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2022年度第3回生産性シンポジウムを開催しました

2022年11月16日

公益財団法人日本生産性本部は2022年11月16日、オンラインにて2022年度第3回生産性シンポジウム「生産性向上にジョブ型人事制度は寄与するか~企業競争力の源泉である人的資本経営につながる人事制度への模索」を開催しました。政府は「新しい資本主義」にかかわる総合経済対策の一つとして、年功制の雇用形態からの移行を図り、職務を明確にして専門性や能力を重視する「ジョブ型」雇用や仕事内容で賃金が決まる「職務給」の採用を促すとしています。今回は、ジョブ型雇用・人事が日本企業の生産性向上に寄与するためにはどのような仕組みや運用が必要となるのか、当本部主任経営コンサルタントの東狐貴一が解説しました。


1. 2000年以降の日本企業の人事制度改革

日本では、1960年代から年功序列や終身雇用を前提とした職能資格制度の導入が進みましたが、1990年代に入ると企業の成長が鈍化し、年功賃金を維持するのが難しくなりました。そこで、2000年以降に導入が進んだのが、役割・職務給、業績連動型報酬、目標管理制度などの日本型成果主義です。しかし、企業の業績が上がらないと、規制緩和によって増えた非正規社員の数が調整され、従業員の成果が問われる形にはなりませんでした。その結果、正社員と非正規社員との格差問題が生じ、その是正のために提唱されたのが「同一労働同一賃金」や「ジョブ型雇用」です。そして現在は、正社員もジョブに応じて賃金が支払われるべきではないかとの論調に変化してきています。

2.「ジョブ」 型雇用・人事導入のポイント

組織の仕事は、「タスク」(課業)、「ジョブ」(職務)、「ロール」(役割)の3つに区分されます。「タスク」はマニュアル等に基づく業務のため、職務記述書の記述内容は詳細になりますが、「ロール」は、「営業部長として成果を出す」というような大まかな記述内容となります。よって、「ジョブ」型人事制度を導入する際、タスク型あるいはロール型のジョブのどちらにするか、議論して整理する必要があります。また、ジョブ型雇用においては、人材の外部での流動性は高くなるものの、組織内での柔軟な人材配置が難しくなるなど流動性は低くなります。他方で、役割の成果で評価されるロール型雇用の方が、日本の組織には馴染みやすいのではとする分析もあります。2000年以降の人事制度は、人をモノやカネと同様に事業活動を行う元手としての「資本」として扱っていたようにも思われますが、人は価値創造の主体としての「資産」であるという視点に立ち返ることが求められるのではないでしょうか。


3. 人的資本経営に寄与する人事制度の構築に向けて


早稲田大学の入山章栄教授は、人間は自分の知っていることを深堀しがちで、その結果、知の範囲が狭まり、イノベーションが停滞する「コンピテンシー・トラップ」に陥ってしまうことを指摘しています。そして、イノベーションのためには、「知の深化」だけではなく知の範囲を広げる「知の探索」によって、新しいものを取り入れなくてはならないと述べています。ジョブ型人事制度を導入する際にも、一つのジョブを遂行していれば、処遇が対応して決まるというモデルではなく、副業・兼業を含めた社内外における複数のジョブを経験する個人が「知の探索」を行うことで、最終的にその人の資産の価値が向上するようなモデル、つまり、「ジョブを通じた人的資産価値向上モデル」が求められると思います(図)。

「ライフ・シフト」の著者リンダ・グラットン氏は、「人は無形資産である」と指摘します。また、無形資産は、収入を得るためのスキルと知識などの「生産性資産」、バランスの取れた生活などの「活力資産」、そして、新しい環境や変化に対応できる意志と能力の「変身資産」の3つに分けられると説明しています。そこで今後は、ジョブを通じていろいろな経験をすることによって、「変身資産」を高めていくような人事制度が求められます。

登壇者

東狐貴一 公益財団法人日本生産性本部 主任経営コンサルタント

1987年、日本生産性本部入職。労使関係白書、生産性統計など担当後、雇用システム研究センターにて、企業・大学・自治体等への人事処遇制度の構築、導入支援、評価者訓練・目標設定研修講師を約20年従事。また、「日本的人事制度の変容に関する調査」を1997年から2019年まで16回担当。主な著書・論文は「データで見る人事のこれから」(産労総合研究所『人事実務』1年間連載)、「改訂増補版 健全な学校経営に向けた教職員評価・賃金制度の構築実務」(生産性労働情報センター)等。2022年4月より現職。