2024年 年頭会長所感

このたびの令和6年能登半島地震により犠牲になられた方々に心からお悔やみを申し上げますとともに、被災されたすべての方々に衷心よりお見舞いを申し上げます。そして、被災者の救済と復興支援のために日夜ご尽力されている方々に深甚なる敬意を表します。


2023年10月に勃発したイスラエルとイスラム組織ハマスとの衝突は中東地域に再び緊張をもたらした。また、ロシアによるウクライナ侵攻から2年が経とうとしているが、その終結はいまだ見通せない状況にある。米中間の対立が続く中、東アジアにおいては、北朝鮮の動向や台湾有事の可能性の高まりなど、安全保障上の脅威が増している。
一方、世界経済を取り巻く環境も不確実性が高まっている。ウクライナ危機はサプライチェーンの混乱と食料・資源エネルギー価格の高騰をもたらした。世界ではインフレ圧力が高まり、欧米各国で金融引き締めが強化された。先進諸国の経済成長が低迷し、中国経済も減速傾向にある。
今年は1月に台湾総統選挙がおこなわれ、11月には米国大統領選挙が控える。国際秩序が大きく揺らぎ、世界の政治・経済状況が混沌とする中で迎えた2024年は、日本の戦略が官民ともに問われる1年となるであろう。
また、今回の震災により、改めてわが国の地震災害対策の脆弱さが顕在化した。南海トラフ地震や首都直下地震等の発生確率も高まっている。大規模自然災害への備えは、国の安全保障にも直結する喫緊の課題である。

国内に目を転じると、原材料・エネルギー価格の高騰や急激な円安等に伴い、物価上昇率は2%を超える水準となった。また、2023年春の賃金交渉では、30年ぶりに3%を超える水準(定昇相当込み)の賃上げが実現した。今年は、長期停滞が続いた日本経済を再び成長軌道に乗せる「まさに正念場」となる。
持続的な経済成長と賃上げを実現するためには、価値に見合った価格を設定するなど、付加価値の増大を軸とした生産性向上が不可欠である。
今こそ、生産性改革の担い手である労使双方が知恵を出し合い、付加価値を高め、生産性向上と持続的な賃上げの好循環の流れを確実なものにしていかねばならない。

殊に、経済成長の主役である企業の役割は、イノベーション(革新)とディファレンシエーション(差異化)によって新たな需要を創造し、付加価値の増大に取り組むことである。経営者はリスクを恐れず、将来の成長を見据え新規事業の開発や新たな市場の開拓をはじめ、デジタル化、研究開発、人材育成等へ積極的に投資すべきである。また、商品やサービスの価値に見合う価格を形成することにより、企業は収益を高め、従業員や株主をはじめとするステークホルダーに分配することで新たな成長に繋げなくてはならない。
一方、個々の企業による努力は当然であるが、政府の役割は、経済の新陳代謝を促し、生産性の高い企業へ資本や労働力を移動させることにより、経済全体の活力を生み出していくことである。その際には、労働市場の整備など、セーフティネットを強化することが不可欠である。

国民の将来不安を払拭し、持続可能な経済社会を次世代に引き継ぐためには、地球温暖化対策、人口減少問題への対応、財政・社会保障制度の改革も、これ以上先送りが許されない喫緊の課題である。これらの課題に取り組むためには、与野党を超えた基盤を再構築し、改革推進の合意形成活動に取り組む必要がある。そのためにも、その中心的役割を担う立場にある政党・政治家には、国民に信頼される政治を実現する責任と自己改革能力が求められる。
岸田総理には、転換期にあるわが国の持続可能な将来像を国民に語るとともに、政策の優先順位を示し、諸課題の解決に腰を据えて取り組むことが求められている。加えて、これらの改革を実行するためにも、今こそ、総理自らが先頭に立ち、政治・行政の立て直しにリーダーシップを発揮することを望む。

われわれ日本生産性本部も、先送りされてきた積年の改革課題に取り組むため、2022年6月に令和国民会議(通称:令和臨調)を発足させた。「統治構造・政治改革」「財政・社会保障」「人口減少、地域・国土構想」等を軸に、今年は、超党派の国会議員、自治体の首長、大学生など若い世代とも対話・連携しながら、本格的に改革を前に進める1年とする。

日本生産性本部は、2018年度から2020年度までの3カ年を「人口減少下の新たな生産性運動の基盤整備」2021年度から2023年度までの3カ年を「日本の改革と生産性運動の新展開~基盤整備の3年から改革実践の3年へ」と位置づけ、持続可能な経済社会の実現に向けた活動に取り組んできた。
本年、われわれは、これまでの活動の成果を基盤とし、新たに、3カ年からなる「第3次中期運動目標」を策定する。日本の将来を担う次の世代へ、持続可能な経済社会を継承していくための道筋を描き、その実現に向けた改革に取り組む。


2024年1月15日
公益財団法人日本生産性本部
会長 茂木 友三郎