コロナ危機に克つ:安藤 京一 情報労連中央執行委員長インタビュー

情報労連(情報産業労働組合連合会)の安藤京一・中央執行委員長は生産性新聞のインタビューに応じ、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でオンライン中心となっていた加盟組合・組合員とのコミュニケーションについて、リアルを軸に展開させる方針を明らかにした。対面によるコミュニケーションの機会を増やし、個の尊重や多様性の促進により、組織を再強化するのが狙いだ。

対面でのコミュニケーション促進 組織力強化を図る 反転攻勢

集会、対話会、学習会 複数メニュー組み合わせ

安藤 京一 情報労連中央執行委員長

情報労連(情報産業労働組合連合会)の安藤京一・中央執行委員長は生産性新聞のインタビューに応じ、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でオンライン中心となっていた加盟組合・組合員とのコミュニケーションについて、リアルを軸に展開させる方針を明らかにした。対面によるコミュニケーションの機会を増やし、個の尊重や多様性の促進により、組織を再強化するのが狙いだ。

新型コロナウイルスが5類感染症に移行したことに対応し、47都道府県の地方組織に方針を伝え、すでにリアル開催を再開させた組織もあるという。安藤氏は「コロナ禍で在宅勤務が普及したことで、オンラインによる活動では組合によるさまざまな取り組みへの関心が薄れ、組織力の低下を招いている」と懸念を示す。

例えば、共済組合の加入率が低下しているほか、政治への関心なども弱くなっているという。このほか、情報労連では、春闘の時に景品が当たるクロスワードパズルのイベントを開催している。在宅勤務の普及により職場の組合員にチラシを配れないので、電子メールで送信したものの、開封する人が少なく、応募数は例年の10分の1にとどまった。

そこで、執行部では、今年の運動方針の一つとして、組織力強化を掲げた。安藤氏は「何か一つの対策を実施すれば組織力強化につながるものではなく、多くのメニューをミックスさせる方法を考えている」と話す。

具体的には、組合活動に興味がなく、これまで参加していない人に対しては、さまざまな情報を届けて、まずはオンラインから参加できる学習会など、仕事のメリットになる情報を提供していく。

また、組合活動にある程度関心を寄せている人に対しては、集会や対話会などのリアルイベントの機会を提供する。安藤氏は「東京に一カ所で集まることが難しいなら、地方でも開催するなど機会を増やしたい」との意向を示した。

なかでも、情報労連の地方組織が開催していたレクリエーションの復活には期待を寄せている。安藤氏は「産業別労働組合には、さまざまな組織から人が集まるので、レクでのコミュニケーションの効果が高かった。コロナ禍ではリアルで集まることができなくなり、疎遠になってしまっているので、レク再開を待ち望んでいる人も多いのではないか」と話す。

情報通信関連企業の労働組合が集まる情報労連では、オンラインのイベントや集会の開催について先導役を果たした。オンラインによる集会などの組合イベントのメリットは、時間や場所にとらわれず開催できること。それまで職場集会に参加したことのない層も参加できるようになった。また、レクリエーションにオンラインツールを活用する事例も増えている。

安藤氏は「リアルのイベントのために東京に出向くと2日間つぶれるので、これまでは遠慮していた遠隔地の組合員が、オンラインだと参加しやすくなり、動画を観ながら参加するほうが効果の高い学習会などは参加者が増えたと聞く。ただ、組合員同士が親睦を深めるなど、顔を見せ合って接点を強化するという組織力強化には弱さが出ているので、リアルのイベントを復活させ、オンラインと組み合わせていきたい」と話している。



(以下インタビュー詳細)

「リアル」と「リモート」共存共栄へ 通信サービス維持が使命

情報労連は情報通信分野の公益的な企業で働く人たちが多く加盟しているので、コロナ禍の対策で最も重視したのは、従業員やお客様の安全を確保しながら、通信サービスを維持させることだった。

また、職場で、新型コロナウイルスの感染防止対策をいかに進めるのかと、情報通信技術を使って、社会全体の感染リスクを下げる対策をどのように示すのかが大きなミッションになった。

今では珍しくなくなったが、感染拡大の初期の段階では、在宅勤務などのリモートワークの導入が、効果的な感染防止対策として期待を集めた。NTTやKDDI、ソフトバンクの大手通信3社は、率先してリモートワークを取り入れ、世の中に広まっていった。

このため各社では、安定的な通信環境を確保するために、加盟労働組合に所属するエッセンシャルワーカーたちを、安全に働かせることに気を配る必要があった。

加盟労働組合の中には、業種業態の異なるグループ会社を保有している企業グループもある。例えば、旅行子会社などはコロナ禍の影響が直撃し、営業ができなくなってしまった。雇用問題を含めたさまざまな課題が浮上し、グループ内で出向させるなどの対策が取られた。また、海外部門は出張ができなくなる深刻な状態が長期間続いたため、相当きつかっただろうと思う。

産業別労働組合である情報労連は、会社側と直接交渉することはしないので、ガイドラインを出したり、加盟労働組合と情報を共有したり、それぞれの労使の交渉を陰で支えた。職場並みのリモートワークの環境をどう整備するか、また、在宅勤務の際の経費負担をどうするか、などが大きなテーマだった。

組合の接点づくりが課題に


リモートワークを中心としたコロナ禍での対応を契機に、通信大手などで、多様性のある働き方が広まってきている。コロナ禍の感染防止対策という緊急避難的な考え方ではなく、育児や介護などとの両立をしやすいように、積極的にリモートワークを活用するようになった。

コロナ禍においては、半ば「リモート」を強いられてきた側面がある。しかし、その経験を経て、「リモートで済むものはリモートで済ませ、リアルの充実を図る」ことや、「リアルしか選択肢がなければあきらめていたかもしれないが、リモートなら参加できる」ことなどに気付いた。

リモートワークによる生産性向上については、業種業態や仕事の種類によって、人によって、感じ方が違うようだ。積極的に取り入れたほうが良いと考える職場もあれば、生産性が落ちたから、対面によるコミュニケーションに戻すという職場もある。ただ、コロナ禍を経験し、画一的にどちらかに統一するということは無くなり、「職場や働く人のライフスタイルに合った働き方をすればよい」との考え方が広まった。

組合活動に関していえば、職場に人がいなくなることで、イベントの案内のチラシを机の上に配ることもできず、接点をつくってコミュニケーションを促進するという組合本来の動きが制限され、組織力の低下は避けられない。しかし、組合活動がやりにくいから、リモートワークを減らすというのは本末転倒なので、オンラインを取り入れた組合活動を試行錯誤してつくり上げていった。

繰り返しになるが、公的な役割を担う企業に籍を置く者としては、通信機能を確保するということが最も大事なミッションだ。エッセンシャルワーカーに感染が広がり、業務が回らなくなるようなことはあってはならないので、組合活動のために対面でのコミュニケーションを要求するようなことは極力控えてきた。

新型コロナウイルスが5類感染症に移行したことによって、さまざまな規制が緩和されており、組織の基盤を固めるために、組合側が能動的に動く方向へと、ゆっくりと舵を切っているところだ。

情報労連の「創り育てる平和」の象徴的な取り組みである「2023平和四行動」が6月から始まった。6月23~25日の「沖縄ピースすてーじ」、8月4~6日の「広島ピースフォーラム」、8月7~9日の「長崎平和フォーラム」、9月9~10日の「北方領土返還要求平和行動in根室」まで続く。

今年は、コロナ禍前に戻し、現地行動を予定しており、私自身も沖縄に足を運んだ。沖縄戦の悲劇と今なお日本全体の在日米軍基地の約7割を占める沖縄の現状を視察した。そして、自衛隊基地が南西諸島に次々とつくられ、ミサイル配備が進められており、有事となれば攻撃にさらされるリスクが格段と高まっていることを感じた。

広島・長崎では、核兵器の実相に触れ、核の脅威・愚かさを実感し、「核なき世界」の実現に一緒に声を上げていただきたいし、北海道では、高齢化する元島民の皆さんの願いを心に刻み、一日も早い返還を一緒に求めていきたい。

平和四行動は、情報労連が展開している平和運動への理解が深まるだけでなく、人材の育成にもつながる貴重な体験であると考えている。現地に行かないと味わえない体験であり、ようやくコロナ禍前の運動の姿に戻しつつあるところだ。

情報労連は、平和運動を通じて組合員とご家族や社会に向け、「恒久平和」を発し続けていく。大切なのは、主権者である一人ひとりが主体的に平和を希求することだ。

「個の尊重と多様性」を重視


社会的な課題に情報通信産業がどう関わり、解決に導いていくかが求められている。もし、コロナ禍でリモートワークが普及しなかったら、日本の経済社会はもっと大変なことになっていただろう。情報通信の環境を整えることで社会的な役割を果たしたい。

例えば、少子高齢化で過疎化した地域に、情報通信サービスを使って、住民サービスを提供していくことは地域の持続性を高める意味で重要だ。また、あらゆる産業でIoTなどのテクノロジーの活用が進む中で、どのようなビジネス展開が可能なのか、その「絵」を描くことも重要になる。

情報労連の運動の目指すべき方向性と政策の基本的なスタンスを明確に示した「21世紀デザイン」では、組合員が地域人の立場で地域に入り、社会貢献を果たしていくことの重要性を掲げている。

「ケイパビリティ」や「時間主権」の考え方に基づく、「暮らしやすい社会の実現」を政策の軸として、労働時間を短くすることで、余力ができた時間を地域活動に充てようという呼びかけであり、2006年の第45回全国大会で決定したものだ。情報労連として、その軸は全くぶれておらず、今こそ、重要な観点であると考えている。

コロナ禍後の情報労連の取り組みとしては、「個の尊重と多様性」を重視していきたいと考えている。LGBTなどセクシャル・マイノリティに対する理解を深め、全ての組合員が多様な個性を尊重し合い、豊かで安心して生活できる社会の実現に貢献していくことも、組合や職場に求められている。

他方で、個を尊重しなければいけないからこそ、集団・チームで何かをやる喜びや楽しさを味わってもらうことも、組合としての役割だと思う。コロナ禍で孤独感や人恋しさを感じた若者たちに、レクへの参加を通じて、連帯感や働きがいを感じてもらいたい。

産業別労働組合である情報労連には規模の小さい組合も多く、さまざまな組合員と触れ合うことができる場を積極的に設けていくことが重要であると考えている。



*2023年6月28日取材。所属・役職は取材当時。

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