第2回:現場人材に学びと成長の機会~YKK AP(2026年10月5日号)

YKK APは、生産現場で働く社員の学び直しとキャリア形成を支援する社内大学「YKK AP工科大学(APテック)」を開設し、現場を担う人材の育成に取り組んでいる。生産技術、生産管理、品質管理、ITの4コースを設け、専門知識の習得に加え、自職場の課題を分析し、改善につなげる実践的な学びを展開する。高卒社員が多い生産現場で、学ぶ機会と新たなキャリアへの道を広げ、将来の現場リーダーや工場長を育てることを目指している。

社内大学でキャリアの選択肢広げる

YKK APは、生産現場で働く社員の学び直しとキャリア形成を支援する社内大学「YKK AP工科大学(APテック)」を開設し、現場を担う人材の育成に取り組んでいる。生産技術、生産管理、品質管理、ITの4コースを設け、専門知識の習得に加え、自職場の課題を分析し、改善につなげる実践的な学びを展開する。高卒社員が多い生産現場で、学ぶ機会と新たなキャリアへの道を広げ、将来の現場リーダーや工場長を育てることを目指している。

職場課題の分析や改善について学ぶ授業風景

APテックが広げる人材の可能性~現場社員のキャリアを支援

APテックは、経営トップの強い意向のもと、約3年前に始まった。社員のエンゲージメント向上に取り組んでいた同社は、生産現場で働く社員のキャリア形成に対し問題意識を持っていた。
生産本部には高卒で入社した社員が多い。一方、総合職などとはキャリアの選択肢に違いがあり、自らの将来を限定的に捉えたり、成長への意欲を失ったりする可能性がある。そこで、改めて学ぶ機会を設けるとともに、職務転換を含めた異なるキャリアへの挑戦や、能力や意欲のある社員が実際の大学へ進学する機会にもつなげようと、APテックを立ち上げた。
YKK AP人事戦略本部人材開発統括部の菅谷友子部長は、現場社員が学びを通じて自らの可能性を広げられる環境づくりが重要だと話す。
対象となる現場系社員は全国に約4500人。応募に年齢制限は設けず、入社4年目以上を条件としている。参加者は20代前半か50代の社員まで幅広く、第3期までの平均年齢は33歳。北海道から沖縄まで全国の拠点から参加し、第1期から女性受講者もいる。

製造業人材育成~出席率95%超のオンライン講座と現場改善

APテックは、期間中、原則、毎週金曜の午後に授業がある。現場での勤務後にオンライン講義を受け、発表や翌週までの振り返りシート、レポート提出に、積極的に取り組んでいる。職場側も、受講予定に合わせて深夜勤務者を日勤に変更するなどのシフト調整を行っている。出席率は95%を超えている。
カリキュラムは、生産技術、生産管理、品質管理、ITの4コースで構成する。全コース共通で製造に必要となる基礎知識とコミュニケーション、リーダーシップなどを学んだ上で、それぞれの専門分野に進む。期間は約6~7カ月で、基礎講座と専門講座をそれぞれ約3カ月実施する。
特徴の1つが、学んだ内容を実際の職場で活用するアクションラーニングだ。受講者自身が所属部門の課題を取り上げ、現状を分析し、改善につなげる。参加者の職場は、アルミなどの素材部門から加工、物流、購買まで幅広く、生産現場ごとの課題に即した実践が行われている。

成果を現場の改善に活かす

成果を職場へ

全国の事業拠点から集まった第2期修了者

研修の成果は、職場の改善活動にも表れ始めている。アクションラーニングを通じて無駄取りなどに取り組み、第1期の九州地区のメンバーはYKKグループの小集団活動発表会で最優秀賞を受賞。北海道のメンバーによる取り組みもYKK AP内で最優秀賞に選ばれた。
修了者からは「これまで曖昧だった知識に理論的な裏付けができた」「現場の課題を分析し、解決する力が身に付いた」といった声が出ている。経験だけでなく、数字や根拠を基に考えることで、自信を持って意見を述べられるようになったとの評価もある。
もう1つの成果が、拠点を越えた社員同士のつながりだ。それまで接点のなかった全国の現場社員が共に学び、互いの課題や経験を共有する。第1期の修了者は現在も交流を続けており、修了後に集まり、それぞれの取り組みを共有する場も設けられている。

今後の課題

第1期は37人、第2期は30人が修了。第3期は29人が受講中。参加には本人が希望する「手挙げ」と職場推薦の2つの方法があり、第1、第2期は手挙げによる参加が7割以上を占めていたが、第3期では職場推薦による参加が手挙げを上回った。
先行する受講者から学習の大変さが伝わったことや、人員を抑える中で社員が職場を離れることへの懸念なども背景にあるとみられている。
APテックで学んだ社員が職場で力を発揮し、現場リーダー、さらに将来の工場長など次の役割に挑戦できる環境を整えることで、社員の成長と生産現場の力の向上につなげていく考えだ。

現場で生きる学びを~日本生産性本部主席経営コンサルタント 鍜治田良氏の話

自動化やIT化が進んでも、人材の力がなければ現場は機能しない。APテックでは、知識の習得にとどまらず、学びを仕事に結び付け、自ら考えて行動する力を育てることを重視した。

答えのない課題で考える力養う

■教育の基盤を広げる
現場はチームで動く。キーパーソンを中心に教育の基盤を広げ、周囲と協働できる人材を育てる。
研修では、理論を身近な仕事に置き換えて考え、自分の言葉で表現する。楽しさだけに偏らず、実務で使える内容を取り入れた。
■答えのない課題に挑む
最終課題では、答えが分かっているテーマを選ばないよう求めた。解決策が見えている課題は、分析より実行の問題だからだ。
答えの見えない問題や職場の困り事を分析し、自分なりの答えを導く。
■失敗から気付きを得る
考えがまとまらない。資料を作り直す。発表しても伝わらない。こうした経験から気付きを得ることも学びだ。職場では失敗が本人の評価に影響し、安心して試行錯誤できる機会は多くない。
やり切ることは成功体験となる。受講者には、自部門だけでなく他部門とのつながりや全体最適を意識する姿も見られた。
人材育成の成果は短期間では測りにくい。学んだ人が増え、その経験が組織に広がるには、時間と資金を継続して投じる姿勢が欠かせない。


◇ 記事の問い合わせは日本生産性本部コンサルティング部、電話03(3511)4060まで。
◇ 過去の連載も掲載している、生産性向上のヒントが見つかる情報サイト「生産性navi」もご覧ください。(おわり)

コンサルタント紹介

主席経営コンサルタント

鍜治田 良

金沢工業大学大学院 イノベーションマネジメント研究科修了(MBA)
中堅建材メーカーにて現場でのモノづくりを実践
日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了、本部経営コンサルタントとして、企業の経営革新支援、人材育成の任にあたる。
(1977年生)

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