第4回:人事、賃金制度を一新~ソラシドエア ~(2025年2月25日号)
ソラシドエア(本社=宮崎市)は、経営ビジョンに「九州沖縄のフラッグキャリアになる」を掲げ、宮崎をはじめとする九州各地と東京(羽田)、沖縄(那覇)と九州・神戸・中部等、14路線80便を毎日運航している。2022年10月には、AIRDOとともに、共同持株会社「リージョナルプラスウイングス」を設立し、経営基盤の一層の強化と、地方路線の安定した航空ネットワークの堅持を図っている。
同社では、中期経営計画の一環として、昨年10月に新賃金制度の運用を開始した。4月からは人事評価制度を含めた新人事制度の正式運用を開始する。
制度設計にあたっては、人事理念の再構築に向けたコンサルティングを実施した。制度に中堅・若手社員の意見を取り入れるため、プロジェクトチームに中堅・若手社員を入れ、人事理念や制度運用のあるべき姿を検討した。
プロジェクトチームでの議論を通して、同社の「人事ポリシー」や「人事制度の基本となる考え方」、「経営理念を実現するための『七つの成果』」(下記参照)を定めていった。 新制度の等級制度では、資格等級を一般職では4階層、管理職では3階層に設定し、それぞれの人事資格等級の期待役割と、その等級において身につけるべき能力(スキル)を「等級別要件定義表」に定めた。

職掌とキャリアパスでは、「総合職掌」「運航乗務職掌」「客室乗務職掌」の職掌ごとに人事制度を構築し、「総合職掌」では、個人の能力、適性、志向に合わせ選択肢を持たせるため、従来の管理職のみから、組織管理職である「L系統」と専門的スキルによるタスクマネジメントを担う「S系統」の二つのキャリアパスを設定した。
賃金制度については、非管理職では、旧制度の「役割給」を、長く安心して働きつつ成果に応じた報酬を得られる制度とすべく、「改定役割給(考課昇給型)」と「基礎給(年齢定昇型)」に分けた。また、AIRDOとの賃金水準を意識しながら昇格昇給額を引き上げ、20代後半以降での年収差を解消した。
評価制度は、「七つの成果」につながる貢献を評価する「貢献評価」と、貢献や成果を生み出すために考え行動した内容を評価する「考動評価」による評価制度とし、それらを賃金や人事資格等級、配置に反映させることにした。
信頼関係構築が重要~ソラシドエア人財本部人事制度策定プロジェクトチームの話
人事制度は2008年度に策定されたもので、抜本的な見直しが必要だった。また、AIRDOとの持株会社設立という大きな環境変化の中で、賃金の格差是正を行う必要もあった。
プロジェクトチームでは、「私たちは何を大事にしていくか」というところから議論をスタートさせた。我々が生き残るためには成果をきちんと出していくことが大事であり、その成果とは、経営理念を実現していくために、現状より少しでもより良い変化を起こしていくことだという議論を経て、経営理念を実現する成果としてまとめたのが「7つの成果」になった。
今後は、評価者研修の実施などを通して、社員への制度の浸透を図っていきたい。 評価の納得感を高めるには、上司が部下と適切にコミュニケーションを取り、信頼関係を構築していくことが重要だ。新制度では、部下の日常の「考動記録」を記入し、それを面談の場でフィードバックしていく仕組みになっているので、上司・部下間のコミュニケーションが円滑に進む組織風土の醸成も大きな課題だ。「考動記録」を記入することは手間がかかるが、納得感のある評価のためには必要だということを社員に理解してもらい、新制度を運用していくことに今後は注力していきたい。
賃金制度などを担当した東狐貴一・日本生産性本部主任経営コンサルタントの話

プロジェクトチーム(PT)のメンバーは、社員向けのアンケートで何を聞くべきか、自社の働き方はいかにあるべきか、自分のワークライフバランスをどう考えるかなど、自社や自分のことを真剣に考えることで、会社への理解が深まり、自己の成長にもつながったのではないか。それは今回の新制度導入の成果の一つだと思っている。
今や、企業の競争力の源泉は無形資産であり、人的資産だ。人を育て、元気よく、様々なアイデアを打ち出すことができる組織や、心理的安全性を担保されながら、チャレンジできるような組織にしていく必要がある。
しかし、ハラスメントや個人情報保護などの意識の高まりは、職場でのコミュニケーションに影響し、中間管理職などが神経を使うようになるとともに、職場のコミュニケーションの頻度が減り、異性や世代差がある人との接触を避けるようになった。普段から良好な人間関係を築いていれば問題がないようなことでも大騒ぎになる。そうした「萎縮する職場」は組織の大きな問題になっている。
若い世代には「従業員体験」(EX、従業員が会社の中で働くことを通して得る体験)を向上させてくれる職場が望まれている。1on1ミーティングなど、EXを誘発させる制度を導入することを通じて、やる気のある人が手を挙げてチャレンジしていくような企業文化を醸成し、組織を活性化させていくこともこれからの人事には求められているのではないか。
評価制度などを担当した高村航・日本生産性本部主任経営コンサルタントの話

人事制度の設計にあたっては、原点に立ち返り、人事の基本的な考え方や人事ポリシーを固めたうえで、評価制度などの各制度を体系的に整備し、全体最適を目指した。
人事の優秀な人材が制度をつくると、「あるべき論」が前提となる制度設計になりがちだ。「考動評価」の内容なども現場の社員に議論してもらい、人事部だけが会議室で決める制度ではなく、現場の社員の思いを取り入れた制度とした。
評価制度では、実際の行動が成果を生み出し、考えて動くことで人材の成長を促すために「考動評価」を導入し、上司と部下がそれぞれ日常的に人事管理システムに「考動記録」をつけていくことで、客観的な事実に基づき評価を行えるようにした。
私は、人事制度はビジネスを進めるためにあると認識している。そのためには自社のビジネスの実態に合わせた制度設計を行うことが重要で、経営コンサルタントはその会社の業績に対する知識や知見をしっかり持たなければならない。制度がビジネスの実態に合っていないと、実態と制度が乖離してしまい、社員の納得感が得られない。
人事制度はビジネスモデルや環境変化に対応してブラッシュアップしていくべきだ。時間や費用を使って3年や5年、固定した制度を用いるのではなく、環境変化に対応して、毎年少しずつ制度を見直していけば、それほど費用もかからない。人事制度はもっと日々の仕事に密着した制度であってほしい。
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