第2回:ベトナム人技術者の派遣会社における教育プログラムの整理とマニュアル作成支援~ティーユー~(2023年9月5日号)

約80社の製造現場で350人活躍

日本企業の製造現場を対象に、ベトナム人技術者の人材派遣・紹介事業を展開しているティーユー(本社=東京・新橋)は、教育プログラムの整備やマニュアルの作成を通して技術者を育成することで、ベトナム人技術者が長期間、安定的に製造現場で働ける仕組みを構築している。
自身も日本企業の製造現場でエンジニアとして働いていたボダイ・トウン・ティーユー代表取締役は、「日本の高い製造技術に感銘を受け、いつしかその技術を習得し社会に貢献したい」という思いから、2016年に同社を設立した。ベトナムの工業大学などで学び、日本の就労ビザを取得した優秀な人材が、エンジニアやオペレーターとして日本全国の製造現場で活躍している。

機械加工、プラスチック加工、金属加工、印刷加工、自動車部品建機部品など約80社の製造業に、350人の社員を派遣している。「350人のほとんどは工業大卒で、在留資格『技術・人文知識・国際業務』の就労ビザを取得している。学歴が高く、専門知識を持っていることが大きな強みだ」(姜信好・同社常務取締役)と語る。同社には、日本語とベトナム語が堪能なベトナム人コーディネーターも多数在籍しており、派遣社員の生活や就業を24時間体制で支援している。
 

2020年には神奈川県大和市にプラスチック金型の設計、製造などを行う自社工場を作った。様々な設備を揃え、シャワーヘッドなどの金型製品を製作している。

大和工場では、人材育成・教育訓練事業も実施しており、機械加工などのプログラミングができる人材を育成している。1日コースでは、安全教育や機械操作の基本を教え、3日コースでは、作業改善の方法や、NCプログラムの作成、NC旋盤・マシニングの操作方法などを教える。
 

こうした教育プログラムは、派遣社員の教育にも活用されている。「当社とつながっている人であれば、1日でも3日でも、都合がよいときに工場に来て、無料で教育を受けることができる。正社員として企業に紹介した人も学びに来る。こうしたことを無料で実施している同業他社は他にないと思う」(姜常務)。

今回、日本生産性本部は「教育プログラムの整理とマニュアル作成支援」を行った。マニュアル作りは、昨年8月から今年1月までの半年間行われ、日本生産性本部の鍜治田良・主席経営コンサルタントと小田睦之・経営コンサルタントの2人が関わった。月1回、工場を訪問して、教育すべき項目を洗い出し、各項目について、マニュアルを作成・検証・修正した。

マニュアル兼教育プログラムは、習得日数に換算すると7日間分で、113ページに及ぶ。写真や図表などを交えて、工場の基本ルール(通行や運搬のルールなど)、フライス盤などの加工機の説明、穴あけドリルなどの刃物の用途や注意点、様々な治具の種類、加工計画の立て方、図面表示の見方、機械操作盤の名称、加工前の段取り、加工前・加工中・加工後の説明、測定器の種類や使い方の説明などを記している。要望を踏まえ、学んだ内容を項目別に振り返るための「確認テスト」も付けた。

厚生労働省の「外国人雇用状況」によると、昨年10月末現在で、外国人を雇用する事業所数は29万8790所、外国人労働者数は182万2725人となっており、過去最多を更新した。外国人労働者数を国籍別にみると、ベトナムが最も多く(46万2384人)、次いで、中国、フィリピンの順となっている。
姜常務は、「現状では、技能実習であれ特定技能であれ、職種があまりにも絞られすぎている。中国も韓国も人手不足で、円安の進行もあり、国際競争力をつけないと、日本は人材獲得の競争に負けてしまう。生産年齢人口の減少や他国の動向も踏まえ、ベトナム人を含む外国人に、日本に仕事に来てもらえるような仕組みを考え、実行することが必要ではないか」と指摘している。


勤勉でまじめ ニーズは高い ボダイ・トウン・ティーユー代表取締役の話

材料の取り外し、スイッチのオンだけの単純なオペレーターの仕事だと、何かあったときに雇用の調整弁にされてしまう。オペレーターが長期間、安定的に現場で働けるようにするためには、段取り作業ができるようなオペレーターを教育する仕組みが必要だった。マニュアルはすでにベトナム語に翻訳し、活用しているが、マニュアルを整備したことによって、健康診断を受けるように、自分の弱点を理解できるようになった。

日本の製造現場は人手不足で、派遣期間のニーズも長期がほとんどだ。現場の担い手も少ないし、後継者もいないなかで、外国人労働者、その中でも勤勉でまじめだと言われているベトナム人、特に工業系の大学を出たベトナム人のニーズが非常に高くなっている。

製造現場の高齢化は、よりいっそう進んでおり、外国人がいないと現場が回らないところも多い。派遣先の中には、現場は全員ベトナム人で担当しており、日本人は管理だけという会社もある。

次の20年を考えてみた場合、教育はますます重要になる。派遣社員をしっかり教育して、日本企業の製造現場を支えていきたい。今はまだ中高年の日本人が活躍しているが、それも10年、20年経つと少なくなり、そのうち日本人がいなくなるかもしれない。

350人いる派遣社員はもっと増やしていきたい。「決して、断らない、選ばない、あきらめない」を信念に、日本の社会に貢献できる人材を届けていきたい。

マニュアル作成で生産性向上~鍜治田良・日本生産性本部主席経営コンサルタントの話

多くの会社ではマニュアルは本部が現場に押し付けることが多い。また、本部の賢い人が作るマニュアルは、「行間」が抜け落ちて、現場では使えないことが多い。今回のマニュアル作りでは、現場の視点に立ち、現場が疑問に思うところ、つまずいてしまうところをきちんと記述し、写真やイラストをふんだんに入れて、現場が使えるマニュアルにした。

共通したマニュアルがないと、人によってやり方がばらつき、仕事の進め方の「流派」が何通りもできてしまう。Aさん、Bさん、Cさんのやり方が混在し、安全性や生産性、品質を低下させる要因になる。

DXの推進にもマニュアル作りが重要だ。現状の仕事をきちんと整理、標準化することで、ソフトウエアのカスタマイズが必要なところと、業務のやり方を変えるべきところが明確になる。ここを明確にしないと、ソフトのカスタマイズコストの上昇につながり、期待した効果が出ない。DX化で重要なのは一つひとつの仕事のやり方を見直すことだ。

一つひとつの仕事の改善はとても地味なものであり、経営へのインパクトは小さいが、小さい改善も積み重ねると大きな成果につながる。深夜残業が常態化していた私の指導先のある企業では、現場の人たちに現場の問題や課題を付箋紙に書いてもらい、それを一つずつ改善していった。それを継続していくと、4年で残業がゼロになり、利益は4倍になった。たくさんいた離職者も減った。

派手な改革案を打ち出すより、現場の仕事を一つひとつ丁寧に見直し、標準化することの方が生産性向上の近道だと私は考える。

◇記事の問い合わせは日本生産性本部コンサルティング部、電話03-3511-4060まで

コンサルタント紹介

主席経営コンサルタント

鍜治田 良

金沢工業大学大学院 イノベーションマネジメント研究科修了(MBA)
中堅建材メーカーにて現場でのモノづくりを実践
日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了、本部経営コンサルタントとして、企業の経営革新支援、人材育成の任にあたる。
(1977年生)

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