第14回 アート×サイエンスの可能性

演劇的視点とサイエンスを大事にしている。
得意である、とか、武器である、とまで言えないのが情けない。
20代の私は、劇作家・演出家の平田オリザ氏が主宰する劇団に所属し、独自の演劇表現を構想していた。演劇は「対話」で駆動する表現形式である。対話と会話の違いは「未知の事象」を主題とするか否かである。演劇では未知の事象を巡って当事者がにじり寄ったり、すれ違ったり、反発したりする。未知の事象は容易に論理の網をくぐり抜け、思いもよらない不意打ちで観客を喜ばせる。論理だけでは乗り越えられない問題にこそドラマがある。


ここに演劇とビジネスの共通項を見る。ビジネスでは、市場と企業、あるいは組織と従業員の間で頻繁な対話が起こり、「未知」を乗り越えることが求められる。それはドラマである。マーケティングであれば、生活者自身が言語化できない思いを察知し、共感し、新しい価値提案のドラマが期待される。

このようにビジネスと演劇の親和性は高いが、演劇をビジネスに生かす試みは限定的である。もったいない話で、「今まで気がつかなかった視点を知る」「自分の中に未知の視点を取り込む」「(論理だけでは解決できない)新しい問題を乗り越えていく」といった点に、演劇×ビジネスの可能性を感じる。目下、デザイン思考やアート思考も取り込んで、「創造的思考」として体系化を図っている途上である。

この試みが成功すれば、演劇に費やした20代の試行錯誤には意味があった、となる。だが、演劇の探求に挫折した当時は、ひたすら参った。才能の乏しさを残酷に突きつけられ、再起不能の有様だ。そこで出会ったのが「サイエンス」だった。アートで夢破れた反動もあったのだろう、白黒を数字で判断するデータ分析に熱中した。それが経営コンサルタントとしての現在地に道をつないだのだから面白い。


マーケティングデータの活用に関する論文が経済産業大臣賞を受賞(2018年)し、書籍「15人の経営コンサルタントによる生産性向上策」ではデータドリブン経営について触れた。マーケティング、人事(ピープルアナリティクス)、組織開発、またそれらを包括した経営戦略の策定と、データの活用範囲は広い。しかし、データ分析に理解を深めるうち、データの限界を感じることも増えた。データに依存することは、勘と経験に依存することと同様に愚かしい。


かくして私は、「アート」と「サイエンス」の越境型コンサルティングを標榜するに至る。越境型コンサルティングは、デジタルトランスフォーメーション(DX)のようなテーマと相性が良い。DXは、デジタルによってビジネスモデルおよび組織を変革する試みであるが、変革に向けた「新しい発想」をすることが難しい。また、その発想を「現実の形」に組み上げるには「データ」への理解と「強いロジック」がいる。ここにアートとサイエンスの組み合わせが効く。


DXを例にとったが、これは今や、ほとんどの経営課題に共通する型のような気がする。クライアントから求められるのは「新しさ」と「現実性」を両立した未知の解であり、ドラマである。 アートだけでは経営のリアリズムの前で非力かもしれない。サイエンスだけでは過去の成功の劣化コピーしか生み出せないかもしれない。アートとサイエンスの組み合わせが重要なのだ。




コンサルタント紹介

主任経営コンサルタント

高橋 佑輔

国会議員公設秘書として、担当選挙区において政策・広報・選挙等の戦略立案・遂行にあたる。
その後、中小企業のマーケティング 担当役員、経営再建担当役員を経て、日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了。
本部経営コンサルタントとして、企業の診断指導、人材育成の任にあたる。筑波大学大学院修了(経営学修士)。(1978年生)

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