勤労者の仕事における主要価値観と主観的主要指標の関係性 ~「志+ウェルビーイング」がもたらす持続的企業成長の可能性を探る~

 今回のレポートは、日本国内の勤労者を対象に2022年5月に実施した調査(サンプル数=543人)(注1)をベースに、勤労者の仕事における主要価値観と仕事に関する主観的主要指標(注2)の関係性についてまとめたものである。
 当調査において、勤労者の仕事における主要価値観(20項目)についての重要度を質問し、そのデータを因子分析した結果、「志因子」「自己安定因子」「ハピネス因子」「仲間因子」の4因子が導き出された。そして、この4因子は主観的主要指標(「仕事総合満足度」「生活総合満足度」「業績向上貢献度」「職場の従業員満足度向上貢献度」「顧客満足度向上貢献度」)に影響していることが明らかになった。特に「志因子」はこれらのスコアに非常に強い影響を及ぼしていた。
 また、仕事に対して志があり、人生幸福度が高い勤労者が主観的主要指標において高いスコアをもたらしているということも判明した。
 今後、勤労者の志とウェルビーイングを向上させていくことが、企業の発展にとっても勤労者自身にとっても、より一層重要になっていく。

はじめに


 「志」という言葉は古くからあるが、経営の真理を追究する中でその概念の大切さに改めて気づく人も多いのではないだろうか。しかしながら、その一方で「志」の空回りや「志」を発揮し頑張る人が損をするのではないかという風潮も垣間見える。燃え尽き症候群という言葉があるように、仕事にフルパワーを発揮することで心身が疲れ果ててしまうリスクもある。
 「ウェルビーイング(幸福、心身の健康)」という言葉は最近、使用頻度が増えている言葉である。健康経営や幸福経営等が脚光を浴びる中で企業サイド、勤労者サイド双方から支持を高めている。
 当レポートでは、私が2022年5月に日本国内で働く543人を対象に実施した調査結果をベースに、「志」と「ウェルビーイング」の両立が企業における主観的主要指標に強いプラスの影響をもたらしていることを論じる。
 幸いなことに今回の調査結果は今後の企業経営と勤労者にとって、明るく発展的な未来の指針を示す調査結果となっている。


勤労者が重視する価値観


 図表1は仕事において重視される代表的な価値観を20項目抽出し(以下、「主要価値観」と表現)、それぞれについて、10点満点で回答を得たものをまとめたデータである。1位「健康」(10点満点中平均点7.6点)、2位「給与」(同7.4点)、3位「職場生活の安定」(同7.3点)の順になっている。コロナ禍における調査ということも加味されてか、比較的、健康や安定に関する項目が上位にランクされている。

主要価値観の因子分析


 図表2、図表3は20項目の主要価値観に関する因子分析を行った結果を示したものである。「志因子」「自己安定因子」「ハピネス因子」「仲間因子」の4つの因子が導き出された。
 「志因子」はチャレンジ・自己成長・顧客満足・社会貢献・会社組織への貢献・誇り・やりがいをベースにした因子である。志に関する項目が中心になっているので「志因子」と命名した。
 「自己安定因子」は無理をしない事・時間・給与・健康・職場生活の安定をベースにした因子である。自分の生活や職場基盤の安定性を維持することに関する項目が中心になっているので「自己安定因子」と命名した。 
 「ハピネス因子」は楽しさ・幸福感・自分らしさ・自由・家族をベースにした因子である。快の感情を生み出すハピネスに関する項目が中心になっているので「ハピネス因子」と命名した。
 「仲間因子」はチームワーク・良い人間関係・思いやりをベースにした因子である。良い仲間同士だと芽生えやすい項目が中心になっているので「仲間因子」と命名した。


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4因子上位得点者の主観的主要指標平均点


  図表4は4因子それぞれの因子得点上位20%の人の主観的主要指標平均点グラフである。全指標において「志因子」の強い人が最も高いスコアとなっている。次が「仲間因子」「ハピネス因子」と続き、「自己安定因子」は4番目となっている。「志因子」を強く持つ人は「チャレンジ」や「自己成長」に加え、「顧客満足」「社会貢献」「会社組織への貢献」といった利他的な価値観を重視している人々であるが、「仕事総合満足度」や「生活総合満足度」等、実はその人達自身も満たされている傾向が表れている。「志因子」が強い人は「業績向上貢献度」や「職場の従業員満足度向上貢献度」「顧客満足度向上貢献度」も高スコアとなっている。

志・ウェルビーイングと主観的主要指標の関係性


 前述の調査では「自分自身の人生幸福度」と「仕事に対する志の有無」についても質問している。
①は人生幸福度が10点満点中8点以上で仕事に対する志を抱いている。
②は人生幸福度が10点満点中8点以上だが仕事に対する志は抱いていないもしくはどちらともいえない。
③は人生幸福度が10点中7点以下だが、仕事に対する志を抱いている。
④は人生幸福度が10点満点中7点以下で仕事に対する志を抱いていないもしくはどちらともいえない。


 人生幸福度が高く、仕事に対する志が高い人は各スコアが非常に高くなっている。その反対に人生幸福度と志が高くない人はスコアが全体的に低くなっている。
 幸福度(ウェルビーイング)もしくは志があれば各指標共に平均以上のスコアとなっているが、ウェルビーイングにプラスして志があると「仕事総合満足度」「生活総合満足度」「業績向上貢献度」「職場の従業員満足度向上貢献度」「顧客満足度向上貢献度」の全てにおいて一番高いスコアになっていることが分かる。
 ウェルビーイングだけではなく、志だけでもなく、ウェルビーイングと志の両立が勤労者にとって重要であることが分かる。また、顧客に対する価値創造や業績・良い職場を生み出す主体が勤労者であることに鑑みても会社や職場の同僚、商品やサービスを享受する顧客にとっても勤労者のウェルビーイングと志の両立が重要であるといえる。

志+ウェルビーイングの向上


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  • 志を形成する3要素「パーパス(目的)」「ミッション(使命感)」「コミットメント(責任の完遂)」などについても記載しているフルバージョンのレポートは、以下からダウンロードをしてください。


  • 注1:調査対象:22 歳〜66 歳までのわが国の建設業、製造業、卸売業、小売・サービス業において2年以上同一企業で雇用されている正社員 543 名。調査期間:2022 56日(金)〜13 日(金)、 株式会社クロス・マーケティングのインターネット調査モニターの協力により調査を実施した。戻る
  • 注2:今回の調査ではアンケート回答者が「仕事総合満足度」「生活総合満足度」「業績向上貢献度」「職場の従業員満足度向上貢献度」「顧客満足度向上貢献度」について、それぞれ10点満点の自己評価をしており、「主観的主要指標」とはこれら5項目を指す。なお、「職場の従業員満足度向上への貢献度」「お客様満足度向上への貢献度」に関しては平均的な同僚の貢献度を5点として各回答者が自己評価を行った。戻る

本コラム執筆者・加瀬元日の他コラム「従業員の多様な価値観を活かし、個人と組織の充足と発展に結びつけるために」はこちら



※本コラムは筆者の見解に基づき作成されたものであり、当本部の統一的な見解を示すものではありません。

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コンサルタント紹介

主席経営コンサルタント

加瀬 元日

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。
株式会社ナイキジャパンにて、新規事業創出(直営店ビジネス)及び全国チェーン展開体制の構築業務を担当。
日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了、本部経営コンサルタントとして、企業の診断指導、人材育成の任にあたる。
(1972年生)

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