




|
 |
|
助け合いの心を育てる―職場の人間関係の再構築 2007年10月15日号
|
ストレスから人を救うのも良い人間関係
心の病気が増加している。その予防や早期発見・対応策として、多くの企業がラインケアに重点を置き社員研修に力を入れている。
研修内容として、心の病気の知識、ストレスマネジメント、早期発見のためのサインの見分け方、適正な対応の仕方、話の聴き方としてリスナー研修(傾聴訓練)などを積極的に行い、心の病気の予防に努めている。
しかし、心の病気の予防は、研修を通したメンタルヘルスの知識や傾聴訓練などで果たして十分だろうか。予防策は知識教育に留まり、ただかけ声だけに終わっていることはないだろうか。
近年、職場の人間関係の希薄化、職場で次第に信頼関係が失われ、社員同士の助け合いの心が次第に少なくなってきていることが報告され、それがメンタルヘルス不調者の増加原因の一つとしてあげられている。(社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所2007)。
そこで、増加の一途をたどる心の病気に対し、これまでの不調者対応から今後は本質的な対応策が求められる段階に入ってきたといえよう。すなわち、その対策の一つとは、「心のコミュニケーション」を通して「信頼」に基づく職場の風土や人間関係を再構築し、社員同士が職場で「支えあい・助け合う関係」を築くことである。こうした職場の人間関係における「仲間意識」と互いの「安心と信頼の絆」を取り戻すことにより、心の病気を予防することは本質的な対策の一つとなると考える。
ある取り組みを行った企業の事例をあげよう。アルプス電気という会社がある。海外拠点を含め、約4万5000人の社員を抱える企業である。アルプス電気は2006年10月、千葉の幕張メッセで、全社をあげて大運動会を開催した。運動会には20カ国の海外拠点からの社員330人の参加を含め、日本各地の事業所から遠路何台ものバスを連ねて参加した社員を合わせ、3300人の大運動会になった。
この運動会では各事業所、部署別の競技がにぎやかに繰り広げられ、それぞれのチームが一丸となって仲間の応援に大いに盛りあがった。運動会に向けて各地の事業所は、参加する種目の優勝を狙って、数カ月前から仕事が終わった後グランドに集合し、何度も熱心に練習を重ねた。
このように運動会への準備を事業所をあげて若者を中心に熱心に取り組み、職場の仲間同士助け合い、支えながら練習することによってチームワークを作り上げた。そして、当日は事業所の仲間を一丸となって応援することを通して、職場の仲間づくりや助け合い・支えあう心の絆作りを実践する試みを運動会を通して行った。
アルプス電気はこうした行事を再度、現代に復活させることにより、社員同士の絆や仲間意識を再構築し、社員の一体感を醸成することを試みた。この試みが社員のモチベーションを向上させ、心の病気の予防に直接機能するかどうかは今後の経過を見なければ明確化されないが、今後も継続する中で、将来何らかの大切な効果や意味がもたらされることが予測される。
成果主義、過重労働により、誰もが常にストレスに苦しんでいる。急激なIT化の中で対面コミュニケーションが失われ、仲間の変化も直接うかがい知ることが困難になった。社員は個別に一人で仕事を抱え悩んでいる。まるで誰もが自転車を必死に漕ぎ、疲れて足を止めればすぐに倒れてしまうような厳しい労働を強いられている。
こうした労働環境だからこそ、弱音や苦しい気持ちなどをありのまま話し合い、聴きあえる仲間が職場に必要である。多くのストレスは人間関係から生じることも多いが、ストレスから人を救ってくれるのも良い人間関係である。IT時代、厳しい成果主義の時代に、支えあい・助け合う仲間、信頼できる人間関係をどのように再構築するかが、今、職場に問われている。
|
【筆者略歴】
法政大学キャリアデザイン学部教授 宮城まり子氏
臨床心理士。専門は臨床心理学、キャリアカウンセリング、生涯発達心理学、産業心理学。日本産業カウンセリング学会常任理事、キャリアデザイン学会理事。著書・論文多数。
|
|