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違法となる退職勧奨の基準   2006年11月5日号

●「自由な意思決定が妨げられる状況であったか否か」

   知合いの個別労働紛争の相談員が、ここ1年で賃金不払や解雇の相談件数が減少してきていると話していた。どうやら、景気回復が中小企業や個別労働紛争にも影響を及ぼし始めているようである。相談内容にも変化があるという。退職勧奨、いじめや、嫌がらせは、不況とリストラを背景としていたが、最近は逆の「退職させて貰えない」といった相談が増えているという。

   とはいえ、退職勧奨は、何もリストラや希望退職の代替手段ばかりでなく、成績不良の社員を解雇する普通解雇や懲戒解雇の代替手段としても広がりを見せている。今回は、退職勧奨を急ぐ余り、違法な退職強要となり、慰謝料の支払を命じられた事例を取り上げ、どのような行為が違法となるのかを考えてみたい。

●5カ月間に13回に及ぶ執拗な退職勧奨〜下関商業高校事件〜

   希望退職を募集するが、相手が応じてこない場合に退職勧奨を行うことがしばしばある。

   希望退職も退職勧奨もどちらも合意解約の申し入れだが、どちらからの解約の申し入れかが異なる。労働者が希望退職を申し出て、使用者が承諾すれば、合意解約が成立する。
 
   退職勧奨を行う場合、使用者が労働者に畏怖心を生じせしめるような、社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないし執拗な退職勧奨を繰り返せば、かかる行為が不法行為を構成し、損害賠償責任を求められる。
 
   本件は、市教委が高校教諭に対して5カ月間に11〜13回の出頭を命じて、1〜4名の担当が1回につき短いときでも20分、長いときには2時間15分にわたって、「あなたが辞めたら2〜3人雇えますよ」とか、退職と職場要求を絡めたり、研究レポートの提出を求めたり、市教委への配転を示唆するなどをした行為に対して、教諭側が退職を強要され精神的損害を被ったとして損害賠償を請求した事例である。
 
●慫慂(しょうよう)する限度を超え、心理的圧力を強要
 
   一審判決は、「本件退職勧奨は、その本来の目的である被勧奨者の自発的な退職意思の形成を慫慂(しょうよう)(「勧める」の意。筆者)する限度を超え、心理的圧力を強要したものと認めるのが相当」とし損害賠償を認め、二審判決も一審の判断を一部修正のうえ結論を維持した。最高裁は、「原審の判断は、是認しえないものではなく、その過程に所論の違法はない」として、2名の反対意見を付記し、地教委の上告を棄却した。(下関商業高校事件【最小1判昭55・7・10】)
 
   退職強要の違法性の基準は、「全体として被勧奨者の自由な意思決定が妨げられる状況であったか否かを総合的に勘案する」と述べている。教育現場での退職に関し「自由な意思決定」を改めて確認した判決。当たり前のことが、いかに難しいことなのか考える材料としたい。

【筆者略歴】

社会保険労務士 加納明夫氏

加納人事労務研究所所長。主な著書に、「小さな会社の総務・経理・労務の仕事」(ぱる出版監修)、「中小企業のための公的助成金大活用ガイド」(ぱる出版)、「特集『パートタイマーと退職金制度』調査」(中退共)共著。
事務所ホームページhttp://members.ld.infoseek.co.jp/kano_roumu/

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