2021年 年頭会長所感

『日本の改革と生産性運動の新展開~コロナ危機を超えて~』

2020年は歴史的な転換点にあたる年であった。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、人々の命は脅かされ、仕事や暮らしといった日常は激変を余儀なくされた。世界的に人や物の動きが制約され、経済活動が低迷するなか、世界経済は危機に直面している。また、今回の危機により、社会の分断と格差拡大は一段と深刻化した。国際協調の重要性が問われるなか、自国第一主義的な空気が強まり、グローバリズム、市場経済、民主主義という共通の価値観に揺らぎが生じている。

一方で、今回のコロナ危機は、社会経済活動に新たな変化をもたらした。世界では、コロナ禍の社会環境の変化を捉え、デジタル化を梃子に、新たな成長を生み出す企業も相次いでいる。わが国においては、テレワークが急速に広がり、社会全体のデジタル化を進めようとする機運が広がり始めた。医療や教育の分野においてもオンライン診療や遠隔教育などの取り組みが、徐々に進みつつある。

歴史的な転換点を迎えている今、日本に問われていることは、ポストコロナを見据え、持続可能な経済社会の創造に向けた、確固たる国民的合意形成である。そのために、最も重要なことは、国家の将来ビジョンの構築とその実現への強い意思と着実な実行力である。


昨年9月、菅内閣が発足した。菅総理は、「行政の縦割り、既得権益、あしき前例主義を打破し、規制改革を全力で進める。『国民のために働く内閣』として改革を実現し、新しい時代をつくり上げる」と表明し、途半ばであった構造改革を具体的に進めようとしている。われわれは、菅総理が進めようとしている改革が実りあるものになることを大いに期待するものである。

そのためにも、菅総理は、現下の最重要課題である感染防止と経済活動の両立に向けて力強いリーダーシップを発揮するとともに、構造改革のその先にある日本の将来ビジョンを国民に語るべきである。今回のコロナ危機により、深刻さを増している財政赤字や社会保障制度などの課題にも正面から向き合い、抜本的な改革を断行しなければならない。今回の危機を乗り越えるためには、国際社会での連携を強化していくことも重要である。

持続可能な経済社会システムの構築に向け、構造改革に取り組むためには、与野党を超えた、改革を進めるための超党派の基盤を再構築しなければならない。民主主義が適切に機能するためには、政権交代可能な責任野党の存在も不可欠である。政党改革のみならず、国会改革や行政改革、国や地方のあり方など、統治構造の根本改革は喫緊の課題である。また、国や自治体のデジタル化を加速させることは、現下の構造改革の最重要課題のひとつである。


コロナ危機を超え、日本の経済社会を次世代に引き継ぎ、未来への責任を果たすためには、持続的な経済成長が不可欠である。その実現にあたり最も重要かつ核心的な課題となるのが、生産性改革である。なかんずく経済成長の主役である民間は、新たな需要を創造し、付加価値を高めていくことに取り組まなければならない。併せて、経営者は、リスクを取ることを恐れず、コロナ後の新たな成長に向け、「攻め」の投資に挑戦すべきである。また、個々の企業による努力は当然であるが、経済の新陳代謝を促し、生産性の高い企業へ資本や労働力を移動させることにより、経済全体の活力を生み出していかなければならない。その際には、セーフティネットの強化など、労働市場を整備することが不可欠である。

われわれ、日本生産性本部は、2018年3月、設立当時に匹敵する覚悟で、生産性運動を再起動する決意を固め、「人口減少下の新たな生産性運動の基盤整備」を旗印に、3カ年(2018年度から2020年度)からなる第1次中期運動目標を掲げ、活動に取り組んできた。その一環として、昨年9月には、日本の生産性改革を進める指針とするべく、初となる『生産性白書』を発表した。われわれは、本白書を出発点として、国民各界各層に呼び掛け、今後の生産性改革のあり方について、課題の共有と解決に向けた議論を行う基盤づくりに取り組み、生産性運動三原則を基軸に、合意形成活動を推進する。

歴史的転換点を迎えたわが国に求められていることは、持続可能な経済社会の創造に向けた国家の将来ビジョンの構築とその実現への強い意思と着実な実行力である。本年、われわれは、このような時代認識のもと、新たに3カ年(2021年度から2023年度)からなる第2次中期運動目標を策定し、コロナ危機を乗り越え、新たな未来を拓くべく、日本の改革に向け具体的な実践活動に踏み込む。

2021年1月1日
公益財団法人日本生産性本部
会長 茂木 友三郎