第18回  データ活用と三現主義


私のキャリアの原点は自動車部品メーカーの生産技術職にある。担当した業務には、工程設計、設備企画・治工具設計、標準時間の設定、品質改善・合理化、工程の情報化などがあり、工程の生産性を高めるための施策を立案・実行してきた。その過程において重視していた点は「三現主義」であり、経営コンサルタントへ転身してからも「三現主義」が経営コンサルティングでの考え方の基本にある。本稿では「三現主義」を実践するためのデータ活用について論じたい。

■三現主義で重要なこと

「三現主義」とは製造工程などの「現場」に赴き、「現物」を確認し、発生している事象の「現実」を知り、問題点を定義して要因を特定することで問題解決を図るプロセスを示している。私が関与した企業において三現主義を重視する企業は多いが、一方で、「現場」に立ち会い「現物」の状態の確認はできていても、「現実」の把握が十分にされていない実態が散見された。例えば、以下に示す作業に関する意見は、業種を問わず多くの製造工程において良く聞かれるが、実態を把握できている企業は少ない。


*段取り作業に時間が掛かっている


*資材や仕掛品を頻繁に運搬している


*倉庫と工場の行き来が多い


*工具を探していることが多い


*荷造りや出荷作業に時間が掛かっている


これらの声に対し、「それらの作業に関する過去の記録はありますか?」と問いかけても、具体的な記録を残していないことが多い。もし、前述に挙げる作業を改善するのであれば、実際の「段取り時間」、「運搬回数」、「行き来している回数」、「行き来している時間」、「工具を探している回数」、「工具を探している時間」、「荷造の作業時間」などを記録し、客観的なデータに基づいて作業の「現実」を認識しなければ、改善の糸口を見つけることは困難である。従って、三現主義のうち最も重要なことは、「現場」において「現物」によって発生している事象を定量的に記録し、「現実」を「データ」で把握することである。

■ 製造工程でのデータ活用の実態

製造工程の「現実」を把握するためのデータ活用について、私が関与した企業での実態を基に考察する。


A社はコイル鋼鈑をプレス機で打ち抜く金属加工業であり、製品ごとに決められた金型とコイル鋼鈑を設置したのち、プレス機が連続的に加工する製造工程を有している。A社からは「製品切り替え時の金型交換やコイルの補充により頻繁に設備が止まり、設備を有効に活用できていない」との声が聞かれた。近年のプレス機は、運転時間、プレス回数、プレス時間を記録する機能を備えており、A社でも自社のプレス機にはこれらのデータが記録されていることは認識していた。しかし、A社では設備導入後に設備で記録されているデータを確認したことは一度もなかった。プレス機にはネットワークに接続する機能もあったが設備を独立した状態で使用しており、プレス機の制御画面でデータを読み取る必要があった。この読み取りに手間がかかるため記録を確認しておらず、設備の停止頻度や停止時間を感覚的に判断していたのである。


私は、設備から過去1年の生産品種別の運転時間、プレス回数、プレス時間を抽出し傾向を分析したところ、3品種で全体の9割以上の生産量、生産時間を占めており、平均すると設備稼働率は48%であることが分かった。生産数上位の3品種はロットが大きいことからコイルの交換と製品回収ボックスの交換頻度が多くなる。その他の品種は、ロットは小さいが金型交換のための段取り回数が増えることや仕掛かる頻度が低いことから位置出しや加工精度などの品質確認に手間が掛かることが分かった。これらの事象から、A社では大ロット品と小ロット品では改善すべき作業が異なることが理解できた。


■ 製造工程でデータを活用するために必要なこと

A社の事例からも設備のデータには日々の現場の実態が表れており、日報など帳票類にも業務内容の実態を把握するためのデータが蓄積されている可能性が高い。製造工程で記録されているデータの傾向を見ることで、思い込みを排除し設備の稼働率や効率的な作業などの「現実」を把握することが可能になる。製造工程での改善を進めるためには対象となる作業のデータを取ること、そしてデータから変化を捉えることが肝要である。


コンサルタント紹介

主任経営コンサルタント

小林 俊介

東京農工大学工学部 卒業。 東京農工大学大学院技術経営研究科 修了。
自動車部品メーカーの生産技術部門において工程設計業務に従事した後、損害保険系コンサルティング会社および監査法人においてリスク管理、事業継続管理(BCM)、コンプライアンス体制の構築コンサルティングおよびセミナー講師を歴任。日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了、本部経営コンサルタントとして活動している。
(1976年生)

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