製造業のノウハウを生かしたサービス業の改善・改革①(2016年4月15日号)

■ストップウオッチを使わない

「製造業の改善ノウハウを生かせばサービス業の生産性を向上させることができるのではないか」。そのように思う方は多いと思う。しかし同時に「製造業とサービス業は違うので無理だ」と考える方も多いと思う。 

一般に製造業とは異なるサービス業としての特徴として次の三つが挙げられる。

①生産と消費が同時である「同時不可分性」、②品質がサービス提供者によって変わる「非均一性」、③サービス自体には形がない「無形性」。 

例えば、旅館業であれば、仲居さんが宿泊客に提供する給仕や接待などのサービスは、仲居さんがサービス提供すると同時に宿泊客がサービスを受け取る「同時不可分性」であり、そのサービスの品質は個々の仲居さんに依存しているため、「非均一性」があり、給仕や接待などのサービスは形がないという点で「無形性」といえる。 

このような特徴を見ると製造業とは大きく違うため、「やはりサービス業に製造業の改善ノウハウを生かすのは無理では」と思ってしまう。しかし、サービス業の仕事の内容を細かく見ていくとすべての仕事が上記の三つの特徴に該当する訳ではない。 

例えば、旅館業でも厨房で料理を調理し部屋まで運ぶ作業は、三つの特徴に当てはまらない。サービス行為ではなく、生産行為及び物流行為である。販売業でもお客様と対面する接客はサービス行為であるが、実は店員はとても多くの時間を品出しや棚入れなどの作業に費やしている。これはサービス行為ではなく、物流行為である。この時、「品出しや棚入れは物流行為である」と認識すれば、製造業の改善ノウハウを生かして徹底的に改善して標準化することができるはずである。 

製造業のノウハウを生かしたサービス業の改善・改革は、自社の業務について、ひとくくりにサービス業と捉えず、「この業務はサービス行為、この業務は生産行為または物流行為」と区分し、まずは生産行為や物流行為に対して徹底的にムダを取る。そしてムダを取ることにより生み出した「余裕」を使ってサービス品質の向上やバラツキ削減を目指すという流れが望ましいと考える。 

サービス業で改善を進める時のポイントは、「分かりやすさ」である。製造業では、ストップウオッチで作業を計測し、専門的な分析手法で作業の問題点を分析し改善策を検討するという進め方を取ることが多い。しかしサービス業においては、生産行為や物流行為であっても製造業のように反復的でも定形的でもないため、上記のアプローチは取りにくい。このようなアプローチができる人材は、製造業と比べると少ないと思われる。つまり、製造業の改善アプローチは、サービス業にとっては非常に分かりにくい。 

サービス業における改善を進める上でのポイントは、ストップウオッチを使わないこと、難しい分析手法を使わないことで改善を分かりやすくすることである。具体的には、ストップウオッチではなく、デジカメ等で作業を撮影した動画を使う。動画を活用して、改善及びマニュアル作成や作業教育を進めていく。動画を活用して改 善策を検討する時は、専門的な分析手法ではなく平易な改善キーワードを使う。そうすれば分析のための専門知識は不要なので、衆知を集めて検討することができる。 

例えば、改善キーワードの一つである「ムダ発見の3キーワード=タッチ数(作業数の削減)、歩行数(移動のムダの削減)、ストライクゾーン(最適な作業範囲の追求)」の観点から動画を見てムダの発見やムダ取り案を出していく。近年では、動画をもとに改善及びマニュアル作成や作業教育を進めることを容易にするパソコンソフトがあり、これらを活用するとよりスムーズに改善を進めることができる。 

次回は、事例をもとに動画を活用した改善の進め方を紹介する。

コンサルタント紹介

主席経営コンサルタント

高田 晴弘

早稲田大学理工学部応用物理学科卒業後、東洋ゴム工業株式会社化工技術本部にて新製品開発関連業務を担当。工程改善・品質不良対策等による生産効率向上にも寄与。
日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了、本部経営コンサルタントとして、各種事業体の診断指導、人材育成の任にあたる。
(1959年生)

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