第11回 小さな成功体験が大きな改善に
■小さな成功体験が大きな改善に
私の経営コンサルティングは、現場に数多くの成功体験を味わってもらうことに主眼を置いている。現場が成功体験をすると、雪だるまが大きくなるように改善活動が活発化し、「勝手に会社をよくしてくれる人材」が育つからである。「勝手に会社をよくしてくれる人材」が増えることが、最も成果につながるのだと考えている。
こう考えるようになったのは、日本生産性本部の経営コンサルタント倫理規定に「われわれは、個々の経営技術の導入のみに終わることなく、経営者および従業員に原理、原則を十分に理解し応用し得る能力を与え、指導終了後も自力で向上しうることを目標としなければならない」と示されていることもあるが、私の原体験によるところが大きい。
日本生産性本部の経営コンサルタントになる前は、中堅建材メーカーで生産技術やマーケティングなどを経験してきた。3カ月で営業利益の1%を超えるコストダウンを実現し、大クレームや遅延続きの工場移転プロジェクトを収め、新製品を開発して1年で数10億円の売り上げを上げるなど、成果を出していたため、その会社よりも規模の小さい企業の改善支援は、問題なくできると考えていた。
しかし、現実は厳しかった。社長から依頼された私の指示を、現場は一応聞いて、実行してはくれたが、少し不具合が起こるとやめてしまう。そのため、次の訪問のときには何も変わっていない。現場の人に聞くと、「指示どおりやりましたけど、うまくいかないのでやめました」との報告を受けることが続いていた。成果が出せない私は、さらに細かい指示を出したり、現場に詰め寄ったりもしたが、一向に改善しなかった。頂いているフィーに対しての価値を出せず、経営コンサルタントを辞めようかとも考え始めた。
あるとき、休憩時間に現場の人とコーヒーを飲んでいると、1人の社員から、自分の考えている改善のアイデアについて意見を聞かれた。「いいアイデアですね。何かあったら、僕から指示されたと言っておけばいいから好きにやってごらん」と言ってみたところ、次の訪問の際には、私が何を言っても変わらなかった職場がガラリと変わっていた。あまりの変化に、何が起こったのかとその社員に聞いてみると、「考えていたレイアウト変更をやってみたら、仕事が楽になったので、別のところも改善してみました」とのこと。
自分でアイデアを考え、それを実行してうまくいくという小さな成功体験が、1つの職場を大きく変えた。さらには、それを見た他の職場にも波及し、会社全体に改善の兆しが見えてきた。
その光景を見たとき、私がやってきたことは、考える力と自主性を現場から奪っていたのだと気がついた。それまでの「経営コンサルタントがプランを作り、それを現場に指示する」というやり方を大きく変え、現場が1つでも多くの成功体験を味わうための支援を数多く取り入れることにした。
たとえば、チャレンジできる環境づくり、自分の成果を自慢する「ジコジマン」大会の開催、経営コンサルタントからのフィードバックを増やす改善アプリの導入などだ。
1つの成功体験が次の少し大胆な改善につながり、それが成功すると、さらに大きな改善のチャレンジにつながる。雪だるまがどんどん大きくなるように、私が指示をしなくても勝手に改善が進んでいくのである。これが最も生産性の高い経営コンサルティングだと私は考えている。
コンサルタント紹介
鍜治田 良
金沢工業大学大学院 イノベーションマネジメント研究科修了(MBA)
中堅建材メーカーにて現場でのモノづくりを実践
日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了、本部経営コンサルタントとして、企業の経営革新支援、人材育成の任にあたる。
(1977年生)
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