第3回:経営幹部育成研修で議論~新日本電工 ~(2024年11月15日号)
新日本電工(本社=東京・中央区八重洲)は、合金鉄事業をはじめ、機能材料事業や焼却灰資源化事業など特色のある製品・サービスを提供している。中長期経営計画(2024年~2030年)において、持続可能な社会実現に向けた環境変化を機会ととらえ、「社会課題の解決」と「企業価値の向上」を両立した具体的な事業戦略の立案及び実践に取り組んでいる
日本生産性本部では、同社が新しく研修体系を整備するのを機に、2021年度に経営幹部育成研修、2022年度にはイノベーションを生み出す仕組みづくり支援、2023年度には部長候補者向け研修を請け負っている。そして、今年4月から9月にかけて、2回目となる経営幹部育成研修を、部門長9人を対象に概ね月1回の間隔で実施した。
経営幹部育成研修では、ケースメソッドを取り入れ、講師は慶應義塾大学大学院経営管理研究科の教授ら5人が務めた。各回、事前に課題図書とケースが配られ、受講生は課題図書で基礎的な知識を身に付けたうえで、ケースを通読し設定された設問への回答を準備して臨む。当日は討議を中心に進行され、講師によるリードをもとに全員で議論をした。さらに事後課題として、ケースから学んだ事項をまとめるとともに、いかに自社に活用できるか考え、提出することを課した。

第1回のテーマはリーダーシップ(4月)で、時代とともに変化する企業組織のあり方をとらえ、様々な状況、場面に置かれたリーダーの行動を多面的な視点で考察し、参加者は自らのリーダーシップ観と突き合わせた。
第2回経営戦略(5月)では、様々な状況やステージに置かれた企業の事例から、戦略策定の基礎的知識と手法を学び、経営戦略の本質を理解することを目指した。
第3回マーケティング(6月)では、BBマーケティング戦略立案に必要な基本的枠組みを学び、優れた技術力を収益に結び付けるための戦略立案力の習得を目指した。
第4回会計(7月)では、財務諸表から、企業の経営活動を立体的に描き出し、体質的な特徴を読み解く力を身に付けた。実際の企業の財務諸表を分析することで、企業の体質的な強み・弱み、成長性、課題、業界や事業の特性、戦略を読み解いた。
第5回財務(9月上旬)では、経営戦略における財務的思考について、M&Aの判断、経営上のリスクコントロール、成長戦略の検討と評価を通じて、経営幹部に必要とされる思考と基本的手法を理解することを目的とした。
第6回組織・人材(9月下旬)では、グローバル経済の進展により、日本企業も組織のあり方とそこでの個人との関係が大きく変化しており、新しいマネジメントシステムが必要になっているため、組織戦略・新たな人材マネジメントの潮流に着目した。
研修では、「イーロン・マスク―テスラ、スペースX、疾走し続ける夢」「製鉄大手3 社比較2023年」「キーエンス2023年」「グーグル.com:天才たちの『検索と広告』イノベーション」といった慶應義塾大学大学院経営管理研究科のケースメソッドが教材として使用された。『ビジネススクールで教える経営分析』『ファイナンスと事業数値化力』などの課題図書も指定され、参加者は事前に熟読した。
最終回を終えた後には、受講生は研修での学びを基に、「社長との対話」に臨んだ。
ケースメソッド重視の研修~積田正和・新日本電工取締役常務執行役員の話

当社では、2017年4月に、より積極的、効率的、組織的に採用活動および人材育成に取り組むために、「人材開発センター」を新設した。人材育成においては、新入社員からマネジメントクラスまで、社員それぞれが求められる能力、技術、知識を習得するべく、様々な研修・教育を整備、実践している。
これまでの研修は、管理職までは、階層別の研修を中心に実施してきたが、その上の層の研修はなかった。また、収益基盤強化のための事業転換が強く求められている中で、次の経営を担う幹部を継続的に育成する必要があった。その層の研修をきちんと体系立て、将来の経営層になってもらう準備をしてもらうために、経営幹部育成研修を始めた
経営幹部に必要な、自分で考え、自分で決断する力を身に付けるために、研修では、ケースメソッドを重視している。ケースメソッドは経営幹部の育成にとても有用な方法だと思うが、予習復習をしっかりしておかないと学習効果が薄れてしまう。受講生は大変だが、課題図書、事前課題、事後課題をしっかりこなし、受講すれば、受講生の身になる。このケースだったら自分はどう考えるか、どう意思決定を行うのかを考えることで、また、グループ討議を通じて相互に意見交換を行うことにより、新たな気づきも得られたのではないかと思っている。
研修の一環として、研修開始を前に青木泰社長より、受講生に期待することやリーダーシップで大切なことについての講話、そして研修を終えた受講生と青木泰社長との対話を実施している。「会社のあるべき姿と現在の乖離、その要因を取り除く実施策(案)」について全社的な視点で、事前にレポートを書いてもらい、それをもとに、10月31日に社長と対話を行った。そうした対話や議論を通して、会社がより良くなり、成長に向かってさらに進んでいくことを期待している。
リーダーに求められる能力~「リーダーシップ」「組織・人材」を担当した小林喜一郎・慶應義塾大学名誉教授の話

世界レベルで経済や政治の状況が大きく変化している中で、グローバルにおける日本の立ち位置を理解しながら、世界的に直面する課題にどう向き合うか、それに自社がどう貢献できるか、地球規模の視点で、組織を導くことができるリーダーが以前にも増して必要になっている。
リーダーに求められる能力は、①自らの価値観を持ち、強い意思と覚悟を持つ「経営価値観」、②自社の利益、社会、社員の発展のために必要なことを構想する「経営構想力」、③理想に向けての緻密な分析とロジカルな戦略策定能力を持つ「戦略策定力」、④会社のため、世のため、社員のために自らが先導する勇気と仕組みをつくり、それを説き続ける「戦略実行力」の四つであり、それらを身に付けるために経営者教育があると思っている。
ケースメソッドは、学生や受講者が、ケース(実際の企業や組織が直面した経営課題を記述した教材)を事前に読み込んだうえ、各人の分析結果あるいは意思決定の内容やその理由を教員のリードの下で発表し、議論する授業形式であり、実践的な経営意思決定を行う実務能力が得られる。
日本企業の経営における待ったなしの課題は、自社の持続可能な状態を目指していくサステナビリティ経営だろう。事業で収益を生み出すのは当たり前だが、社会に対してどれだけ定量的な視点で貢献できたのかが大事であり、それはESGやSDGs、社員の育成、DEIB(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン・ビロンギング)なども含むものだと考えている。収益を生み出すとともに、広く社会の課題や社員の働きがい、人生の豊かさといった価値観も企業経営の中に取り入れ、従業員を先導できるリーダーが今、求められている。
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