第17回  中立的立場でアドバイス

■ 価値>費用

「価値>費用」が経営コンサルティングを行うときの基本条件である。経営コンサルタントの活用方法について説明したい。活用メリットとして専門能力が高いことは知られている。それは、経営コンサルタントが自ら能力向上に努めていることはもちろんのこと、問題解決の経験を重ねることで実践能力を高めている。専門能力以外のメリットとして中立的な立場でアドバイスできることがある。

■ 指示待ち社員に困っているA社

事例をあげて説明する。

A社は従業員数50人ほどの中小企業であり、自社で製造販売を行っている。社長から「うちの従業員は指示待ちばかりで困る」と悩みを打ち明けられた。現場の様子を観察すると、社長が従業員に指示を出して、その指示に従って従業員が動いている。そのため、社長は「いつも忙しい」と言っていた。「社長、当社の将来をどのようにしたいのですか?」と質問しても、社長自身も目先の業務に追われて、あまり考えていないようであった。

社長は従業員に指示を出すだけでなく、自らも作業に従事していた。「作業に忙殺されていますが、会社の将来の姿を実現するために何をするのか考えることが社長の一番大切な仕事ではないですか?社長は、社長にしかできない仕事を優先してください」とお願いした。


社長も同意し、徐々に社長が担当していた作業を従業員に任せるようになった。「従業員に仕事を任せてみたが意外とやってくれる」と従業員の頑張りが社長には想定外だったようである。従業員に話を聞いてみると「実は、改善したいことがあり、対策を考えている」とのことだった。「ぜひ、取り組みましょう」と言うと、「自分で考えたことをやってもいいのですか?」との返事だった。


仕事を従業員に任せたため社長自身に時間の余裕が出てきた。そこで、「社長、お客様を訪問してください。営業活動としての訪問でなく、お客様との信頼関係作りのために訪問をしてください。うちの商品の評判は、いかがですか?ご不満はありませんか?…と尋ねてください」と伝えた。

社長は営業マンと一緒に顧客の訪問を開始した。しばらくすると社長が「お客様が、こんなのが欲しいと言われても、うちの営業マンは何も反応しないのだよね。せっかくのチャンスを逃している」と言ってきた。それに対して「それは、社長の『担当商材を売りなさい』という指示を守っているのではないのでしょうか?」「社長、新商品・新サービスのヒントがもらえましたね」と伝えた。

■ 成功要因が失敗要因

この事例から分かるように、指示待ち人材を作っている原因は、社長自身にある。そのことに社長は気がついていない。従業員は、指示されたことに取り組もうと一生懸命である。従業員規模が10人くらいであれば、社長が的確な指示を出せた。しかも、それが成功要因であった。しかし、業績が向上して従業員数が多くなると、その成功要因が通用しなくなる。細かく指示が出せなくなった社長は「なんで従業員は自分で考えないのだ?」と不満に感じてしまう。結局、中途半端な指示を出し続けなければならなくなる。

■ 中立的な立場でのアドバイスが有効

問題の全体像が確認できると、原因がよく理解できる。従業員が問題を感じていたとしても社長に進言できる人は多くない。その結果、忙しい社長は、「うちの従業員は…」となってしまう。そのようなシーンを考えると中立的な立場でのアドバイスが効果的である。原因に気がつけば、問題を解決できる。

■ 社長の思いを共有する

指示待ち人材から自律的な行動を促すことが必要である。自律的な行動と言っても、従業員が自分勝手に行動しても困ってしまう。そこで必要となるのが計画書である。社長の思いを込めた方針と、実現したい数値を具体化した計画書を分かりやすく伝えることが大切である。


方針を理解させることで、従業員は自律的な行動ができるようになる。しかし、「指示待ちばかりで困る」と言っている社長は、過去に計画書を作ってこなかったケースが多い。それは、自らの直接の指示で従業員を動かしてきたからである。しかし、作った経験がないものを作れと言われても困ってしまう。


このように問題の原因が分からない場面や組織内での解決が難しい場面では、経営コンサルタントを活用することが有効である。


コンサルタント紹介

主席経営コンサルタント

三枝 久芳

大学院(機械工学専攻)修了後、電機メーカーにて新技術の研究・新商品の開発・市場品質改善・業務改善活動に従事。
日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了、本部経営コンサルタントとして、企業等の診断指導、人材育成の任にあたる。
(1965年生)

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