第4回:管理職業務の標準化(2017年6月15日号)

底力という組織能力

生産性向上というと「現場改善」に焦点が当たりますが、そもそも改善を徹底する力が備わっていないと、改善効果を成果として得ることはできません。

改善が定着しない組織では、いくら改善をしても時間の経過とともにリバウンドしてしまいます。その結果、改善効果は一時的となり、長期的には生産性向上がはかれません。

現場改善を熱心に取り組んでいる企業の支援をした際、過去の改善の成果がどれくらい定着しているかを確認したことがあります。

確認した理由は活発な改善活動の割には損益計算書に動きが少なく、現場を歩くと、改善が定着していないように感じられたからです。改善提案の定着率は約30%でした。中身を分析しますと、品質不良にかかわることについては定着していたものの、整理・整頓や職場のルールなどは定着していないことが多かったです。そのため、来客や社内のイベントなどの前に一夜漬けで整理・整頓の実施やルールの再徹底を行うのです。 これでは改善の成果は一時的になってしまいます。

このように、改善を徹底する力がないと、改善効果は一時的となってしまうのです。

好き嫌いと得意不得意の現場マネジメントに振り回される現場

徹底する組織能力を得るためには、現場を統括する現場の管理職やリーダーの一貫した指摘が必要となります。定着するまで指摘し続け、改善策の働きかけをしていく必要があります。

しかし、組織の中で、現場の管理職が一貫性のある指摘を行うことは難しいことです。それは人事異動により人が変わるからです。本来であれば現場の管理は、人が変わっても大きく変えるべきではありません。

現場の管理が変わってしまうのは、現場の管理職は自分の仕事を自由に組み立てられるために、自分の好き嫌い、得意不得意で仕事をしてしまうからです。

たとえば、現場での作業が好きな人、得意な人は現場の管理そっちのけで現場の応援に入ってしまい、事務作業が好きな人、得意な人は事務所にこもりっきりとなってしまうのです。パソコン業務が不得意であれば、これまで収集、分析していたデータ収集をやめてしまったりします。管理職の好き嫌い、得意不得意で管理業務が大きく変わってしまうのです。

これに振り回されるのが現場です。管理職が変わるたびに、管理職の指摘するポイント、やり方が変わってしまうと、余計な業務が増えてしまったり、継続すべきことをやめてしまったりします。その結果、積み重ねてきた改善は現場で実行されなくなってしまうのです。これまで培ってきた改善効果は得られなくなってしまいます。

徹底力を磨くには

徹底力を磨くには、人が変わっても管理のやり方が変わらないようにしていくことが重要です。そのためには管理職の業務、組織としての業務を定義し、見える化し、やるべきことをリスト化し、マニュアルを作成することが必要です。これらを管理職の業務として引き継いでいけば、管理職のやるべき業務は標準化されます。

具体的に管理すべき項目は朝礼、現場巡回のルート、現場の目標設定、応援の調整、OJTなどが挙げられます。そして、これらのマニュアルを作成していくのです。

たとえば、現場巡回ではルートとやり方を明確にします。そうすれば、現場に行くのが嫌いな人も業務として現場に行くようになります。さらにマニュアルがあることで、管理職が変わっても、同じように現場巡回を行うことができ、継続して現場に指摘し続けることができるようになるのです。

このように管理職が変わっても一貫して継続的に指摘する仕組みを作ることで改善策は定着していくのです。

現場改善の徹底は管理職と現場の根くらべです。現場に対して、できるまであきらめずに管理職が指摘し続けることが徹底力の強化になります。管理職が指摘する行為を管理職自身の意識や意欲に求めるのではなく、業務の標準化という考え方をすることが重要となります。

(筆者略歴)あらゆる業種で事業DD(デューデリジェンス)、現場改善、現場力向上といった幅広いコンサルティング実績を持つ。企業内での経営幹部養成、現場管理職研修、現場力向上など、人材育成分野でも幅広く活躍している。サービス産業の業務仕組み化セミナーの講師も務める。

(2017年6月15日 生産性新聞掲載)

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コンサルタント紹介

主席経営コンサルタント

鍜治田 良

金沢工業大学大学院 イノベーションマネジメント研究科修了(MBA)
中堅建材メーカーにて現場でのモノづくりを実践
日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了、本部経営コンサルタントとして、企業の経営革新支援、人材育成の任にあたる。
(1977年生)

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