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互いに共有しあい、共通性を築く
「職場のコミュニケーションは大切」というと、皆さんは「何を、いまさら」と思うであろう。ほとんどの人がその重要性を当然のこととして認識している。
しかし、本気でやっているだろうか。その意味を認識し職場で具体的に日々実践している人はどれだけいるだろうか。いや、職場だけではない。夫と妻、親と子など家庭でのコミュニケーションもまた同様である。「分かっちゃいるんだけどね」というのがよくある反応。しかし、「分かっちゃいるけどね」に留(とど)まっている限り、どれ程多くの問題が職場や家庭で発生する要因になっているか、改めて考える必要があるだろう。
例えば、ある調査では「定年後は夫婦で旅行をしたい」と望んでいる夫は80%、これに対し妻は20%。このギャップについて愕然とする男性も多いことだろう。これまで仕事にのめり込み、「分かっちゃいるけど」と、夫婦の心のコミュニケーションを大切にしてこなかったことの当然の結果だともいえないだろうか。
コミュニケーション(communication)の語源はコモン(common)である。相互に「共有しあい、共通性を築く」という意味がある。話し合いを通して情報・意思・気持ちを交換し、互いに「共有しあい、共通性を築くこと」である。コミュニケーションでは、特に「心の共有」「共感」が欠かせない。言葉の陰に隠れている相手の心に耳を傾け、「心を理解し、共有すること」である。
とかくビジネス現場では「事実」や「結果」にもっぱら重点を置き、人が何を思い、何を感じ、何を願っているかを理解することはなおざりにされがちである。しかし、相手の真のニーズはむしろ「心の理解」にある。
例えば、障害を克服して目標を達成できた(喜び、誇らしさ)、予想外の障害が発生し目標が未達成に終わった(落胆、悔しさ)、顧客が勝手に誤解したために強いクレームが発生した(驚き、焦り)などである。すなわち分かって欲しいのは、そこで味わっている感情である。そこを掌握できるかどうか、そして事実とともに「あなたの気持ち、よく分かったよ」とフィードバックできるかどうかが大切である。部下の気持ちも分からないような上司に、信頼関係を形成することは難しい。
すなわち、効果的なコミュニケーションとは、言葉の奥にある心の動きを理解することによって相手の心をつかむことができるかどうかである。
しかし、「でも、心は見えないから、心の理解は難しい」とおっしゃるかもしれない。心は本当に見えないのだろうか、否である。人は何らかの形で心を外に表現しているものである。相手(周囲)、仕事に対する態度、具体的な行動、発する言葉と言い方、顔の表情(特に目、視線)などは如実に心を語っている。
コミュニケーションはまず何よりも相手に「関心をもつ」ことから始まる。無関心からは何も生まれない。相手に関心をもつことによって、それは次に相手を「観る」行為につながる。よく観察しているからこそ、相手の変化にすばやく気づくことができる。
そして、「疲れているようだけど大丈夫?」「どうかしたの?」と「声をかける」こともできる。声をかけられた相手は「話す」。そしたら、すばやく自分は「聴く」側にまわるのである。このように「関心―観察―声をかける―話す―聴く」の一連の流れのなかでコミュニケーションは展開する。上司と部下のコミュニケーションに限らず、顧客とのコミュニケーション、家族とのコミュニケーションの流れも同様である。
上司は一方的に指示・命令をするのではなく、「良い聴き手」になることが求められている。しかし、部下の話を聴くためには「待っている」だけではだめである。部下に関心をもち、絶えず観察し、自分から声を積極的にかけ、部下に話すチャンスを自分から与えることだ。そして、部下が口を開いたら、上司は聴く。
このように「聴くチャンス」はむしろ自分から創り、コミュニケーション・チャンスを部下に意図的に与える。聴くことを通して、何よりも部下が今何を思い、何を感じ、何を悩みながら職務を遂行しているのかを少しでも理解できる。上司は「この際、何かいいことを言ってやろう」と色気を出したり、自己満足に陥らないように注意しなければならない。
メール・コミュニケーションに代表されるIT時代の今だからこそ、職場や家庭での「ハイテク・アンド・ハイタッチ」、心の共有を大切にしあうコミュニケーションが改めて求められている。
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【筆者略歴】
法政大学キャリアデザイン学部教授 宮城まり子氏
臨床心理士。専門は臨床心理学、キャリアカウンセリング、生涯発達心理学、産業心理学。日本産業カウンセリング学会常任理事、キャリアデザイン学会理事。著書・論文多数。
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