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2022年度第5回生産性シンポジウムを開催しました

2023年1月23日

公益財団法人日本生産性本部は2023年1月23日、オンラインにて2022年度第5回生産性シンポジウム「『ウェルビーイング』な働き方でエンゲイジメント向上を~『朗働』の実現に向けて~」を開催しました。従業員の成長や自己実現等、健康だけでなく従業員の「よりよい状態」を実現し、生産性向上につなげる上でキーワードになるのが「ウェルビーイング」です。今日、ウェルビーイングが幅広い注目を集めている社会的な背景には、SDGsの浸透による健康や「働くこと」への持続可能性に対する意識の向上が挙げられます。加えて、少子高齢化や激しい環境変化の中で、イノベーションを実現するためにエンゲイジメントの高い従業員を確保する必要性や、投資家視点での人的資本への注目も高まっています。本シンポジウムでは、当本部が事務局を務める「健康いきいき職場づくりフォーラム」代表の島津明人 慶応義塾大学教授をお招きし、これからの時代に求められる働き方、職場の在り方、企業組織として取り組むことの意義と重要性についてご講演いただきました。


 

1. 今、なぜウェルビーイングなのか

 
  
  
   
島津明人 健康いきいき職場づくりフォーラム 代表(慶応義塾大学総合政策学部 教授)
  
  
 
 

第4次産業革命を迎え、デジタル革新によって、いつでもどこでも仕事ができるようになりました。働き方も多様化しています。これまではメンバーが固定され、1つの組織にフルタイムで所属していましたが、メンバーが状況に応じて参加、退出したり、同時に複数の組織に参加したりすることも可能になりました。

心理学者のデシ氏とライアン氏は、自己決定の度合いが動機づけや成果に影響すると提唱し、「有能さ:環境と有効に関わっていける能力をもった存在でありたい」、「自律性:自分の行動を自己決定できる主体でありたい」、「関係性:他者や社会と絆やつながりを持っていたい」の3つの欲求が満たされると、やる気が内から高まると説明しています。コロナ禍でコミュニケーションを取ることが難しくなると、「関係性」が満たされにくくなり、孤立したり、孤独を感じたりするケースが生じています。

 
 

このような環境の変化の中で、働くということをどのように考えるのか、そして、ウェルビーイングをどのように高めていくかが、大事な課題となります。

 

2. 企業がウェルビーイングに取り組む意義

日本では生産年齢人口が減少していますが、それに対応するために、「労働生産性を上げる」、「働き手を増やす」、「出生率を上げて、将来の働き手を増やす」ことが求められ、労働生産性を上げることは、最初のステップとして重要です。

また、経団連は、「2020年版経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)」の中で、「今後、企業は、インプットを効率化する努力を継続しながら、アウトプットの最大化に注力する『働き方改革フェーズⅡ』へと深化させなければならない。そこでは、高い価値を創造する能力を発揮できる働き手が育つための環境を整備していくことが重要となる。そのカギを握るのが、働き手のエンゲージメントである」と述べています。

 

3. 健康でいきいきとした個人、職場、組織へ:ワーク・エンゲイジメントに注目して

 
  
   
    
図1:ワーク・エンゲイジメントと関連概念
   
  
 

「ワーク・エンゲイジメント」は、健康と生産性の両方の向上に関わる概念で、「仕事に誇り(やりがい)を感じ」、「仕事に熱心に取り組み」、「仕事から活力を得て活き活きしている状態」の3つの要素が揃った状態を指します。

ワーク・エンゲイジメントは、仕事を快と感じ、仕事に多くのエネルギーを費やします。一方、関連概念の1つである「バーンアウト」は、仕事にエネルギーを費やし過ぎて疲れ切ってしまい、仕事への自信がなくなってしまいます。また、最近出てきた症状として、退屈しきってしまった状態の「ボアアウト」があります。例えば、コロナ禍でテレワークをする際、自分で主体的に仕事を進める必要がありますが、それができない場合、暇を持て余してしまいます。「ワーカホリズム」は、ワーク・エンゲイジメントと同様、仕事に多くのエネルギーを費やしますが、その理由は、仕事から離れると不安になり、罪悪やストレスを感じるからです。「職務満足感」は、活動水準は低いですが、健康度は高いです(図1)。

ワーク・エンゲイジメントが高いと、抑うつ、不安、CRP(血液中の炎症反応)が低くなる、また、役割内パフォーマンスをきちんとこなすだけではなく、新しいことを生み出すという研究結果があります。さらに、慶應義塾大学の山本勲先生、鶴光太郎先生の研究では、従業員のワーク・エンゲイジメントが高い企業は、低い企業に比べて、売上高利益率、自己資本利益率、総資産利益率が高くなっています。

図2

個人の資源(自己効力感、レジリエンスなど)と仕事の資源(仕事が持つ様々な強み)が豊富にあるほど、ワーク・エンゲイジメントは高まり、個人の健康度は上がり、組織は活性化され、個人の心理的ストレス反応も下がります(図2「動機づけプロセス」)。職場の悪いところを取り除くことも大事ですが、個人や仕事が持つ強みをいかに増やすかということを、組織づくりの際に重視すべきです。なお、職場要因にアプローチする方法として、「職場環境へのポジティブアプローチ」、個人要因にアプローチする方法として、「ジョブ・クラフティング」などの手法があります。

4. 「働く」こととウェルビーイング:朗働の可能性

図3

「朗働」は、ワーク・エンゲイジメントほどではないものの、職務満足感より覚醒度が高い状態です(図3)。日本は諸外国に比べてワーク・エンゲイジメントが低いという調査結果がありますが、日本人は周りとの関係性の中で自分を位置づけるため、自分だけ活き活きしていることをためらい、ワーク・エンゲイジメントが低くなるのではと推察します。よって、日本人に見合った働き甲斐やウェルビーイングを考えていく必要があると思います。

登壇者

島津明人 健康いきいき職場づくりフォーラム 代表(慶応義塾大学総合政策学部 教授)

  • 専門

    臨床心理学、健康心理学、産業精神保健

  • 最近の研究テーマ

    個人と組織の活性化、ワーク・エンゲイジメント、ワーク・ライフ・バランス、余暇の使い方(リカバリー経験)