第3回:宿泊業における生産性向上モデル事例を創出~岐阜県~(2023年10月5日号)

生産性向上事例集を作成

岐阜県では、深刻化する人手不足解消に向けて、2022年度に、専門家を県内の12宿泊施設に派遣し、デジタル技術の活用等による業務改善や生産性の向上、経営基盤の強化に向けたコンサルティング事業を実施した。それらの活動を通して、各施設で取り組んだ好事例などをまとめた「岐阜県版 宿泊業の生産性向上事例集~始めよう業務カイゼン!生産性向上で人手不足を解消」(全54ページ)も作成(https://www.pref.gifu.lg.jp/page/284455.htmlで公開中)し、県内宿泊施設の業務効率化・生産性向上を支援している。


岐阜県では、白川郷飛騨高山、下呂温泉、郡上八幡などを中心に、古くから宿泊業が主要産業の一つとして地域を牽引してきた。しかし、業界特有の労働環境や雇用形態などを背景に、慢性的な人材不足が大きな課題となっている。

「いわゆる過疎地域が県土の約7割を占める本県では、進学等を機に県外に移転しそのまま地元に戻らない人が多いことも『慢性的な人材不足』に拍車をかけている。併せて、コロナ禍における観光需要の減少により、宿泊業では人員削減や新光需要が回復しているが、コロナ禍に減少した人材を取り戻すことが大変困難な状況にある。また、宿泊業全体として、デジタル技術の導入が進んでいないことから、業務改善や生産性向上などが十分図られていないことも大きな課題だ」(渡部達弥・岐阜県観光国際部観光国際政策課長)。 


そこで、岐阜県では、観光庁が実施した「宿泊業の生産性向上推進事業」の成果を活用し、専門家を県内宿泊施設等に派遣し、人材不足の解消や経営状況の改善につなげるとともに、生産性向上等に関する好事例をまとめた事例集を作成することによって県内観光産業の経営基盤強化を図ることにした。


日本生産性本部では、観光庁の「宿泊業の生産性向上推進事業」として、2016年度、18年度、19年度に、旅館・ホテルへのコンサルティングや「宿泊業経営者のための生産性向上ワークショップ」を実施した。これらの事業を通じて、「宿泊業の生産性向上事例集」(http://www.shukuhaku-kaizen.comで公開中)や動画事例も作成しており、これらの経験が今回、生かされた。
今回は、同本部の4人の経営コンサルタント(鈴木康雄・主席経営コンサルタント、熊木登・主席経営コンサルタント、大平和也・主席経営コンサルタント、平岳彦・経営コンサルタント)が各宿泊施設に派遣され、コンサルティング及び事例集作成を行った。の宿泊施設を対象に、昨年5月に講演会を実施し、事業への参加を募った。その後、6月から今年1月にかけて、応募のあった12の宿泊施設を対象に、コンサルティングを実施した。コンサルタントは1施設あたり計5回訪問し、経営実態及び経営課題等を把握したうえで、ヒアリングや現場視察を行いながら、宿泊施設における経営課題や施設運営における問題点を抽出し、課題解決に向けた改善案の提案や、改善案の実施の支援、効果の検証などを実施した。

日本生産性本部では、観光庁の「宿泊業の生産性向上推進事業」として、2016年度、18年度、19年度に、旅館・ホテルへのコンサルティングや「宿泊業経営者のための生産性向上ワークショップ」を実施した。これらの事業を通じて、「宿泊業の生産性向上事例集」(http://www.shukuhaku-kaizen.comで公開中)や動画事例も作成しており、これらの経験が今回、生かされた。
今回は、同本部の4人の経営コンサルタント(鈴木康雄・主席経営コンサルタント、熊木登・主席経営コンサルタント、大平和也・主席経営コンサルタント、平岳彦・経営コンサルタント)が各宿泊施設に派遣され、コンサルティング及び事例集作成を行った。の宿泊施設を対象に、昨年5月に講演会を実施し、事業への参加を募った。その後、6月から今年1月にかけて、応募のあった12の宿泊施設を対象に、コンサルティングを実施した。コンサルタントは1施設あたり計5回訪問し、経営実態及び経営課題等を把握したうえで、ヒアリングや現場視察を行いながら、宿泊施設における経営課題や施設運営における問題点を抽出し、課題解決に向けた改善案の提案や、改善案の実施の支援、効果の検証などを実施した。


「岐阜県版 宿泊業の生産性向上事例集」は、参加宿泊施設の具体的な改善の取り組み事例と改善手法の解説がコンパクトにまとまっている。「集客を考える際には、付属の『おもてなしシナリオ』を活用してほしい。『おもてなしシナリオ』は、お客様の旅行での過ごし方を時系様が何を感じるか、何を欲しているか』を書き出し、満足を最大化するサービスを検討していくための1枚のシートだ。この手法は、時系列を、集客の段階から、旅を終えた後の再訪の段階まで広げる強力な手段となる」(平岳彦・日本生産性本部経営コンサルタント)。
今年度は、これらの事業の成果を広めるために、事例集を活用した生産性向上促進セミナーを県内各地で7回開催している。コンサルタントが講師を務め、宿泊施設の改善事例も紹介されている。


平氏は、「宿泊業では、お客様と自社の強みを明確にとらえることが重要だ。特に、自社の強みについては、自分たちにも十分に見えていない事が多い 。周辺地域や同地域と比較して、なぜ自社が選ばれているのか、自社を選んだお客様はどういうお客様なのかを整理してとらえていく必要がある。 年を追うごとに変わっていくお客様のニーズをとらえ続け、それに対応したおもてなしを自社の強みを活かしながら続けていく事が宿泊業の重要な課題の一つだ 」と指摘している。


各施設ごと、ニーズに合った改善実現~渡部達弥・岐阜県観光国際部観光国際政策課長の話

コンサルティング事業においては、現状分析、課題抽出、改善策の立案・実行、効果検証といった一連の流れを宿泊施設と専門家が膝を突き合わせて取り組めたことで、各施設のニーズに合った改善がなされたと感じている。専門家派遣を受けた宿泊施設からは、「マルチタスク化の推進が功を奏し、繁忙期に現有スタッフのみで客室稼働率100%を実現できた」「動画・画像形式のマニュアルを導入したことで、新人にかかる指導や技能習得に要する時間を大幅に縮減できた」といった成果を聞いている。

派遣を受けた一部の宿泊施設からは、「もっと長いスパンでより専門的な指導を受けたい」といった意見もあった。中長期的な視野で宿泊事業者の取り組み状況に応じた、より細やかな対応が必要だと痛感している。


「岐阜県版 宿泊業の生産性向上事例集」は、宿泊施設の生産性向上に関する教科書になればと考え、今年4月に県内宿泊施設に広く配布した。本事例集を拠り所の一つとし、より多くの宿泊施設が職場環境に応じた改善手法に取り組み、生産性向上を実現してほしい。

これまでの取り組みを通して、人手不足であるが故に経営者自身が運営業務に追われてしまい、将来を見据えて経営基盤強化について考えるだけの余裕が無い、といった状況に陥っている宿泊施設が少なくないということが浮き彫りになった。今後はそういった状況にある宿泊施設も十分サポートできる事業を展開できれば、宿泊業界全体の底上げにつなげられるのではないかと考えている。


マルチタスク化が効果大~大平和也・日本生産性本部主席経営コンサルタントの話

岐阜県の事例集では、生産性向上の手法として、「マルチタスク化(標準化・マニュアル化、スキルアップ、シフト改善)」「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)3定(定位・定品・定量)」「作業改善」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「販売促進」のポイントを解説しているが、人手不足対策としては、1人の従業員が複数部署にまたがる職務を遂行できるようにする「マルチタスク化」が一番だろう。

「マルチタスク化」を進めるには、まず、部署別の業務や業務に必要な作業を洗い出し、宿泊客数の変動や日時・時間帯別の業務変動などに対応した、部署ごとの適正人員数を把握することから始めるといい。中には、新たに違う仕事を覚えることに抵抗を示す従業員もいるので、経営者自らが組織の先頭に立ち、組織が一体となる姿勢を見せるなどして、従業員に納得してもらうことが重要だ。

DXについては、「旅館管理システム(PMS)」の導入・活用がポイントになる。PMSによって、予約管理の効率化、顧客管理の強化、会計業務の効率化を図ることができ、お客様の履歴をもとに、嗜好に合ったサービスを提供することで付加価値を高めることもできる。

また、働き方改革への対応も急務だ。勤務時間中に仕事から一時離席する「中抜け」勤務を廃止・縮小し、通し勤務を導入するといったシフト改善なども進めていく必要がある。

◇記事の問い合わせは日本生産性本部コンサルティング部、電話03-3511-4060まで

コンサルタント紹介

主席経営コンサルタント

大平 和也

明治大学政治経済学部政治経済学科卒業後、海運会社にて営業企画・営業を担当
日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了、本部経営コンサルタントとして、企業の診断指導、人材育成の任にあたる。
(1960年生)

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