第2回:管理間接部門の残業削減(2017年5月25日号)

管理間接部門の残業発生状況には一般に次のような特徴があります。①人によるバラツキが大きい(特定個人への業務集中)、②残業の発生時期が決まっており、波が大きい。そして、そのような状況に対して残業規制、定時退社奨励、フレックスタイム等の施策で対応している企業が多いと感じられます。

我々は働き方を抜本的に改革するには「労働生産性の向上」が不可欠であると考えており、その内容は第1回の連載に記述した通りです。自社の労働生産性の構造を理解し、適切な対策を打つことが肝要です。対策の方向性としては、①戦略の問題、②業務の問題、③組織・個人の問題、④マネジメントの問題に大別できると考えていますが、今回は業務の問題にフォーカスして基本的考え方を述べます。

管理間接業務には一般に次のような特徴があります。①業務プロセスが個人の頭の中にあるため、業務プロセスの実態が見えにくく、ブラックボックス化している。そのため標準化が進められず、多能化ができない。多能化ができないため応援体制が組めず、特定個人に負荷が集中する。②部門間をまたがる業務が多く、業務方法を変更することの可否が担当者では判断できない。③戦略・企画立案のような創造的業務と定型資料作成・伝票処理のような定常的 業務を分類して認識していない。④経営課題の変遷に伴い、様々な新規部門を創設し、新たな業務が発生するが、過去の業務の見直し、棚卸しが行われていないため雪だるま式に業務量が増加している。また、新規業務は、より良い成果を目指して肥大化する。

最も根源的な課題は「業務が見えにくい」ことであり、そのことが改善を阻害し、労働生産性を低下させていると考えます。

管理間接業務を改善するには、まず見える化することが前提になります。見える化には、業務量の見える化と業務方法の見える化の二つの側面があります。

業務量の見える化とは、どの仕事にどれくらいの時間をかけているかを明らかにすることです。業務量を明らかにしたら、その業務内容を付加価値の視点から評価します。管理間接業務の付加価値に ついては、ビジョン・経営戦略等との適合性や顧客価値への寄与度等の視点から評価し、付加価値が低いと考えられる業務は排除やアウトソーシング等の方向性を検討することになります。

また、業務の難易度の視点から、例えば上級管理職が定型的業務ばかりを担当していたり、一般社員や契約・派遣社員が難易度の高い業務を担当しているというような状態も改善対象と捉えるべきと考えます。

業務方法の見える化は、誰がいつどのような方法・手順で業務を遂行しているのか、その実態をそのまま明らかにすることが肝要です。

例えば資料提出・承認というような手順の中にも、往々にして業務の差し戻しや停滞等のムダが含まれており、そのようなムダを減らすことが改善につながります。特に部門間をまたがる業務については、その流れを追うことによって、多大な時間をかけて作成している資料が後工程ではあまり活用されていない等の、作成担当者自身では気づくことができないムダを浮き彫りにすることができます。

残業削減に取り組む際には、組織によっては残業代が従業員の生活を支える要素になっていることもあり、基本的考え方を明らかにしておくことが肝要です。

この点についても第1回の連載に記述していますが、「働きがいの創出」と「労働生産性の向上」による組織と個の融合に向けた「ありたい姿」と「実現のための基本方針」から、なぜ残業削減に 取り組むのか、残業削減の成果をどのように活かしていくのかをよく説明し、理解してもらうことが重要です。

残業時間の数値目標だけを追求し、業務の見直しをなおざりにすると、最悪の場合には隠れサービス残業が増大したり、従業員のモラールが低下してしまう可能性もあります。逆に業務改善を進めても残業時間削減につながらないという現象も見られることがあります。今まで作業に追われて付加価値の高い業務に取り組めていなかった担当者が、改善により創出した時間に高付加価値業務を遂行するようになるとこのような現象が起きます。 残業時間という数値目標だけでなく、業務の質に対する評価も必要と考えます。

(筆者略歴)コンサルタントとして、27年を超える実績を持つ。製造業の現場改善支援を柱に、現場リーダーの改善能力強化、残業削減、管理間接部門の生産性向上、経営品質向上支援等、現場に密着した改善指導を専門領域としている。著書に『企業経営の理論と実践』(共著、学文社)等。

(2017年5月25日 生産性新聞掲載)

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コンサルタント紹介

主席経営コンサルタント

矢島 浩明

上智大学経済学部経営学科卒業後、パイオニア株式会社にて勤務
日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了、本部経営コンサルタントとして、各種事業体の診断指導、人材育成の任にあたる。
(1961年生)

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