第5回:「DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)」を推進~MS&ADホールディングス~(2024年1月25日号)

DE&Iの視点取り入れ

MS&ADインシュアランスグループホールディングスは、多様な社員が一人ひとりの能力を真に発揮できる環境を整備し、新たなイノベーションの創出と企業価値の向上を実現するため、「ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包摂性)」に「エクイティ(公平性)」の視点を取り入れた、「DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)」を推進している。

同社では、「DE&I」を実現するための四つの重点分野として、「女性活躍」「多様で柔軟な働き方」「ワークライフバランス」「多様性が活きるインクルーシブな組織づくり」を掲げる。

「女性活躍」では、取締役・監査役に執行役員を加えた女性役員比率は24・1%(2023年12月現在)で、2030年度末までに30%以上とする目標達成を目指している。取締役メンバー(取締役・監査役)における女性比率は33・3%(同)で、2025年度末までに30%以上という目標を達成している。

また、女性役員候補を継続的に育成するために、グループ各社の女性部長90人以上で構成する「女性部長の会」を発足させ、他社役員との意見交換会や外部講師によるセミナーなども実施している。一部のメンバーは持株の関連事業会社の非常勤取締役として登用され、経営レベルの意思決定を行う経験を積む機会としている。

「多様で柔軟な働き方」では、例えば、リモートワークを活用した効率的な業務運営の推進や、ジョブ型雇用の導入、副業・兼業の緩和、キャリアビジョンやライフイベントなどに応じた転居転勤の可否選択など、多様で柔軟な働き方を推進している。

「ワークライフバランス」では、グループの三井住友海上火災保険において、社員全体でワークライフバランスを支えるために、育児休業取得者本人以外の育児休業中の職場を支える職場全員に対して「育休職場応援手当(祝い金)」を支給し、出産・育児を職場全体で心から祝い、快く受け入れて支える企業風土を醸成している。

「多様性が活きるインクルーシブな組織づくり」では、役員主催のオンラインゼミ「e―ビジネスゼミ」にグループ社員5~6人が参加して、一つのテーマを約半年にわたり議論している。ゼミでは、役員はインクルーシブ・リーダーシップを実践し、社員はインクルージョンを体験する。


今年度は10のゼミに56人が参加している。「DE&Iの推進には企業文化の変革が必要。クリエーティブなものや新しいものに取り組んでいくためには、いろいろな人の経験や知見を生かす必要がある。従来型の上意下達のリーダーシップでは限界がある」(中川宏之・MS&ADインシュアランスグループホールディングス人事・総務部部長)。

日本生産性本部では、同社からの依頼を受け、「DE&I診断報告書」を昨年9月に提出した。

同診断は、DE&Iの推進に向けた「エクイティ」確保のため、現在の同社の制度・運営にどのような「望ましくない偏り」が存在しているか、また、それが存在する背景や要因は何かについて、昨年7月から9月にかけて、調査・分析を行った。

診断の検証対象を特定したうえで、従業員へのヒアリング(計52人)と同社から提供された定量的データで、DE&Iの現状を検証し、「多様性への理解を深める」仕組みづくりなど、DE&Iの取り組みに関する提案をまとめた。


地道で長期的な取り組みに~中川宏之・MS&ADインシュアランスグループホールディングス人事・総務部部長の話

当社では、これまでもDE&Iには積極的に取り組んできたが、エクイティの観点が十分ではない面があった。制度上は男女平等だが、何か偏りがあるのでないかということは感じていた。その原因をしっかり突き詰めないと社員間に不公平感が生まれ、真のDE&Iにならないと考え、日本生産性本部に調査をお願いして、数値を使って客観的に洗い出そうとした。

当社の社員区分には「全国転勤型」と「地域限定型」があり、仕事の内容や人事評価などは同じ土俵だが、「男性・全国型」の社員と、「女性・地域型」の社員を比較すると、統計的に顕著ではないものの、評価などに差異が確認された。また、働く時間の制約の有無による差異もわずかに生じている。

一方で、若い世代については、社員区分間の差異は縮まっており、今後は、差異はさらに縮小すると期待している。

DE&Iの取り組みは、企業文化や社員の意識、各種の制度・運営などを変えるものであり、かなり広範囲にわたる、地道で長期的な取り組みになる。当社が選ばれる会社、強い会社になるため、引き続き様々な取り組みを進めていく。


鍵を握る人事データ分析~高橋佑輔・日本生産性本部主任経営コンサルタントの話

人事部が担うべき役割は、管理機能から戦略機能へ変化している。旧来は人事情報の管理や制度の運用、法務対応が主要業務だったが、今日では経営戦略へのより高度なコミットメントのもと、社員個々の能力の成長やパフォーマンスの最大化に責任を果たすことを意識しなくてはならない。

そこで注目を浴びているのが人事データの分析・活用だ。統計的手法やAIを用いたデータ分析が、人事の生産性向上の鍵を握る。

データ活用には、管理型・PDCA型のデータ活用と、オペレーション型・OODA(ウーダ)型(観察→仮説構築→意思決定→実行のサイクル)のデータ活用の2種類がある。

人事のデータ活用は、これまでは女性管理職比率や男性育児休業取得日数といった管理型・PDCA型のデータ活用だったが、労働の価値観の多様化が進む今日では、よりオペレーション型・ウーダ型のデータ活用が重要になっている。例えば、中間管理職は、リモートワークの進展等で負担感がより大きくなる一方で、会社から要求される水準も高くなっている。こうした課題に対して、社員のエンゲージメント調査を定期的に行って問題点を数値的に把握し、チームの状態を定量的に把握することによって、日々のマネジメントオペレーションを支援していくといったデータ活用が今後はもっと増えていくだろう。

DE&Iに関するデータ分析は、①社内の多様性(ダイバーシティ)の分布を確認する、②主な多様性に関する社内の包摂性(インクルージョン)の状況を確認する、③社外への情報発信を確認する、の順番で行うとよい。

今回のDE&I診断では、定量分析(データ分析)と定性分析(インタビュー調査)を組み合わせて実施した。定量分析では、数値で把握することで、透明性を確保してアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見や思い込み)を排除できる。数字には表れにくい点を、より広範にとらえるためにはインタビューによる定性分析が効果的だ。DE&Iのような複雑な取り組みを分析するには、定量面と定性面の両方からの分析が必要だ。

AIやIoTの進化で、中小企業においても比較的手軽にデータを収集・活用することができる環境が整ってきた。データ分析でエビデンス(根拠・証拠)を提示し、現状認識を全体で共有しながら、組織を巻き込んだ変革に役立ててほしい。

◇記事の問い合わせは日本生産性本部コンサルティング部、電話03-3511-4060まで

コンサルタント紹介

主任経営コンサルタント

高橋 佑輔

国会議員公設秘書として、担当選挙区において政策・広報・選挙等の戦略立案・遂行にあたる。
その後、中小企業のマーケティング 担当役員、経営再建担当役員を経て、日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了。
本部経営コンサルタントとして、企業の診断指導、人材育成の任にあたる。筑波大学大学院修了(経営学修士)。(1978年生)

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