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「自ら人が育つ」職場になっているか   2007年10月25日号

認め合い、達成感を味わえる職場づくり

   若者の早期離職問題がどこの企業でも課題となっている。原因は何か。その早期離職に関する複数の原因の一つとして上司の問題もあるのではないだろうか。上司は若者に何よりも最も大きな影響を与える職場の環境要因である。若い社員は組織の中で良い上司との出会いの中で育つ。良い上司に恵まれた社員は、本当に「運がいい」とも言える。しかし、単に「運がよい」「運が悪かった」で済まされる問題だろうか。決して、上司に「アタリ」「ハズレ」があってはならない。

   本来、人は「育てる」というよりも、良い上司との出会い、良い職場環境の中で、自ずから「育つ」ものである。要するに大切なことは、こうした「人が育つ職場環境」になっているかどうかである。若者の早期離職、心の病気の発症の増加を見るにつけ、人が育つ環境要因としてうまく機能していない上司像が浮かんでくる。

   若者にとって、上司は組織における将来のキャリアモデルであり、有能なモデルのもとで仕事の進め方、問題の処理の仕方、リーダーシップの取り方を観察・模倣し、そっと盗みながら次第に学習し、そして人は自ら育っていく。若い人に仕事の面白み、仕事の楽しさ、辛いけどやり遂げた時の達成感、充実感を実際に仕事を通して味わせることができるかどうかは、上司の力にかかっているといっても過言ではないだろう。そして、若者が「いつか将来自分が上司になれたなら、私の上司のようになりたい」と思わせるような上司であるか。

   人の成長・発達の多くの部分は身近な人の行動観察学習、そして実際の経験を通した行動・体験学習からなる。家庭での子育て、子どもの成長・発達も然りである。若者の話を聞くと、彼らは相当シビアに上司を観察している。仕事上の管理監督者としてだけではなく、1人の人間としての「人間力」のレベル、「人間的魅力」などに関しても厳しく査定している。

   そして、若者の中には次のように言って会社を去っていく者もいる。「この会社でこれから、10年、20年働いたとしても、あの程度の人間にしかなれないとしたら、この会社に希望や夢をもてない」。いかに、上司に対する失望や落胆が大きいかを示している。

   自分が直接上司から怒られたのではなくても、イライラを抑えられない上司から身近な先輩、同僚が感情的に大声で怒鳴られ、罵倒され、人格を傷つけられるような言葉を投げつけられる場面を体験するだけで、若者はビクツキ、嫌気がさし、仕事へ動機づけられなくなる。

   ストレスの溜(た)まった上司からの暴言に傷つき、いつまでも「心の傷」を引きずる若者もいる。こうしたことが日常茶飯事となっている場合には、そこの職場風土はすでに劣化しているといえる。そして、ある調査では「将来管理職になりたいか」という問いに対して、54%の社員が「NO」と回答している例もある。

   こうした職場環境からは、上下の信頼関係は育たない。採用した若者が定着し、かつ成果をあげる職場づくりのためには、職場の人間同士が信頼に基づく「心の絆」を形成できることが必要である。問題は暴言を吐き部下に心の傷を負わせている上司側は、こうした行為を無意識に行っており、それに気づいていないことである。

   上司自身も「オレだって、生き残ることに精一杯なんだよ」と思いつめている厳しい状況も存在しており、こうした問題は必ずしも単純ではない。しかし、パワハラを受けたことがある部下の調査結果は次のようである(日経BP社、2004)。

   パワハラの原因として@上司の人格、感情の問題であるA上司の無知、が上位にあげられている。そして、これらは部下のパフォーマンスを明らかに低下させる原因となっている。

   もともと、働く意欲と仕事に夢をもち入社した若者たちも、気がつくと既にやる気は萎え、意欲を喪失し、ある日うなだれて職場を去っていく。また、会社には一応やっては来るが、意欲もなくローパフォーマーに留(とど)まっている人たちも増加している。

   心の安心を得られる「安全基地」として機能する職場、何でもありのまま話し合えるオープンコミュニケーションができる職場、チームで成果を分かち合い、互いに認め合い達成感を味わえる職場づくり、そして、「自ら人が育つ」職場づくりが求められている。

【筆者略歴】

法政大学キャリアデザイン学部教授 宮城まり子氏

臨床心理士。専門は臨床心理学、キャリアカウンセリング、生涯発達心理学、産業心理学。日本産業カウンセリング学会常任理事、キャリアデザイン学会理事。著書・論文多数。

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