第4回:経営塾、人材育成への収穫の10年~ハウス食品グループ~(2022年2月25日号)

■経営塾、人材育成へ収穫の10年

ハウス食品グループでは2012年から、次世代経営人材育成を図る「ハウス経営塾」を開催し、今期(2021年8月~2022年3月)で10期を迎えた。


ハウス食品グループ本社の浦上博史代表取締役社長が「塾長」としてフルコミットしているほか、役員陣が折々で経営塾全般に関与しており、グループを挙げた次世代経営人材育成の場と位置付けている。


「経営塾は2012年の10月にスタートしたが、その年の4月からの第4次中期計画では、次の成長に向け、持株会社体制を目指すこと(2013年の10月に持株会社体制に移行)や、売上規模で3000億円を目指せる組織体制をつくることが打ち出された。そうしたグループの成長を支える人材を育成することが経営トップの大きな経営課題となっていた」(大澤善行・ハウス食品グループ本社常務取締役)という。


カリキュラムは、毎年見直しながら運営されているが、経営理念、環境理解、リーダーの精神軸(胆力)、経営戦略と戦略思考、意思決定、組織・人材マネジメント、財務会計、ゲスト経営者講話と対話、リーダー研究、事業計画提案会(個人発表)、経営者としての所信表明(個人発表)と多彩だ。


対象はハウス食品グループ各社の部次課長相当職で、今期はグループ内の6社から12人が参加している。コーディネーターには第1期から米山茂美・学習院大学経済学部教授が就任し、プログラム企画・展開は日本生産性本部が担当している。


塾生は、経営戦略やマーケティング、財務戦略などの経営スキルの学習と並行して、新規事業の創出に焦点を当てた戦略構想を個人単位で検討・発表する「事業計画提案」を行う。事業を丸ごと動かしていく経営者を目指し、事業をゼロから構想するトレーニングを実践する。

事業計画のテーマ案や内容についての発表(10月)、事業計画発表の事前提案(11月)を経て、翌年2月に事業計画提案を行う。


さらに3月の最終回では、2月に提案した事業会社トップとしての「所信表明」を行っている。「提案した事業が認められたとして、実際に事業がスタートする初日に社員に向けて、社長としての所信表明を行う内容が最終プレゼンとなっている。事業計画の発表で終わらせず、事業を実行する社長としての考え方、心構え、社員に対するメッセージ発信をとても重視している。自らが計画した事業を、社長として社員にどう語りかけるのか、社長としての『胆力』も含め経営塾で学んだすべてがここで問われる」(大澤氏)。


これまでに、経営塾の塾生OBから、グループの取締役が1名出ているほか、海外の関係会社の社長や役員も複数名出ており、「経営幹部の育成に実績として表れ始めたと思っている」(大澤氏)という。



経営塾がスタートして10年が経ち、当初に比べて今では、商社のヴォークス・トレーディングやカレー専門店チェーンの壱番屋なども含め、川上から川下まで多くの事業会社がグループに加わっている。


「様々なグループの社員が企業の個性をお互いにぶつけ合う中で、経営塾で切磋琢磨して、議論を重ねることを通じ、グループシナジーが起こっていることを肌で感じている。今後も、グループの共創の場としても経営塾をよりいっそう充実させていきたい」(大澤氏)としている。

■塾長として社長がフルコミット

(大澤善行・ハウス食品グループ本社 常務取締役の話)

「ハウス経営塾」のプログラムは毎年見直しを加えているが、「事業を丸ごと動かせる人材を育成する」という考え方は第1期から一貫して変えていない。

第1期から塾長として関与している浦上社長は、「次世代の経営リーダーを育てるにはどんな観点で取り組めばいいのか。いわゆるMBA的な経営スキルを学ぶことも大変重要な観点だが、果たしてそれだけでいいのか。様々な経営スキルは自らの努力で習得することができるが、果たして、そうしたスキルだけで経営者としての人間像はつくりあげていけるのだろうか」という問いかけを我々に投げかける。


我々はその問いかけを中心に置きながら経営塾を運営しているが、その問いかけに対する答えの一つに「胆力」を位置付けている。胆力とは、スキル・能力や技術論を超えた「なにか」であり、胆力とはなにかを探求し、いかに身につけていくかも経営塾の大きなテーマとなっている。


「胆力」の追求の部分は毎回苦心するが、修羅場をくぐり抜けてきた外部の経営者の講演や、歴史や哲学といったリベラルアーツからの学び、歴史上の人物や現代の経営者など、各種リーダーの人物研究など、様々なプログラムを取り入れている。


社長自らが塾長としてフルコミットしており、各役員も折々で経営塾に関与している。グループが直面する経営課題を経営トップから直接聞き、それをもとに議論を展開していくので、塾生は、経営幹部育成が重要な経営課題だという会社の本気度をリアルに感じ取れると思っている。

 

■「胆力」をどう養うかがカギ

(米山茂美・学習院大学経済学部教授の話)

「ハウス経営塾」では、塾生の発表の場がとても多いが、発表の際には、必ず塾長である浦上社長が参加し、役員も必ず複数名が参加する。塾生には、非常にやりがいがあると同時に、非常に緊張を強いられる場でもある。

経営塾では、事業のトップを育成するうえで「胆力」をとても重視している。事業会社のトップとして、丸ごと事業を動かしていくには様々な困難に直面する。その困難を乗り越えてやり抜く胆力をどう育成していくのかがこの経営塾の難しいところだが、携わる者としては醍醐味でもある。

「創造的な非同調」(クリエーティブ・ノン・コンフォーミティ)という概念があるが、創造のためには時にはぶつかり合いが大切だ。タブーを恐れずに侃々諤々と議論することで新たな価値が生まれることを期待している。

3月の所信表明は、極めて特徴的なものだ。これまで私は、多くの企業の次世代経営幹部育成プログラムに関与してきたが、所信表明まで行う会社は見たことがない。自らがリードする事業会社の社員の心を動かし、いかにやる気に火をつけていくか。きれいな言葉を並べるのではなく、経営者としてのビジョンやパッション(情熱)が問われる。

「ハウス経営塾」では、「侃々諤々」「切磋琢磨」を掲げ、大いに語り合うことを奨励している。コーディネーターとしては、そのコンセプトに沿って、できる限り塾生同士で率直に意見が言い合えるような雰囲気づくりや場づくりに留意している。

一般に、企業の次世代経営幹部育成プログラムが成功するには、やはり何よりもトップのコミットメントが最も重要だろう。

また、研修の指導講師の側で重要なことは、単に経営戦略の概念や知識を伝えるのではなく、「戦略思考」や「戦略の裏にあるロジック」を参加者に考えてもらうことではないか。企業の実務家がそれらの概念や知識をどう使ったらいいのか、それらはどういう意味合いがあるのかを参加者に理解してもらえるように伝えることが大事だと思っている。

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