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小林喜光会長就任あいさつ「『ココロ』経済への挑戦」

2025年6月11日

『ココロ』経済への挑戦 ~未来から学ぶAI時代の生産性改革~<小林喜光 会長就任挨拶>

8代目の会長を仰せつかりました小林でございます。就任にあたり、一言ご挨拶を申し上げます。

日本生産性本部は、経済界・労働界・学識の三者構成のもと、生産性運動を推進する中核組織として、1955年に設立されました。以来、日本経済の発展と国民生活の向上にむけて生産性運動を推進し、本年、70周年を迎えたところであります。

世界が歴史的な転換点を迎えているただなかに、日本の生産性運動の原点である日本生産性本部の会長という大きなバトンを引き継ぐことは、誠に光栄であると同時に、その責任の重さに身の引き締まる思いであります。

茂木名誉会長は、「需要の創造による付加価値増大」「経済の新陳代謝」「サービス産業の生産性向上」などを軸に、経営者にリスクを取る覚悟を求めて、生産性運動を牽引してこられました。また、民間政治臨調、21世紀臨調という30年以上に及ぶ政治改革の流れを汲み、「日本社会と民主主義の持続可能性」を掲げて令和臨調を立ち上げ、改革実現に向けて自ら汗をかかれるとともに、日本生産性本部のプレゼンスを高めてこられました。茂木名誉会長が築き上げてこられた当本部をさらに発展させるべく、全身全霊で職務に取り組む覚悟であります。 2020年代に入り、世界は歴史的な転換点を迎えております。新型コロナウイルスのパンデミック、ロシアによるウクライナ侵攻、中東紛争、東アジアにおける緊張の高まり、ポピュリズムの台頭など、国際秩序を揺るがす事態が相次いでおります。さらに、いわゆる「トランプ関税」により、国際的な経済秩序の分断をも生みかねない様相を呈しております。

「VUCA極まれり」の感がございますが、戦後80年をかけて築き上げ、経済成長を支えてきた自由貿易体制や多国間協議のあり方が試されているとも言えます。

これまでの延長線上にない事象を次々と目の当たりにし、従来のルールやシステムが通用しない大変革の時代に入っていることを痛感しております。このような地殻変動の時こそ、前例のない変革に柔軟かつ機敏に即応できるよう、起こり得ることを想像して今すべきことを思考する「未来から学ぶ」姿勢で改革を推進しなければなりません。

また、喫緊の課題のみならず、人口減少・高齢化、気候変動、分断・対立・格差の深化など、中長期的、かつすぐには成果が見えない困難な課題にも同時進行で挑み続け、次世代に持続可能な日本社会を引き継がなければなりません。

特に、多くの地政学リスクを抱える日本は、政治・経済、外交・安全保障、環境・エネルギーなど、多岐にわたる分野で国家戦略が問われており、中長期の国家ビジョンが求められております。

混迷の中でも確実なのは、生成AIなどのデジタル技術が凄まじいスピードで進化を遂げていることです。「モノ」をベースにした経済は、100年、200年の時間軸で発展してきましたが、AIや機械学習がもたらす革新は、年単位、月単位と目を見張る速さで進んでおります。

同時に、これまでの技術革新は、人間の管理下で手や足を代替するものでしたが、生成AIや機械学習は、いわば「脳の外部化」であり、人間のコントロールが及ばない未知の領域へと突入しております。

人間が足元にも及ばない量のデータを瞬時に処理する「外部脳」を利活用し、判断を下すべき人間の思考の基盤や叡智が問われているとともに、ビジネスのみならず教育を含め、「国家百年の計」として既成概念を根底から見直し、未来から学ぶという大仕事に対峙しなければなりません。併せて、デジタルやAI時代にふさわしい形に、日本列島を改造していく必要もあるでしょう。

21世紀に入り、経済の舞台は「モノ」から「コト」へと移ってきました。今後は、ウェルビーイングや安心・安全、文化・コンテンツ、食など、GDPのような従来の指標には表れない「ココロ」や「感性」が付加価値となる時代に入ると考えております。「ココロ」や「感性」の価値をいかに豊かさに結び付けるかとともに、あらためて「労働生産性とは何か」という根源的な問いにも挑みたいと考えております。

日本生産性本部は、設立以来、労使の信頼に基づく協力と成果の公正分配を掲げてきました。労使の相互信頼は「ココロ」経済の根幹でもあり、日本生産性本部が力を発揮すべき時代が続きます。

「生産性運動三原則」、すなわち①雇用の維持・拡大、②労使の協力と協議、③成果の公正な分配、の今日的意義を確認、共有し、経済界・労働界・学識の三者で議論を重ね、その道筋を世の中に提起することがわれわれの責務であります。

次世代に持続可能な日本社会を引き継ぐため、われわれのみならず、政治、行政、さらに学生など若い世代も含め、広くご支援とご協力をいただきながら、重責をまっとうしたいと存じます。宜しくお願い申し上げます。

2025年6月11日
公益財団法人日本生産性本部
会長 小林 喜光