「同一労働同一賃金」迫る施行に向けて②(2020年2月5日号)

■人事処遇制度のあり方 「等級ごとに格差ある賃金処遇」徹底を


前回は同一労働同一賃金に関する世間動向(政策動向および労働判例など)について触れました。第2回では、同一労働同一賃金を実現する人事処遇制度のあり方について解説します。

日本において、これまで同一労働同一賃金が実現してこなかった背景には、賃金処遇に年功的要素が大きく影響していたことが挙げられます。労働政策研究・研修機構の「多様な就業形態に関する実態調査」(平成23年)によると、正社員は約7割(限定正社員は約6割)が勤続年数の経過により原則として増加し続ける賃金カーブとなっています。

例えば年功性が強い賃金処遇制度としている企業では、若手で早期に上位の資格・役職に昇格昇進した社員よりも、下位の資格・役職であるが勤続年数が長い社員の方が、昇給が積み上がり賃金水準が高いということが起きています。一般的には、上位の資格・役職者の方が企業にとって付加価値の高い業務に取り組むこととなるため、この時点で同一労働同一賃金の前提となる処遇と仕事内容のバランスが崩れていることとなります。

また、いわゆる正規社員と非正規社員との間で適用される賃金処遇制度は別ものであるケースが多くあります。正規社員では昇給が続く仕組みであるのに対し、非正規社員では昇給が少なく、ある程度で停止するまたは昇給がそもそもない仕組みが適用されていることが多く見受けられます。こうしたことから、同じ経理や総務といった仕事内容を担っているにも関わらず、資格や役職、または正規社員と非正規社員との間で賃金水準が異なっている状況が起こるのです。

この状況を是正するための手法として、仕事を職務内容に細分化しその価値に応じて処遇する職務主義の人事制度や、担う役割(役職)に応じて処遇する役割主義の人事制度があり、実際導入する企業は増えています。 

「日本的雇用・人事の変容に関する調査」(日本生産性本部)では、管理職層については役割・職務給の導入率が経年的に増加してきており、2018年の調査では78.5%となっています。これは2007年の調査以降、7割以上の導入率で推移しており、管理職層への役割・職務給の導入は定着してきていることがわかります。また、非管理職層においても役割・職務給の導入率が右肩上がりに増加しており、2007年調査以降では5割強で推移し、2018年の調査でも57.8%となっています。同一労働同一賃金を実現するとともに、役割・職務の遂行を通じた組織貢献や成果発揮に応じた賃金処遇とする上では、役割・職務に応じた賃金処遇が一つの解決策といえます。

一方で、役割・職務に応じた賃金処遇とするよりも、能力を基準とした職能資格の人事制度とすることが望ましい企業もあります。主に、仕事に関わる能力の習熟と組織貢献・成果発揮が結び付く業種や人事ローテーションを通じて多様なキャリアを築くことが求められる企業においては、能力を基準とした人事制度を構築し運用することが理想的です。なぜなら、能力主義人事制度の特徴は、柔軟な配置転換によるキャリア形成が可能であること(配置転換をしても賃金処遇に影響が及ばないこと)、能力を高めようとする動機付けにより、社員の能力開発を促進する仕組みであることがメリットとして期待できるからです。他方で、勤続年数の長い社員の賃金が仕事内容に関わらず高くなりやすい傾向や、平均年齢の上昇等により人件費が増加する傾向があることがデメリットとして挙げられます。では、これらのデメリットを緩和し、能力主義人事のメリットを最大限活用するためにはどうすればよいでしょうか。ポイントは賃金処遇制度の設計と運用の二つとなります。

一つ目は、賃金処遇制度設計において、同一等級内においては賃金レンジ(等級における下限額から上限額までの幅)の上限を明確に設定し、かつ上位等級との重複をなくす、または重複する部分を極力減らしていくことです。更に、賃金レンジ内における昇給も賃金が高い社員ほど昇給額が逓減する仕組みとすることも効果的です。こうした設計に改めることで、勤続に比例して賃金も上がり続けることを抑制することができます。

二つ目は制度の運用において、能力に対する評価・処遇の考え方が重要になります。これまでは、一度身に付けた能力(主に保有能力)は衰えないという前提から、昇給はあっても降給や降格はないとする考えが一般的でした。しかし、環境の変化が激しい昨今では、その環境変化に対応できない場合は、一度身に付けた能力も相対的に低下することとなります。たとえば、複雑な事務手続きを処理する能力は、システム化により、相対的に低くなる可能性があります。能力主義においては、能力を発揮して組織に貢献することを人事評価の基準とし、処遇に反映する過程で、貢献していない場合は降給・降格もあり得ることを制度運用の中で徹底することが大切です。

次回は、同一労働同一賃金の実現のために、自社の賃金処遇制度をどのように設計または再構築すべきかの検討方法について解説します。_


筆者略歴

小堤 峻(おつづみ・しゅん)

日本生産性本部 雇用システム研究センター 研究員

大学卒業後、信託銀行で営業・企画業務に従事。20151月に日本生産性本部入職。担当領域は、民間企業および学校法人を対象とした人事制度設計支援、人事・労務の教育研修の企画・運営。中小企業診断士・MBA(経営学修士)。

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