第13回 働きがい向上のための伴走者・支援者として

■働きがいの向上が生産性向上の前提と再認識

私は小売・サービス業に20年従事した後、ご縁をいただき日本生産性本部の経営コンサルタントとして活動を開始し、約5年となる。この間、中小企業を中心にさまざまな業種・規模の会社にかかわらせていただく中で以前から感覚的に持っている問題認識が確信に変わりつつある。それは、働きがいの意図した創出が極めて弱いことが生産性向上の足枷になっているのではないかということである。 

冒頭に述べた前職時代、私は結果指向の強いパフォーマンス重視型社員であり「結果が出れば皆幸せになる」と信じていた。しかし、コンサルティングにかかわる中で「結果や待遇は良いが、働く人々は幸せとは言えない会社(労働生産性が高く、平均給与も高いが不平不満ばかりが出てくる会社)」がある一方、「結果・待遇は良いわけではないが、前向きに取り組んでいる会社(労働生産性は高くなく、平均給与も低いが成長に向けて皆前向きに働いている会社)」も目にしてきた。

このことから、労働生産性を向上させることは労使双方にとって共通の目的であることは間違いないが、その前提として働く人々の「マインド」に着目し、働きがいを意図して向上させていくことが不可欠という認識を強くするに至った。


■中小企業こそ働きがいの意図した創出が必要

働きがいの意図した創出とは、その会社で働く誇り・従業員同士の信頼・成長実感などさまざまな要因に働きかけて内発的動機づけを強化していくことであると考える。一方、働きやすさは休暇・労働時間・給与・職場の物理的環境などの労働条件で構成され、多くは外発的要因によるものである。

近年、労働市場の流動化の進展および若年人口の漸減により、特に中小企業は人材確保において苦境に立たされている。対策の一つとして初任給の引き上げを相談されることが多くなっているが、労働条件の強化だけでは体力のある大手企業に勝ることはおろか、並ぶことも難しい。これはほんの1例で、中小企業の人事施策は大企業で導入が進み、一般的となりつつある施策(多くは働きやすさ関連)を後追い的に導入しているケースがほとんどである。

中小企業こそ規模の面で諸施策が浸透しやすい特性を生かして働きがいを創出し、人材定着につなげていくことが必要である。さらに、働きがいの向上に向けた独自性のある施策を行い、採用市場においてもウリを創り出すという発想が必要と考える。働きがい向上と経営コンサルタントの役割 しかし、働きがいの向上を組織内でデザインし、実行していくことは以下の理由により難しい場合がある。


① 働きやすさの強化は制度・施策に結び付き、社外の事例など比較的可視化しやすいが、働きがいの強化の多くは組織文化・マネジメントのあり方などが影響し、具体的に何を行い、どう影響していくのかが可視化しにくいため、取り組みへの共通認識も醸成されにくい。

② 制度・施策面の多くは人事や総務など担当部署が存在し責任をもって推進されるが、働きがいの強化に結び付く組織文化・マネジメントのあり方は経営トップの強いリーダーシップがない限り、各セクションの管理職に委ねられることになりやすい。


私は経営コンサルタントとして、いかなるコンサルティングテーマであろうと「働きがいを向上させ、働く人々の幸せにつながるか?」を忘れることなくこれらの障壁と向き合い、伴走者・支援者として実現に向けて取り組んでいきたい。




コンサルタント紹介

主任経営コンサルタント

樋口 伸亨

慶応義塾大学経済学部卒業後、株式会社アオキインターナショナル (現株式会社AOKIホールディングス)及び関連会社にて20年間勤務。
主力の紳士服事業の再構築と共に、多角化した事業(飲食・サービス 等)の収益性・業務効率改善から全社成長戦略まで幅広い分野に携 わる。日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了、本部経営 コンサルタントとして、企業の診断指導、人材育成の任にあたる。
(1973年生)

お問い合わせ先

公益財団法人日本生産性本部 コンサルティング部

WEBからのお問い合わせ

電話またはFAXでのお問い合わせ

  • 営業時間 平日 9:30-17:30
    (時間外のFAX、メール等でのご連絡は翌営業日のお取り扱いとなります)