第1回:現場起点で人事改革~カネシメ髙橋水産(2026年9月15日号)
1924年創業のカネシメ髙橋水産は、札幌市中央卸売市場を拠点に、水産物の卸売事業を展開している。冷凍・冷蔵保管や水産加工、品質・衛生管理などを担うグループ会社とともに、北海道の水産物流通を支えている。環境や働き方が変化する中、同社は従業員の役割や成果を適切に評価し、人材育成につなげるため、グループ共通の人事制度を抜本的に見直した。
改革を担当したカネシメホールディングス人事・法務部、情報・DX推進部担当執行役員の大沼優氏は「従来の制度は、実際の業務との間にずれが生じ、十分に活用しきれていなかった」と振り返る。
伴走型支援で役割と評価を明確に
従来の人事制度は、導入から時間が経過する中で、管理職に求められる役割や能力の水準と、現場の実態が合わなくなっていた。日常業務に当てはめにくい項目もあり、評価の運用では、上司の判断に委ねられる部分が大きくなっていたという。
改革の契機となったのは、2023年ごろ、営業部門を担当する役員の若返りが進み、給与や手当の見直しが議論されたことだった。部長職以上への聞き取りを行ったところ、制度と実態のずれや評価基準の分かりにくさなど、さまざまな課題が明らかになった。
制度変更への強い抵抗はなく、社内ではむしろ、現在の事業や働き方に合った制度への見直しを求める声が多かったという。
改革を日本生産性本部に依頼した背景には、カネシメ髙橋水産との過去の協働実績がある。社員10人超が参加した半年間の「現場力向上リーダー育成プログラム」では、職場の課題解決を実践しながら、改善を担う人材の育成に取り組んだ。こうした経験を踏まえ、今回の人事制度改革でも、制度のひな型をそのまま導入するのではなく、同社の事業や組織の実情に即し、実際に運用できる制度をともに考える支援が期待された。
大沼執行役員は「会社や現場の事情を理解した上で、一方的に答えを示すのではなく、一緒に考えてもらえた」と話す。
日本生産性本部の経営コンサルタントは、プロジェクトメンバーの意見を引き出し、論点を整理しながら議論を支援した。制度の設計にとどまらず、社内でどのように検討を進め、役員や管理職の合意を形成していくかについても助言した。
制度を人材育成の基盤に
新制度では、水産市場を中心とする事業の特性を踏まえ、管理職の役割を現実に即して定めた。市場の業務では、管理職であっても顧客や商品と向き合う実務が欠かせない。一方で、プレーヤー業務に比重が偏ると、部下の育成や組織運営に十分な時間を充てにくいという課題もあった。
そこで、プレーヤーと管理職としての役割の割合を役職ごとに整理した。次長職は両者をおおむね半分ずつ担い、部長職も一定の実務を続けながら、組織全体の管理や人材育成に責任を持つ。
一般的な管理職像を当てはめるのではなく、現場を知ることと、人を育てることを両立させる制度とした。
評価では、成果や行動に応じて適切に差を設けることを重視した。従来は、仕事への取り組みや貢献度が処遇に十分反映されにくい面もあった。新制度では、何が求められ、どのような行動が評価されるのかを明確にし、努力や貢献が処遇に反映される仕組みを目指した。
制度の基本的な枠組みはグループ会社で統一し、職種や業務内容に応じて評価項目を調整した。評価基準を明らかにしたことで、特に若手層からは、何を目標に働けばよいか分かりやすくなったとの反応が得られている。
中堅層には、これまでの制度運用の経験から慎重に受け止める向きもあるが、若手層にはおおむね好意的に受け止められている。
改革は、役員層の意識にも変化をもたらした。制度を検討する過程で、人材育成や管理職の役割について議論を重ねたことで、従業員教育を経営課題として捉える意識が高まった。グループ会社の役員にも、人を育てることの重要性が浸透したという。
大沼執行役員は「制度を作って終わりではない。運用を通じて社員を育て、会社の成長につなげていくことが重要だ」と話している。
対話からつくる人事制度 三澤勇介主任経営コンサルタント
人事制度は、整えただけでは社員の行動や組織文化の変化にはつながらない。経営層や管理職が目的を理解し、自ら運用することが欠かせない。
三澤コンサルタントは、カネシメ高橋水産の改革を「制度以上に、管理職の意識をどう変えるかが重要だった」と振り返る。
管理職の役割を問い直す
水産市場では管理職も実務を担い、部下育成や組織運営に十分な時間を割きにくい。そこで、人を育て、組織を動かすことも管理職の役割だという認識を共有した。
背景には、人事部門が感じていた制度と現場とのずれがあった。役員や管理職が議論を重ね、目指す組織像を共有し、制度へ落とし込んでいった。
重視したのは、一般論を当てはめず、現場との対話を通じて運用できる仕組みにすることだ。約1年にわたり人事部門や役員と議論し、「あるべき姿」と現状の隔たりを埋めた。
理想を追いすぎれば現場に受け入れられず、現状に合わせすぎても成長にはつながらない。「少し努力すれば届く目標を共に考え、その積み重ねで組織を変える」ことを重視する。
検討を通じ、役員や管理職には人材育成を経営課題として捉える意識も高まった。「制度づくりがゴールではない。企業が自ら考え、納得し、運用を続けられる状態をつくることが重要だ」としている。
◇ 記事の問い合わせは日本生産性本部コンサルティング部、電話03(3511)4060まで。
◇ 過去の連載も掲載している、生産性向上のヒントが見つかる情報サイト「生産性navi」もご覧ください。(おわり)
コンサルタント紹介
三澤 勇介
株式会社ニトリ、ニトリHDで10年半勤務。
店舗運営管理、配送管理、新店売場作成を経て、経営企画業務(経営管理、事業推進など)に従事。
日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了、本部経営コンサルタントとして、企業の診断指導、人材育成の任にあたる。
大阪大学大学院 工学修士
(1986年生)
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