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不可欠な経営層の理解   2008年10月15日号

   メンタルヘルスの問題を解決するには、現場で起きている個別事例に対応するだけでは不十分です。例えば、就業規則の整備や、事例対応のマニュアル作り、マニュアルの周知徹底、管理者教育、各現場での相談体制作りや健康管理体制の充実など、もっと大きな枠組みへの働きかけが必要になることもあります。

   こうした問題に取り組むには経営層の理解と協力が不可欠です。なぜなら、新しいやり方を導入しようとすると、必ず現在のやり方と衝突するからです。経営層の理解と後押しを得ておくことは、関連部門の理解と協力を得る上で、とても重要な鍵になります。

   では、どのようにすれば経営層の理解が得られるのでしょうか。これまで、メンタルヘルス対策の重要性を訴えるために、健康指標を数値化したり、有名な判例を引用したり、モチベーションや生産性を強調したり、さまざまな手法が用いられてきました。しかし残念なことに、今のところ、これといった決め台詞はないようです。

   そもそも、健康管理の担当者が経営層と直接対話できる企業は少数です。また、社内の意見よりも、社外の専門家の意見や、他企業のベンチマーク結果などのほうが理解を得られやすいという傾向もあります。経営層にアプローチするには、産業医や研修講師、EAP機関など外部の影響力を利用しながら、上司、さらにその上司と、地道に理解を取り付けていくしかありません。

   もうひとつ、メンタルヘルスの問題に取り組む際には、社内の基本的な健康管理の体制が整っているかどうか、あわせて見直すことも大切です。「身体の健康管理ができないうちに、心の健康管理などできるはずがない」という言葉もあります。身体の健康問題にも、心の健康問題にも、同じように対応できる共通の仕組みを整える必要があるのです。

    健康管理や安全衛生の問題は、近年、急速にその領域を広げています。例えば、新型インフルエンザ対策、海外赴任者の健康管理、長時間労働の対策、人材育成、新入社員の教育、管理者の教育、化学物質の有害性調査など、関連部門と協力して対応にあたる場面も増えています。

    このような状況においては「健康管理の基本理念」が明文化されていることが、いっそう重要な意味を持ちます。例えば「従業員の安全と健康はすべてに優先する」「従業員の健康は重要な根幹資源である」「健康は自分で守るものである。会社は従業員の健康管理を支援する」というような健康管理の基本理念を定めておくと、さまざまな場面での判断基準が明確になり、他部門との方針の共有や意見の調整が容易になるのです。

    健康管理の基本理念を策定するということは、そのプロセス自体が、経営層の理解を取り付けることに他なりません。それは時間のかかる作業ですし、メンタルヘルス対策は一足飛びに進むものでもありません。しかし、経営層と現場の理解を得るべく努力しながら、地道に、戦略的に、計画的にメンタルヘルス対策に取り組んでいくことが、従業員の健康の維持増進や、働きやすい快適な職場作り、ひいては企業の継続的な発展に寄与できるものと信じています。

【筆者略歴】

中外製薬 統括産業医 難波克行氏

99年岡山大医卒。内科医を経て産業医資格を取得し、05年岡山大学大学院博士課程修了。精密機器メーカー産業医を経て、08年から現職。 ブログ「ELECTRIC DOC.」 http://e-doc.no-ip.com/

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