第8回:ミドルマネジメントへの期待(2017年8月25日号)
働き方改革は多様な変数の因果関係を考慮しなければならず、組織の収益性や存続に大きなインパクトを与える課題です。 労働生産性(時間当たり付加価値=付加価値÷総労働時間)の向上という成果をいかに働きがいへと結実させるかが問われています。
働き方改革に取り組むにあたって、組織は経営環境や組織能力に立脚したありたい姿とそこに至る道筋を描く必要があります。 「付加価値の増大と総労働時間の短縮のいずれに力点を置くか」「トップダウンで推進するか、ミドルアップで推進するか」などに関し、独自の働き方改革を構想し取り組む必要があります。
1.ミドルマネジメントの役割と実態
働き方改革の実現に向けてのミドルマネジメントの役割は、トップマネジメントの大きな構想や方向性を、独自のありたい姿やその道筋として具体化し、既存業務の改善や変革として実現することです。
その際、部下(場合によっては他部署、顧客やサプライヤー)を巻き込み、そして時にトップマネジメントにかけ合い、また業務を通じて部下の能力(知識、スキル、意識・態度)の育成につなげることが重要です。
2.七つの能力
労働生産性の向上と働きがいの両立という働き方改革の実現に向けミドルマネジメントが身につけるべき能力は七つあります。
①労働生産性の構造の理解力
労働生産性向上のためには、「付加価値増大のための戦略課題」「高付加価値業務の増大や低付加価値業務の合理化・標準化という業務課題」「適正な人件費単価や労働時間の設定、個人・組織のスキル向上などの組織・個人課題」 「指示・命令などのマネジメント課題」と大きく四つの課題があります。これらの課題を相互に関連して把握するために、ミドルマネジメントは論理力を基盤として労働生産性の構造を理解すべきです。
②課題の具体化力
課題の具体化力とは、目的・目標を設定し、実行事項(To Do)を洗い出し、所要時間(工数)を見積もり、時系列に順序立て(スケジューリング)、実行の責任者を明らかにするなどの一連の能力を指します。
③指示・命令力および報告・連絡・相談力
課題の実行にあたっては、「目的・目標」「期限」「進捗管理のやり方」などについて部下らと共有し、指示・命令をするとともに、「事実と推理・推論の区別」などの原則に沿って進捗の状況を報告・連絡・相談させることが求められます。
④コミュニケーション力とモチベーション力
業務実態の理解や指示・命令などにかかわる傾聴、質問、プレゼンテーション、会議運営などのコミュニケーション全般の能力、部下や自分自身を働き方改革へ動機付けるモチベーション力が、働き方改革の実現においては重要です。
⑤リーダーシップ力
多様な利害関係者に働きかけるリーダーシップ力が必須です。組織風土などにより効果的なリーダーシップのスタイルが異なることに留意し、自身の得意あるいは不得意なリーダーシップスタイルを理解することが肝要です。
⑥問題解決力
働き方改革を推進すると様々な課題が発生します。論理的思考はもとより、問題やその背景への批判的な思考、従来の切り口とは異なる視点・考え方で問題をとらえる水平的な思考が求められます。当初の計画に拘泥しない経験学習能力も大切です。 具体策の実行から発見するアイデアを再度計画に織り込むことも可能となります。
⑦意識改革力
従来からの前提や考え方を改めるという意識改革力も必要です。同一労働同一賃金の実現のための職務や成果などの概念の明確化、宗教や価値観等の内面的な相違も受容し生かすダイバーシティの推進、これまでその有効性を疑いもしなかった既存業務の改善・変革などにおいては有効となります。
ミドルマネジメントがこれら七つの能力を身につけてこそ、成果を伴う働き方改革が一歩前進する準備が整ったと考えられます。
(筆者略歴)経営戦略、マーケティング、業務改善、組織開発、人材育成など幅広い視点から企業の競争優位性の向上、収益性・財政状態の改善に取り組む。多岐にわたるテーマでマネジメント研修を実施。著書に『経営コンサルティング・ノウハウ2 仕事の基本』(中央経済社)。
(2017年8月25日 生産性新聞掲載)
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コンサルタント紹介

木下 耕二
1986年、鹿児島大学法文学部卒業後、清涼飲料メーカーにて勤務。
2001年、日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了。本部経営コンサルタントとして、企業の診断指導、人材育成の任にあたる。
2011年、人材育成をビジネスドメインに加え、経営コンサルタント、人材育成コンサルタントとして活躍。現在に至る。
2019年、九州産業大学へ准教授として赴任。経営学入門、中小企業論、経営管理論、ビジネスシミュレーション、九州企業研究、卒論ゼミナール等を担当。現在に至る。
(1963年生)
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