサービスは当たり前と考えている。言われる前にニーズに対応する心配りが重要であるが、お客様一人ひとりにサービスを行うには、お客様をとことん知る必要がある。そのためには、会話を通じてお客様のニーズを理解する必要があるのである。つまり、お客様が従業員に声をかけ、たわいのない話をする行為は、リッツカールトンにとっては非常に重要なのである。

   この顧客接点での会話を通じて従業員がお客様を理解し、それを皆で蓄積と共有を図り、次に行うべきサービスを常に考えている。フロント周辺にいる従業員は常にイヤホンとマイクが一体になった機器を持ち歩き、情報交換を行い、従業員間で連携できるようにしている。またお客様のニーズはデータベースで蓄積され、次に宿泊されるときのサービスに活用される。

   このようにして、ドアマン、フロントマン、ベルマン、コンシェルジュ、レストラン、客室係など、お客様に提供されるサービスが、お客様一人ひとりに合わせて最適に接続され、最終的にパーソナル・サービスが実現されている。

   このようなサービスを通じて、お客様の高い支持を受けている。あまり知られていないが、通常10%のサービス料が、リッツカールトンの場合13%であるが、非常に高い客室稼働率を維持している。

   リッツカールトンのサービスで必ず紹介されるのが、理念と行動指針を記した「クレド」である。しかし、このクレドを頂点として築かれている一貫したシステムが素晴らしいことが分かっていただけたと思う。

   このようにリッツカールトンのサービスの極意を見てくると、次のようにまとめることができる。

   リッツカールトン大阪のベストプラクティスのポイント
   (1) 顧客接点の意識的形成
   (2) 会話を通じて顧客データの収集
   (3) データの蓄積と共有
   (4) 顧客起点でサービス接続

   つまり、顧客接点を意識的につくり、そこで行われる会話を通じてお客様を理解し、モジュール化された様々なサービスを顧客起点で接続し、一人ひとりに合わせた価値の高いサービスを提供しているのである。その後もリッツカールトンを訪ねる機会があり、とうとう宿泊し、そのサービスを体験できた。やはり素晴らしかった。

   次回は城崎温泉のサービスについて紹介したい。

(写真) リッツカールトン

【筆者略歴】

産業技術総合研究所 サービス工学研究センター 次長 内藤 耕氏

産業技術総合研究所サービス工学研究センター次長
サービス産業生産性協議会科学的工学的アプローチ委員会委員長
金属鉱業事業団、国際協力事業団、世界銀行グループを経て、現職。著書 ・編著に『サービス工学入門』(東京大学出版会)など。

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