第2回:管理職層には資格等級と役割等級~トヨタL&F東京~(2018年9月5日号)

■一体化、体系化された新人事制度を導入

トヨタL&F東京(本社=東京・東品川)は、今年4月から新人事制度を導入した。等級を基軸とし、等級レベルに照らし合わせて評価や育成、処遇、役職などの任用をトータルに連動させていく仕組みとなり、一体化、体系化された人事制度となった。 

新制度の資格等級制度では、従来、従業員数約300人という人員規模に比べてやや多く設定されていた資格等級の数の大括り化を行い、資格等級数を13から9とした。また、資格等級に求められる要件・定義や、資格等級と対応する役職の関係を明確にした。旧制度では昇格要件は滞留年数のみで、結果として年功的な昇格となっていたのを改め、昇格要件を明確に設定(評価結果累積、上司推薦、研修受講等)した。 

管理職層の資格等級理念は、一定レベルの役割を担える資格があるかどうかを示す「資格等級」と、実際に担っている役割のレベルを示す「役割等級」の2軸で格付けを行う。役割等級には、ライン職と対応する形で専門的役割のレベルを示すプロフェッショナル等級を設定している。ライン職と専門職の等級を併せて「役割等級」と呼ぶ。一般職の等級理念は、人材育成・能力開発を行いながら、能力発揮・成果創出につなげていくという「能力主義」の考え方に立つ「職能資格等級」となっている。 

賃金処遇制度では、管理職層は資格給と役割給に、一般職層は本人給(年齢給)と職能給に、それぞれ体系の組み直しを行った。なお、一般職層の本人給(年齢給)は、安定的な昇給部分を残しつつ、従来の基本給より賃金構成の割合を抑え、より能力による賃金の割合を大きくした。また、本人給(年齢給)と職能給の賃金表を新たに設定した。評価は職能給に反映し、メリハリのある昇給・昇格カーブを形成することにした(図表参照)。 

具体的には、課長以上の管理職層については、旧来は、基本給+職能給(職務給+資格手当+役務手当)だったのに対し、基本給部分を廃止して、資格給(資格別定額)+役割給(役割別レンジ給)+役務手当とし、仕事や役割が反映されるようにして、年功的な賃金を改めた。 係長以下の一般職層(非管理職)については、旧来は、基本給+職能給(職務給+資格手当+役務手当)だったのに対し、本人給(年齢給)+職能給(資格別レンジ給)とした。 評価制度では、月間報奨金を廃止し、人事評価と年間組織表彰に再編した。年間組織表彰は組織(営業所等)の業績に応じ付与し、所属長が個人への配分を決定する。 

また、新たに管理・事務部門には目標管理制度を導入した。プロセス評価を今回初めて導入し、目標達成に向けてのプロセスや日常業務遂行の中で発揮された行動・能力を評価する。 「個人に出していた報奨金はキャンペーン期間を除いて、組織に出すようにした。従来はフォークリフトの売上台数が一番重要視されてきたが、担当しているテリトリーによって、成績の良い人が決まっており、いつも同じ人が表彰されるといった不公平感があった。不利なテリトリーで頑張っている人を今までは評価できなかった」(藤田氏)という。 

退職金制度は、現役時の貢献が反映されるポイント式の制度を導入することにした。 

能力開発については、人材育成の専門部署が昨年新設され、今年7月に名称変更され「人材育成部」となるなど、今後は社外研修含め積極的に受講させていく予定だ。 

「人事制度の円滑な運用を行うために、今年度は旧制度との並行運用を行っている。来年度は新人事制度に完全に移行するので、今後は制度定着のための研修やフォローをしっかりとしていきたい」(藤田氏)としている。

■管理職の管理能力と人材育成能力の向上を期待

(藤田和夫・トヨタL&F 東京管理部部長の話)

年功型賃金を改め、もう少し若い人材を積極的に登用できる人事制度にならないかという経営トップの考えや、自分がどう評価されているのかわからないといった従業員の意見もあり、今回、人事制度を改定した。 

当社は総合物流(L=ロジスティクス)とフォークリフト(F)の会社だが、従来は都内で60%のシェアを取っているフォークリフトを重視しており、フォークリフトを数多く販売した営業が評価される制度だった。 

今後は、フォークリフト単体の市場は伸びる要素はあまりない。一方で、物流業界はかなり人手不足が深刻であり、省人化・無人化が避けられないが、そうなると、省人化・無人化できる物流システムの構築が欠かせない。これからは物流をお客様に総合的に提案していく営業スタイルに切り替えていく必要がある。「街一番の物流ドクター」として、お客様のニーズにどう応えていくかをチームで考えていくことが重要だ。これは当社が属する豊田自動織機グループが掲げる「2020年ビジョン」の「ソリューション営業への転換」というコンセプトにも合致する。こうした環境変化に対応した人事制度を構築する必要があった。 

新制度の特徴は、上司と部下が面談することによるコミュニケーションの促進と、面談の場で上司と部下が評価について話し合い、評価の「見える化」ができるようになったことの二つだと思っている。 

目標管理制度の導入によって、目標の設定、評価等の過程で、上司・部下間のコミュニケーションが促進され、個人の能力や適性に応じた育成が図られる。それらを通して、管理職が部下の育成について関心を向け、管理職の管理能力と人材育成能力が高まることを期待している。

■経営環境変化に対応した人事制度の構築を

(東狐貴一・日本生産性本部コンサルティング部雇用システム研究センター主席コンサルタント)

旧制度は、月間報奨や年間報奨といった個人の成果を評価する制度と、毎年一律に定昇する年功的賃金を併用するシステムであった。しかし、市場環境が大きく変わりつつあり、顧客に対して、物流システム全般にわたるコンサルティング的な提案のできる営業スタイルが求められてきている。そうなると、大事なのは営業・サービス・企画部門等が横断的にチームを組んで、シナジー効果を発揮できるようなリーダーシップ力や提案・成約・アフターフォローといった一連のプロセスをしっかりとマネジメントできる能力である。 

新制度では、こうした点を考慮して、等級・評価・育成・処遇がトータルに連動しながら、中長期的に人材を育成・活用していく仕組みとなるよう構築した。今後は、実際の現場における目標設定や評価、フィードバックなどの運用が、より重要になってくるものと思われる。

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