生産性運動65周年記念大会を開催しました
2020年10月30日
2020年3月に創立65周年を迎えた日本生産性本部は、10月26日と27日の2日間にわたり、オンラインにて「生産性運動65周年記念大会『日本の改革とこれからの生産性運動~コロナ危機を超えて~』」を開催しました。大会には総勢70名を 超える有識者が登壇しました。
大会1日目の冒頭、挨拶した日本生産性本部の茂木友三郎会長は、今年9月に刊行された「生産性白書」を軸として「今後の生産性改革のあり方について、課題の共有と解決に向けた議論を行う基盤づくりに取り組み、合意形成活動をさらに推進していく」と決意を述べたうえで、その取り組みの第一歩としての本大会の意義を語りました。
第1セッション「経済社会のパラダイムシフトとこれからの改革課題」では、政府や企業が今後とるべき道筋が大局から議論されました。司会進行役の芹川洋一氏(日本経済新聞社論説フェロー)から現状認識と今後の改革の方向性について問われると、佐々木 毅氏(日本生産性本部副会長・元東京大学総長)は、コロナ禍では権威主義が有効かのように見える一方でグローバリズムと民主主義について疑問や反発が広がっているとし、日本人は自ら民主主義や政治について「きちんと考えていく必要がある」と強調しました。また政府に対して「個別案件に巻き込まれてエネルギーを消耗してしまう可能性がある」と、明確な戦略的課題を設定するよう求めました。そのうえで、源泉徴収制度の廃止といった国民の負担と給付の自己管理能力を向上させるための施策や、政治と国民との信頼関係を構築するための政治資金報告書のデジタル化、通年国会の導入を提言として掲げました。
神津里季生氏(日本生産性本部 副会長・連合会長)は、コロナ禍は非正規雇用者などより脆弱な立場の人に影響を与えているとして、給付だけではなく、人材育成と雇用のマッチングまで含めた北欧型のセイフティネットの構築の必要性を訴えました。人材育成と安全網の整備こそ、コロナ危機の克服や生産性向上などすべての課題解決の鍵であるとして、「日本は重要課題の先送り体質が抜きがたくあるのでコロナの問題を機に進めていかなければならない」と述べました。
大田弘子氏(日本生産性本部副会長・政策研究大学院大学特別教授)は、デジタル化の遅れを念頭に「問題とわかっているのになかなか変えることができないのが日本経済の大きい問題」と指摘。ポストコロナにむけ、政府も企業もデジタル化を一気に進めることが最も重要であり、さらにデジタル化は供給者側の論理ではなく、徹底的に消費者・利用者の立場にたって進めるべきだとしました。また、デジタル化で労働市場の流動化が進む可能性があるとしたうえで、神津氏と同様に人材育成と安全網の整備の重要性を訴えました。さらに転職の受け皿となる成長分野をつくるための規制改革も求めました。
有富慶二氏(日本生産性本部副会長・ヤマトホールディングス元代表取締役社長)は、製造業などでもサービス化が進展しており、現状は低いとされているサービス産業の生産性の向上が問われているとしました。そのうえで経験を踏まえ、サービス業は「品質を上げるとコストが下がり、生産性が向上する」と述べました。そしてこれらを実現する鍵となるのは、デジタル技術を使ってサービスのKPI化を進めることだとしました。
増田寛也氏(日本生産性本部副会長・東京大学大学院客員教授)は、グローバリズムにより逆に国境を強化する動きがある一方で、国境を越えるGAFAなどの巨大企業が出現してきたことに触れながら、「政治的に不安定な世界を前提にしながら日本の国土とさらには地方を考えていかなければならないという難しい段階に直面している」と述べました。そして「テクノロジーが進化して地方移住のハードルは下がっている」としたうえで、これまでの「多極分散」ではなく、グローバル経済の中で競争できる地方都市を作り「多極集中」を目指すべきだとしました。
続く第2セッション「生産性改革の今日的課題~『生産性白書』をめぐって~」では、今年9月刊行の「生産性白書」をとりまとめた経済界・労働界・学識者のメンバーが、イノベーションや人材育成、働き方など生産性向上のために必要な課題をテーマに討論しました。
まず福川伸次氏(地球産業文化研究所顧問・東洋大学総長)と宮川努氏(学習院大学経済学部教授)から生産性白書の概要について説明しました。
生産性向上の鍵であるデジタル化について、清家 篤氏(日本私立学校振興・共済事業団理事長・慶應義塾学事顧問)は、「デジタル専門家以外の、普通に仕事をしてきた人たちの仕事をどれくらいエンパワー(強化)してくれるかが大切だ」として、少子高齢化が進む中で労働力を維持するために、技術の力を活用していかなければならないと強調しました。
また、野中孝泰氏(日本生産性本部副会長・全国労働組合生産性会議議長)が「人が機械に支配されるのではなくて共存する社会を目指さなくてはいけない」と述べて能力開発の重要性を訴えると、清家氏も「生産性向上の成果の分配、報酬としての能力開発がますます重要になってくる」と応じました。水町勇一郎氏(東京大学社会科学研究所教授)は日本の教育訓練投資が減少していると指摘し、「教育訓練に対する投資が停滞していることがおそらく日本の現在と将来に向けた生産性の大きな危機になっているのではないか」と懸念を示しました。
大八木成男氏(帝人相談役)は、日本企業には、顧客の視点に立ったシステムづくりと、長期的に人材に投資しながら企業文化を変革することが求められているとしました。
生産性運動三原則(①雇用の維持・拡大②労使の協力と協議③成果の公正な分配)について水町氏は、欧州ではフリーランスなど非雇用の対象にもセイフティネットやインフラの整備が進められていることなどを紹介したうえで、「三原則の重要性は変わらないが、その中身や対象が大きく変化している」として、日本でも変化にあわせた対応が必要だと訴えました。
最後に福川氏は「収益価値、顧客(市場)価値、従業員(労働)価値、(企業の社会的責任など)社会価値の4つの価値の総和を極大化することが企業経営の根幹・目的ではないか」と述べました。
大会2日目は「人材育成」「働き方 労使関係」「経営革新」「イノベーション」「公正で活力ある経済社会の実現」の5つをテーマとする合計15の分科会を実施しました。