第2回:3年間の中期経営計画実行中~カソク株式会社(2025年9月5日号)

2013年に創業したカソク(本社=東京都新宿区、従業員数40人)は、全国11都道府県で、計47棟のアパートメントホテルや都市型戸建てホテルなどの多様なホテル開発・運営事業を展開している。特に、中長期滞在型のアパートメントホテル(客室内にキッチンや洗濯機といった生活に必要な設備がある日常生活型のホテル)の開発や運営を得意としている。
現在は大手ハウスメーカーと共同で企画したホテル「hotel AIMA(アイマ)」をはじめ、大手ゼネコンやデベロッパー、不動産ファンドとのタイアップも増えている。これまでのノウハウを生かし、相続対策や老朽化した建物の建て替え土地有効活用としてマンションに代わってアパートメントホテルとする提案も行っている。


アパートメント型のホテル「hotel AIMA」

同社では2023年から、井之上拓也・日本生産性本部主任経営コンサルタントが中期経営計画策定と中期経営計画実行支援のコンサルティングを行っている。「カソクはもともと、新井社長が学生時代に宿泊施設運営事業で起業した会社がもとになっているが、コロナ禍を経て、金融機関から日本生産性本部に『今後の会社の方向性をより可視化したい。どういう方向に会社を成長させていくのかをわかるようにしてほしい』との相談があった」(井之上コンサルタント)。
そこで、日本生産性本部では、金融機関との関係性強化、社内外への説明のためのビジネスモデルの明確化、事業の成長性や採算性を踏まえた事業戦略・組織戦略・財務戦略の策定などをねらいとして、2023年6月から2026年5月までの中期経営計画の策定支援を行った。

3年間をサバイバル期・経営安定期・中核事業成長期に分け、23年度(サバイバル期)は、会社の生き残りを確実にするため、有人ホテル事業の拡大を図るとともに、金融機関の取引正常化を目指すこととした。24年度(経営安定期)は、システム化・マニュアル化を整備するとともにマネジメント力の強化を図ることで、経営の安定化を図ると同時に、資本の蓄積を目指す(成長資金確保)ことにした。25年度(中核事業成長期)は、複数の新規大型有人ホテルの運営を開始することにした。 売上高は直近期の6.3億円から計画3期目には19.7億円へと、年平均成長率46%を目指すことにした。あわせて収益構造分析キャッシュフロー分析も行った。
その後、市場の変化や計画の進捗状況を踏まえ、中期経営計画の再策定を行った。

24年5月期には有人ホテル事業の拡大及びMC(運営受託)案件の獲得により、計画以上の成長を達成したことを踏まえ、25年5月期については、①MC事業拡大、②マネジメント力強化、③管理人材の確保、④営業人材の確保、⑤人事制度の策定といった経営安定化に取り組むとともに、26年5月期に想定していた「中核事業の成長」を前倒しで実施した。

多角的ホテルの可能性追求~カソク代表取締役新井恵介氏の話

カソク代表取締役 新井恵介氏

井之上コンサルは非常に優秀で、当社の管理職の会議にも出てもらい、多角的な視点でアドバイスをもらっており、非常にありがたいと思っている。我々がつくった人事評価制度も見ていただいた。私は早稲田大学在学中に起業したことから就職経験がないので、幅広い視点からアドバイスをもらえるのは非常に心強い。ベンチャー企業から国内中堅企業へと、企業の成長に合わせたアドバイスを的確にしてくれる。金融機関出身ということもあり、金融機関との付き合い方や金融機関の考え方などを教えてくれるのもありがたい。
カソクは、「日本の経済的地位をアップデートする」という長期ミッションを掲げ、不動産価値の最大化に挑んでいる。2028年には宿泊部門の年間売上高300億円の達成は見えており、2035年には売上3000億円を目指している。

当社は、土地の選定から建物の設計、プロジェクトマネジメント、運営まで、一連の流れをすべて自社で行っており、ホテル運営のフィードバックを開発に生かし、顧客へ価値を提供できるのが最大の強みとなっている。完全な自己資本経営で、上場を目指していないため、株主還元を考えず、不動産所有者から宿泊客まで、すべてのステークホルダーにとっての価値を最大化することに特化して、建物に価値を生み出すための事業開発を積極的に行える。結果として、事業の要であるホテルの不動産価値を上げることに注力でき、坪当たり賃料の最大化につなげることができる。
将来的には自社で土地を購入して開発するデベロッパー機能や、土地ごとに最適な不動産アセットを提案するための金融機関との提携も視野に入れている。

我々は社会性、公益性、地域性を重視しており、地域での人材雇用のほか、高度観光人材育成を目的とした大学との共同研究計画や東京都との連携なども進めている。 海外での豊富な経験から得た視点をもとに、アパートメントホテルや都市型戸建てホテルをはじめとする多角的なホテル開発事業を全国で展開し、観光立国を推進する日本の大きな可能性を切り拓くことで、不動産の領域から日本の経済的な地位の向上を目指していきたい。

スタートアップ企業を支援~日本生産性本部主任経営コンサルタント 井之上拓也氏の話

現在は、四半期ごとの経営計画進捗フォローや銀行向け対応業務の支援を行っている。必要に応じて、オンラインの役員会議に参加し、社外取締役的な立ち位置から、経営判断についてのアドバイスを行っている。
カソクは、想定以上に成長のスピードが速く、その成長に組織を追いつかせる必要性がある。今後の課題はマネジメント層の強化に加え、既存社員と新規に参画する社員との組織内での融合だろう。また、会社としてどう組織化していくか、ガバナンスをどう強化していくかも課題となりうる。

インバウンドが増えているなか、日本では、長期滞在の宿泊施設が不足している。その市場に様々な大手企業が参入しようとしているが、長期滞在用のホテルの運営のノウハウや知見はほとんどなく、そうしたノウハウを持つ同社には優位性がある
カソクはスタートアップ企業だが、スタートアップ企業は、普通の会社に比べて成長が非常に早く、変化も速い。継続的に状況を見ておかないと会社の課題が把握できなくなってしまう。そこで、日常の役員や管理職の議論の内容をモニタリングして、経営判断が必要な案件が発生した場合にはすぐに対応できるようにしている。私は、外部の人間として関わっているが、彼らは一般的な理論や通り一遍の情報を求めているわけではなく、私が経営陣であればどういう判断をするか、なぜそういう経営判断になるのかといった経営判断の基準を求められていると思っている。

宿泊施設の1運営事業者から始まった同社は、今では自分たちでブランドをつくってホテル開発をしている。ホテルの再生ビジネスも行い、Airbnb Partnersの公式ホテル「Sumu」のオペレーターにもなっている。今後の成長が楽しみだ。


◇ 記事の問い合わせは日本生産性本部コンサルティング部、電話03(3511)4060まで。
◇ 過去の連載も掲載している、生産性向上のヒントが見つかる情報サイト「生産性navi」もご覧ください。(おわり)

コンサルタント紹介

主任経営コンサルタント

井之上 拓也

京都大学経済学部卒業後、中小企業金融公庫(現日本政策金融公庫)にて12年間勤務。
日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了し、本部経営コンサルタントとして、企業の診断指導、人材育成の任にあたる。
シンガポール国立大学大学院修了(経営学修士)。
(1984年生)

お問い合わせ先

公益財団法人日本生産性本部 コンサルティング部

WEBからのお問い合わせ

電話またはFAXでのお問い合わせ

  • 営業時間 平日 9:30-17:30
    (時間外のFAX、メール等でのご連絡は翌営業日のお取り扱いとなります)