第5回:同一労働同一賃金に向けて(2017年6月25日号)

①働き方改革の視点

働き方改革には、「働き方の改革」と「働きの改革」があります。

「働き方の改革」は、労働者各人が〝同じ仕事をするという条件〟での〝仕事の仕方や進め方〟すなわち、業務遂行形態、勤務形態、勤務場所や勤務時間等の〝働き方〟について会社と本人の双方にとっての都合や生産性の上で最適な基盤や条件を設定し、選択できるように改革することです。 この場合は、勤務管理を中核に労務管理や賃金管理の検討を行う狭義の視点です。

一方、「働きの改革」は、仕事そのものを改革することをいいます。そのことは働き方の改革を伴います。働き方改革を「〝働き〟と〝働き方〟の双方の改革」として広義に捉えた視点です。

労働者各人が長期的に働く過程において、担当する仕事を変え、併せて仕事の仕方も変える。〝働き〟と〝働き方〟の多様な組み合わせの中で会社と本人の双方にとっての最適な基盤や条件を改革することです。

働き方改革は、〝生産性向上〟と〝働く人の環境条件の基盤拡充〟の双方を追求することから、広義の視点での検討でなければなりません。

②ダイバーシティへの対応と働き方改革

昨今の労働環境は、人と仕事の両面において変化しています。人側の変化としては、人口減少に伴い高齢者や外国人労働者の活用のほか女性活躍が、またライフサイクルにおける結婚・出産・育児・育英や高齢化に伴う介護等に合わせた多様な働き方が求められています。

一方、仕事側の変化としては、IoTやAIなどITの進化や成長産業分野の変化も急激になっています。さらに、非正規社員も労働者全体の約40%と増加し、賃金格差も拡大し社会的問題として深刻になっています。

これまでの製造業をベースとした伝統的・画一的な労働条件では対応できない状態になっています。ダイバーシティへの対応なしには企業の成長と生産性の向上は成り立たない環境となっています。働き方改革はそれと一体的な位置づけにあります。

③同一労働同一賃金の原則

現段階での同一労働同一賃金の原則の法律は、個別企業において〝正規社員と非正規社員の間の待遇格差の解消〟を狙いとした雇用形態にこだわらない「均等・均衡待遇」の確保を求めたものです。 これは、〝正規社員同士の待遇格差の解消〟のことではありません。例えば、正規社員の中でも「勤続の長いルーチン作業のベテラン担当者が、企画開発業務の中堅担当者より賃金が高い」「時間外手当を含めたら上司の管理職と年収が逆転している部下がいる」などの年功的色彩の賃金実態は残念ながらいまだに多くの企業に見受けられますが、〝正規社員と非正規社員の間の待遇格差の解消〟という狭い範囲の原則ではなく、ダイバーシティに対応して広く社員全体を対象とした同一労働・同一賃金の原則にすることが日本の産業の発展や生産性向上に必要な条件ではないでしょうか。

④同一労働同一賃金を進めるための条件

同一労働同一賃金の理解が進まない大きな背景・理由として日本的雇用・人事が持つ特性があります。

三種の神器と言われた「企業内組合・終身雇用制・年功序列型人事」においては、ジョブ型雇用(就職)ではなくメンバーシップ型雇用(就社)が主流です。ジョブ型雇用では、「労働」や「職務・職種」の概念を明確にすることが大前提ですが、メンバーシップ型雇用では、その概念が希薄です。「そもそも何をもって同一労働というのか」という入り口で話がストップしてしまいます。

同一労働同一賃金の原則を前進させるためには、まずは「労働」や「職務・職種」「仕事の成果」等の管理概念を明確にした人事・労務管理や生産性の管理が必要です。

そして、年功的な属人的人事システムから役割などの属職的人事システムに転換することです。

すなわち、人事システムを同一労働同一賃金の原則に基づいて再構築すれば、性別・年齢別・雇用形態別などの格差問題の解消はもちろん、ライフサイクルに対応して多様な働き方を準備することによって働きやすさの向上も図られ、生産性向上に結び付いていくはずです。

(筆者略歴)これまで指導した企業数は650社を上回る。経営改善、改革コンサルティング、経営戦略・経営計画策定、組織改革、雇用・勤務制度改革、教育訓練、特に企業経営変革期の人事制度再構築を得意とする。著書に『コア人財の人事システム』(生産性出版)等。

(2017年6月25日 生産性新聞掲載)

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コンサルタント紹介

代表経営コンサルタント

元井 弘

関西学院大学法学部卒業後、大手物流会社に勤務する。
1976年日本生産性本部「経営コンサルタント養成講座」を終了。
その後経営コンサルタントとして40有余年各種事業体の経営コンサルティング、人材育成に当たり、現職に至る。
(1947年生)

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