健全な情報社会をめざして
 情報化レビュー・電子版
 第197号

▲ 第197号 目次
◆ 海外IT事情
▲ IT業界動向
▼ トピックス
▼ご意見、ご感想はこちらまでお寄せ下さい
韓国IT事情 第17回
 
「韓国のスマートグリッド計画」 

    この夏、韓国では猛暑が続いたため電力の不足に陥り、供給予備率が一時4%前後まで下がったことがある。去年9月、電力需要の読み誤りから突如起きた大規模な停電を経験しただけに、今夏の電力不足問題で韓国社会は大きく揺れた。電力の供給が需要の伸びになかなか追いつかない中、エネルギーの97%を輸入に頼る分、発電費用の負担は大きい。また、韓国は全体エネルギーの83%、電力供給の70%を化石燃料で賄う世界第10位の二酸化炭素排出国である。
    このようなエネルギー難と電力需給の問題を緩和すると共に、低炭素社会を実現するため国が注目しているのがスマートグリッド(Smart Grid)である。スマートグリッドは、電力の消費過程が発電-送電-配電-販売の段階へと一方向に行われた既存の電力網(Grid)に情報技術(Smart)を組み合わせて、供給者と消費者が双方向でリアルタイムに電力情報を交換することで、エネルギーの効率を最適化する「知能型電力網」である。エネルギーとIT技術を融合することを通じて、電力網の信頼性、効率性、安全性を向上させること、電気自動車の充電を知能化し、再生エネルギーと電力系統の連係を容易にして再生エネルギーの普及を促進することが期待されている。

    韓国でのスマートグリッドは2004年政府の「電力IT(知能型電力網)推進総合対策」から端を発したと言える。当時、産・学・研の連携で電力システムの要素技術の開発が始まり、翌年から国策の課題として発電、送配電、利用者を結ぶ電力ネットワークの知能化の研究が行われた。スマートグリッドの本格的な取り組みは、2008年「グリーンエネルギー産業の発展戦略」にスマートグリッドを課題として盛り込んだこと以降といえる。日本や欧米と比べて後れを取ったものの、国家8大新成長動力事業の一つとして早いスピードで事業が進み、2009年 7月 G8首脳会議ではイタリアと共にスマートグリッド技術の開発で先頭に立つ国として選ばれた。
   現在のスマートグリッド事業は、2010年初発表の「スマートグリッド国家ロードマップ」に示された計画に基づいている。このロードマップは、今まで個別事業を中心に推進してきた様々なスマートグリッド関連のプロジェクトを国家全体の総合的な計画に取り入れ、法制度の改善や事業者に対するインセンティブなどを含む政策の方向性を示すものである。これには、2020年まで広域圏単位のスマートグリッドの構築を完了し、2030年まで世界初で国家単位のスマートグリッドを構築する目標が掲げられた。
   これを実現するため、知能型電力網、知能型消費者、知能型輸送、知能型再生エネルギー、知能型サービスなどの5大分野における技術開発の計画とビジネスモデルが段階別に提示されている。また、スマートグリッドを輸出戦略産業として育成する計画と、事業全体を法制度の面で支援するため「スマートグリッド特別法」の制定も含まれている。2030年まで「スマートグリッド国家ロードマップ」を推進するには、27.5兆ウォン(約1.9兆円、1円=14.4ウォン換算)規模の予算が必要とされる。その中で政府の分担額10%は、主に初期段階での核心技術開発と新市場創造での支援、公共インフラ構築の支援に使われる計画だ。政府は技術開発の推移と市場の成熟度を見ながら、民間中心の事業になるよう誘導する構えである。

   2011年5月「知能型電力網の構築および利用促進に関する法律(知能型電力網法)」が制定、11月から施行された。この法律には、政府がスマートグリッド事業の促進のため5年ごとに計画を立てて、実行するように規定している。基本計画には、中長期政策目標と方向、技術の開発・実証・普及拡大・運営利用、標準化、産業振興の方案、投資、専門人材養成、海外進出、国際協力、情報保護と安全性確保、制度改善など、スマートグリッドの構築と利用促進のための全般的な事項を取り入れるようになる。
   今年7月18日知識経済部は、知能型電力網法に基づいて「第一次知能型電力網基本計画」(スマートグリッド基本計画)を発表した。政府は、これまで推進してきたスマートグリッド国家戦略で制度的な基盤が用意され、済州道(チェジュド)の実証団地の造成などで技術の検証がなされたと見た。これをベースに、国家ロードマップに沿って、スマートグリッドのインフラを普及拡大することで初期市場を創造する計画に乗り出した。今年から2016年まで「7大広域圏別スマートグリッド拠点都市の構築事業」を推進して事業者を育てるということである。この計画では、サービス部門、消費者部門、運送部門、送配電網部門、新再生エネルギー部門の5つに分けて次のような目標がされている。

   1. 知能型需要管理で、2016年までに火力発電所2基規模(120万kW)の電力節減を達成する。需要管理とは、電気の使用を分散することで、ピーク時の最大使用電力を一定レベル以下に維持することである。政府は、時間帯別で電力消費量を効率よく管理する仕組みを広げることで、電力の需要により価格が変動するリアルタイム料金制や需要反応プログラム(DPR; Demand Response)の導入を検討している。これと共に、需要反応運営システムを開発して需要反応管理サービスを提供する事業者を育成する。今年の需要管理の目標は5万kW(2万5千世帯分)である。

   2. スマートメーター(AMI;Advanced Metering Infrastructure)の普及率50%を達成する。2016年まで全国の高電圧と低電圧顧客の50%に該当する945万戸にAMIを段階的に普及する目標で、特に電力消費量が多い工場やビル、商店街を中心にAMIパッケージの普及事業を推進する。遠隔検針・統合検針(電気・ガス・熱など)、スマートフォンによる電力使用量の確認、スマート家電機器の普及、季節と時間別の料金制導入で知能型需要管理への参加を促す計画である。次世代融合型AMIシステム、スマート家電の連係技術、エネルギー管理システム(EMS)、エネルギー貯蔵システム(ESS)などの技術開発にも力を注ぐ。

   3. 公共部門から電気自動車の充電インフラを拡充して、2016年まで充電設備15万台を設置する。また、充電インフラの管理情報システムを運用して全国の充電電力の需給情報、配電系統の状況などを統合管理する。電気自動車は18万6000台を普及する計画である。これと連係して電気自動車の部品・素材技術、急速・緩速充電技術、電気自動車ICTサービスのためのシステム構築技術、自動車と電力網を連係するV2G(Vehicle to Grid)技術の開発を行う。政府は2010年12月発表した「クリーンカー産業発展戦略および課題」で、2020年まで100万台の電気自動車を普及する政府計画を既に発表している。

   4. 知能型送配電システムの構築により、電力供給の信頼度を現在水準の10%向上する。現在、一戸当りの年間平均停電時間と送配電損失率は、それぞれ15.1分と3.99%である。これを13.6分と3.74%に改善する計画である。韓国は他の国に比べて、停電時間と送配電損失が低い優秀な電力インフラを持ち、電力の品質も日本と並んで世界トップクラスである。このような品質を維持するために韓国電力(KEPCO)は送配電設備の投資を増やすほか、デジタル変電所を71ヶ所に拡大し、41ヶ所の配電センターを中心に知能型配電システムを構築する計画である。

   5. 知能型新再生エネルギーの規模を全体エネルギー消費量の4.3%に拡大する。
「第一次スマートグリッド基本計画」には、2016年まで制度改善、市場創出、技術開発、基盤造成など4大分野で16の政策課題が設定されている。これに投資する予算規模は、民間資本を含めて総3兆6000億ウォン(約2,500億円)。この基本計画が成功に終わって定着すれば、9兆6,700億ウォン(約6,700億円)の経済的効果を収めることが出来ると、政府は見込んでいる。
   その他、中央行政機関と産・学・研の専門家が参加して、スマートグリッド産業の政策について汎国家的な体制で取り組む「民間合同スマートグリッド政策協議会」が構成される予定である。また、テレビジョン放送周波数帯域で使われていない、いわゆるホワイトスペース(White Space)の500MHzをスマートグリッドのサービスに活用する方針も出ている。この周波数帯域は、共用高周波として他の用途の無線通信と干渉があって効率性と経済性が低いとされるが、済州道(チェジュド)実証団地では実験周波数として使われている。この結果をベースに今後スマートグリッドのサービスに適用する計画である。

   韓国は12月19日新しい大統領を選ぶ選挙が控えている。ある有力候補が、原子力発電を縮小してスマートグリッドなどの新再生エネルギー産業を育成する方針を明らかにすると、スマートグリッド関連株が一時急騰した。韓国は、大統領中心制の政治体制であり、国民の直接投票によって選ばれた大統領が強大な権力を持つ。任期は5年の一期制(単任制)であるゆえに大統領が変わると政府や公共機関内の人的な構成が変わり、政策にも大きな変化が起きることが多い。次の政権で、李明博(イ・ミョンバク)政府が推進して来た様々な政策がどのように変わるか予測がつかない。世論調査を見る限り、今回の選挙もいつものように薄氷の接戦になりそうだ。それにしても、スマートグリッドの政策にはあまり大きな変更が無いと思われる。世界のエネルギー情勢が厳しさを増す中、エネルギー資源の貧国である韓国には他の選択肢が無いだろう。むしろ「IT(情報技術)強国」を自負する韓国はスマートグリッドを新たなチャンスと捉え、これまでの政策の実現に拍車をかけることも期待できる。

情報通信新聞インターネット版2012年7月20日
http://www.koit.co.kr/news/articleView.html?idxno=44072 

知識経済部ホームページ報道資料2012年7月18日
http://www.mke.go.kr/mke/index.jsp# 


 
<寄稿者のプロフィール>
李  中淳(リ・ジュンスン) 氏
東京工業大学 統合研究院 ソリューション研究機構 特任准教授
1984年 韓国・延世大学物理学科卒業、1986年 延世大学大学院物理学科修士課程修了後、韓国(株) LG電子入社。東京事務所に出向中に東京工業大学博士課程修了。(財)医療情報システム開発センター、日立コンピュータ機器、(株)INFINITT、NTTコミュニケーションズ、NTT PCコミュニケーションズを経て、2008年5月より現職。 工学博士。