第1回 クライアントの自立自走を支援(コンサルティング部長 前田貴規)

2023年3月に日本生産性本部コンサルティング部では、「15人の経営コンサルタントによる生産性向上策~企業の成長と働く人のウェルビーイングを目指して~」を生産性労働情報センターより発刊した。クライアントである企業・組織とともに、現場の最前線で、日々生産性向上を目指して奮闘する経営コンサルタント15人が、それぞれの専門領域から「生産性向上」に資する個別テーマを掲げ、現状の課題認識と改善策をまとめた。 本号から、その執筆者による、自らが考える経営コンサルティング論を掲載する。初回は、日本生産性本部の経営コンサルティング活動に関して、コンサルティング部長の前田貴規が語った。

■日本生産性本部の経営コンサルティングの成り立ち

前田貴規 日本生産性本部
コンサルティング部長

1955年に設立された日本生産性本部は、政府と連携する民間団体であり、生産性向上のための国民運動(生産性運動)を実施することが使命とされ、日本企業の経営力の強化に貢献してきた。1958年に「中小企業コンサルタント指導者養成講座」を開設し、経営コンサルタントを養成し、中小企業へ多くの指導者を送り出してきた。さらに、修了生を経営コンサルタントとして採用することで、自ら経営コンサルティング活動を行ってきた。こうして日本生産性本部は、65年にわたって、経営コンサルティングとともに、経営コンサルタント養成機関として、国内唯一の独自の存在を確立している。

私たちの経営コンサルティングの特徴

日本は人口減少や高齢化の影響で、就業者数の増加や就業率の改善が見込めないため、労働生産性を向上させて経済成長を促し、国民1人当たりGDPを上昇させる必要がある。特に、日本の全企業359万社のうち99.7%を中小企業が占めることから、中小企業の労働生産性向上が鍵となる。


■対話 DIALOGUE

中小企業の生産性向上を目的とする経営コンサルタントは、経営を俯瞰的に診る視点と組織を変革させる力を有するプロフェッショナルでなければならない。また、とりわけ中小企業における経営者の影響力を鑑みれば、経営ビジョンや事業に対する想いを的確に汲み取り、納得するまで議論を交わすことで合意形成を得られてこそ、組織変革が実現できると考える。


■実効 EFFECTIVENESS

さらに、たとえ立派な経営戦略や事業計画、新制度を構築したとしても、実際にクライアント組織が腹落ちし、それが実行に移されなければ画餅に帰してしまう。そのため、私たちはクライアント組織の目線に立ち、実効性の伴った提言・計画策定、制度構築を行い、着実に成果があがるよう共に汗をかくことをいとわない。


■協働 COOPERATION

そして、私たちはクライアント組織が自立自走し、持続的に成長していくことを目指す。クライアント組織の従業員自身が当事者意識をもって課題に取り組むよう、人材育成を同時に進めていくこととしている。そのため、一方的な助言・提案ではなく、クライアント組織との協働による課題解決を行っている。

これからの経営コンサルティング活動

政府は、2018年から2020年までの3年間を「生産性革命・集中投資期間」とし、成長戦略を描いたが、日本の労働生産性は低迷したままである。日本生産性本部は、2021年度から2023年度までの第2次中期運動目標として、生産性改革を軸とした「成長と分配の好循環」の創出を掲げている。このような状況から、私たちの経営コンサルティングアプローチも変えていかなければならない。国内の就業者数が減少し、あらゆる産業で人手不足が深刻化する中、業務の「ムダ・ムラ・ムリ」を徹底的になくし、非効率な業務を改善することも重要ではあるものの、「生産性」を「効率化」の次元に留めることなく、「付加価値」の引き上げを通じた真の生産性の向上へ舵を切っていかなければならない。

今後は、付加価値向上までのコンサルティング・ストーリーを描き、新たな価値創造と、そこで得られた利益を、研究・開発投資、設備投資、人材育成投資という未来に対する投資へ拡大していく支援を行う。私たちもその実現に向けた体制を整えていく。

また、私たちは、クライアント組織が自立自走で持続的に成長することを目指している。そのためには、クライアント組織の経営幹部から管理職、一般従業員すべての能力開発と働く意欲の動機づけも不可欠となる。一人ひとりが組織や仕事に対して自発的な貢献意欲を持って主体的に取り組めるよう、加えて自分らしさを実感できるような環境を作り、エンゲージメントとウェルビーイングを高めていき、生産性向上との好循環を実現させていくのである。

生産性を構成する5つの要素

付加価値向上主導による生産性の向上を成し遂げるには、その目的である「生産性」をどのようにとらえるべきかが課題になる。ここでは、生産性を構成する要素を、①利益、②顧客価値、③社会貢献、④ウェルビーイング、⑤成長投資の五つに分けてみた。生産性の5要素は、成長の過程では、組織が採用する戦略に応じてそれぞれ高まるが、目指すべきはバランスのとれた状態である(図表)。

適切な利益の確保は経営の安定性を高め、次の投資への余裕を生むことにつながる(①)。顧客価値の創造に焦点を当てることは、事業成長のみならず、新たな価値創出(イノベーション)の観点からも重要となる(②)。組織が存続するには社会の安定や持続的発展が必要である(③)。見かけ上の生産性が高くても、従業員のウェルビーイングが損なわれていては持続的な成長は危うく、積極的な貢献姿勢を引き出せていなければ経営効率も悪い(④)。効率をいくら高めても、持続的な成長にはつながらない。持続的な成長につなげるには、設備や研究・開発、人材に対する投資が不可欠である(⑤)。

そして、それぞれに管理指標を設定し、測定・改善することで、クライアント組織の底上げにつなげていく。私たちはクライアント組織とのあるべき関係を、「クライアントと共に、クライアントの成長と働く人のウェルビーイングが連動することを目指す協働体」と表現し、付加価値向上まで伴走する取り組みを広げていく。
 

図表(生産性の5つの要素)

前田 貴規(まえだ よしのり) 1975年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学法学部法律学科卒。25年にわたり、一貫して経営コンサルティング、教育研修に関わる。専門領域は、人事制度及び能力開発制度設計、経営人材育成、組織開発、組織風土改革。DNVビジネス・アシュアランス・ジャパン諮問委員会委員(2021年度~現在)、経産省「レジュメ及び人的資源の質的内容表記(スキル・経験・資格等)に関する標準化調査委員会」委員(2021年度)。中小企業診断士。ISO30414リードコンサルタント/アセッサー。NLPプラクティショナー。現在、東京都立大学大学院経営学研究科経営学専攻博士前期課程に在籍(2022年度~)。

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