第3回:設計開発部門の働き方改革(2017年6月5日号)

設計開発部門の働き方改革を実現するための会社レベルでの主な取り組みとして、労働生産性の向上があります。 労働生産性を向上させるためには、付加価値額を増やす、もしくは、労働投入量を減らすことが基本的な方向性になります。

①付加価値額の増加

他社製品・サービスにはない魅力的な機能を製品にすることで、付加価値を増やすことができます。 お客様が要求している機能は、競合他社も対応するため、付加価値額はあまり増えません。 お客様の気がつかない役立ち機能を入れることで付加価値額が増加します。 そのためには、製品・サービスの使用シーンから隠れたニーズを見つけ出すことがポイントになります。 お客様との接点の少ない技術者も多いため、その仕組みを構築する必要があります。

加えて、技術者の能力アップが必要です。

日々の業務に追われて研鑽のための時間が確保できないのであれば、業務の改善から着手する必要があります。

②労働投入量の削減

製品開発において、業務量を増やしている原因を考えました。

◆業務に不確実性がある。

新製品開発は、差別化のために新機能を盛り込みます。しかし、新機能は未知の領域であり、失敗する危険性が高くなります。失敗しないように固有技術を磨くことは必要です。

加えて成功確率を上げるためにリスク管理やPDCAによる迅速に修正できる仕組みを作ることが大切です。

例えば、あるメーカーで新製品開発時に計画よりも多くの時間がかかってしまいました。その原因に仕組みの未整備がありました。設計開発担当者が性能・品質を満たしていると判断して開発を進めましたが、途中で品質保証部門責任者が目標性能未達と判断したためです。最初から品質保証部門責任者がチェックしていれば、やり直しは発生しませんでした。

不確実性を減らすための手段としては、過去の設計資産を流用することも有効です。このような標準化は、技術者個人での実現には限度があります。組織主導で仕組み化することが大切です。

◆業務が分かりにくい

一人で複数の業務を兼任することが多いため、業務が複雑化しています。お互いの業務が見えないために、個別最適となりムダを生んでいることもあります。見えないものは改善できないので、事実をしっかりと把握することから着手します。

◆ノウハウが見えにくい

ある設計会社でベテラン社員と若手社員の設計能力を対比したところ、2倍以上の生産性の違いがありました。若手社員は考えている時間よりも悩んでいる時間が多いことが原因でした。

設計の思想、考え方はベテラン社員の頭に蓄積されていることが多く、若手社員にとってはブラックボックスになっています。対応としては、ベテラン社員と若手社員の設計書類の作成手順を具体的に対比することで、考え方の違いを垣間見ることができます。そこからノウハウを抽出して重点的に育成します。

◆意識が障害になる

ある設計会社で、「すごく残業する人がいたので、比較的暇な部門に異動させました。しかし、異動後もその人の残業が突出していました」と聞きました。本人は「良い製品を作りたいから一生懸命に業務に取り組んでいる」と言っていました。 良い製品を作ることは良いことですが、目標値に関係なくご自身が納得するまで開発時間を投入すると、健康や予算などの問題が生じます。しかし、本人の意識としては希薄になっています。

意識を変えようとしてもなかなか変わるものではありません。意識を変えるのではなく、意識を活用します。例えば、人は悪いことは直そうとします。しかし、悪いと感じなければ直そうとは考えません。そこで、現在の取り組みを○か×かで判定します。×と判定されると○にしようと努力します。

業務のブラックボックス化は、働き方改革の障害になります。業務を見えるようにして、仕組みを作ることが有効です。そして、仕組みを使って、能力や意識の問題を解決していくことで労働生産性が向上します。

(筆者略歴)電機メーカーで研究・開発業務に従事した後、経営コンサルタントとなる。国内外の企業で生産性改善活動支援、人材育成、管理間接部門の業務改善などに取り組んでいる。事実に基づいた因果関係構築によって解決の糸口を見つける事実重視型の問題解決を指導している。

(2017年6月5日 生産性新聞掲載)

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コンサルタント紹介

主席経営コンサルタント

三枝 久芳

大学院(機械工学専攻)修了後、電機メーカーにて新技術の研究・新商品の開発・市場品質改善・業務改善活動に従事。
日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了、本部経営コンサルタントとして、企業等の診断指導、人材育成の任にあたる。
(1965年生)

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