2025年 年頭会長所感

内外ともに歴史的な転換点にあたる2025年、生産性運動は70周年の節目を迎える。


ロシアによるウクライナ侵攻や中東紛争、東アジアにおける緊張の高まりなど、国際秩序を揺るがす事態が相次ぎ、世界は米ソ冷戦以来の危機感に覆われている。
極端で煽情的な主張や迎合的な意見が世論を煽る風潮が散見され、多くの国で民主主義の危機が叫ばれている。欧州では、ポピュリズム政党や極右政党が台頭するなど、政治情勢は混迷を深めている。米国では、対立と分断が深刻化する中、自国第一主義を掲げる第2次トランプ政権が今月20日に発足する。
2025年は、地政学リスクを抱える日本にとって、政治・経済、外交・安全保障、環境・エネルギーなど多くの分野で国家戦略が問われる一年となる。

国内に目を転じると、昨年は、原材料・エネルギー価格の高騰や進行する円安基調等を背景に物価高が継続する一方、円安等の効果により多くの日本企業が業績を伸ばし、また33年ぶりに5%を超える水準(定昇相当込み)の賃上げが実現するなど、明るい兆しもみられた。
世界経済を取り巻く環境の不確実性が高まる中、本年は、日本経済を再び成長軌道に乗せられるか否かの分岐点にある。
わが国が、今後も持続的な経済成長を実現し、国民生活の豊かさを高めていくためには、物価を上回る実質賃金の上昇を継続させていかなければならない。そのためには、今こそ生産性改革の担い手である労使双方が知恵を出し合い、付加価値増大を軸とした生産性向上と賃上げの好循環の流れを確実なものにしていくことが不可欠である。

経済成長の主役である企業の役割は、イノベーション(革新)とディファレンシエーション(差異化)によって新たな需要を創造し、付加価値の増大に取り組むことにある。経営者はリスクを恐れず、将来の成長を見据え新規事業の開発や新たな市場の開拓をはじめ、デジタル化、研究開発、人材育成等へ積極的に投資すべきである。
一方、個々の企業による努力は当然であるが、政府の役割は、経済の新陳代謝を促し、生産性の高い企業へ資本や労働力を移動させることにより、経済全体の活力を生み出していくことにある。その際には、労働市場の整備など、セーフティネットを強化していかなければならない。

昨秋の衆議院議員選挙で、国民は与党に厳しい審判を下した。総選挙を経て発足した第2次石破内閣は30年ぶりの少数与党内閣となった。与野党双方はこれを日本の民主主義をバージョンアップする好機と捉え、責任を共有しつつ抜本的な政治改革に取り組み、国民の政治・政党に対する信頼を取り戻すべきである。
殊に、国会改革・政党改革は最初の試金石である。与野党には、国民に開かれた熟議による新しい国会の姿を今こそ国民に示してもらいたい。

石破総理には、中長期の国家ビジョンを明らかにし、外交・安全保障をはじめ、生産性改革による経済成長と所得向上、財政・社会保障制度改革、人口減少・地方創生など、これ以上先送りが許されない課題の解決に腰を据えて取り組むことが求められている。加えて、総理自らが先頭に立ち国民に信頼される政治の実現にリーダーシップを発揮することを望む。

生産性運動は本年70周年を迎える。われわれ日本生産性本部は、「第3次中期運動目標」(2024年度~2026年度)のもと、全国生産性機関全国労働組合生産性会議(全労生)とも連携し、持続可能な経済社会を次世代に引き継ぐため、以下を重点課題とし改革に向けた実践活動に取り組む。

昨年再始動した第2期「生産性常任委員会」の活動を通じ、労使を含め各界が共有すべき今後の生産性改革の指針を討究し、65周年以来となる第2回「生産性白書」を公表する。
発足3年の節目を迎える「令和国民会議」(通称:令和臨調)の活動を通じ、「政治改革」「経済・財政・社会保障」「国土構想」「科学技術・イノベーション」等の課題について超党派の国会議員と連携し改革への道筋を提起する。
国家最重要課題の一つであり、生産性運動の基盤に関わる人口減少問題について、新たな国民運動組織を立ち上げ、国民的な世論喚起・合意形成活動に乗り出す。
第5回「日本サービス大賞」の取り組みを通じ、革新的かつ優れたサービスを発掘・表彰するとともに全国に普及をはかり、日本経済の7割を占めるサービス産業の底上げに寄与する。
イノベーション会議」の活動を通じ、企業のイノベーションを促進し、生産性向上に結びつけるための人材投資のあり方とそのために必要な条件整備について討究・発信する。


2025年1月8日
公益財団法人日本生産性本部
会長 茂木 友三郎