2022年 年頭会長所感

『改革実践への決意~持続可能な経済社会の実現に向けて』

新型コロナウイルス感染症との闘いは、未だ予断を許さない状況が続いている。我が国の感染状況はやや落ち着きを見せているものの、感染が再拡大している国や地域もある。当面は、これまでの経験を踏まえ、国内の医療提供体制を整備するとともに、ワクチンや治療薬の開発・安定供給など、次なる感染拡大への備えに注力し、国民の命や健康に対する不安を払拭していくことが重要である。そのうえで、今回のコロナ危機を歴史的な転換点として捉え、ポストコロナを見据えた持続可能な経済社会を構築するための契機としなければならない。


新型コロナウイルス禍は、先進国と途上国との間の格差をさらに拡大させた。世界の分断は深刻さを増している。

グローバルガバナンスが揺らぐ中で、コロナ危機以前から始まっていた米国と中国の対立は、経済、安全保障、人権など多岐にわたっており、「新冷戦」と呼ばれる体制間競争の様相を呈している。その影響は経済活動にも及んでいる。産業界も経済安全保障に無関心でいることは許されない。

また、各国の利害が異なる地球環境問題への対応をめぐっては、カーボンニュートラルの実現を新たな成長へとつなげていく視点が重要となる。SDGs(国連の持続可能な開発目標)達成への貢献も含め、我が国は国際社会において、リーダーシップを発揮していかなければならない。

国内に目を転じると、昨年10月には4年ぶりに政権選択選挙である衆議院議員総選挙が実施された。国民は、自由民主党・公明党の与党に政権の継続を求めた。岸田総理には、リーダーシップを発揮し、転換期にある我が国の国家ビジョンを明らかにし、政策の優先順位を示し、着実に実行することを期待する。民主主義が適切に機能するためには、政権交代可能な責任野党の存在が不可欠である。政党の改革は待ったなしの国民的課題である。ポストコロナを見据え、持続可能な経済社会システムを構築するためには、改革を進めるための与野党を超えた基盤を再構築しなければならない。統治構造改革、財政再建・社会保障制度改革、国土構想等、平成時代から先送りされてきた改革課題に取り組むため、改革推進の合意形成活動に取り組む必要がある。

日本経済は、数十年にわたる長期停滞が続いている。コロナ危機が停滞に拍車をかけており、経済の構造改革は待ったなしの状況にある。岸田内閣は「成長と分配の好循環」の実現を掲げている。分配にむけて必要な成長を実現するためには、生産性の向上が不可欠である。昨年末、日本生産性本部が発表した「労働生産性の国際比較」によれば、2020年の我が国の時間当たり労働生産性の順位は、1970年以降最も低い23位(OECD加盟38カ国中)に低迷している。今こそ、生産性改革の実践が求められている。殊に、経済成長の主役である企業は、イノベーション(革新)とディファレンシエーション(差異化)によって、新たな需要を創造し、付加価値の拡大に取り組んでいくことが肝要である。併せて、経営者は、リスクを恐れず、新たな成長を見据え、デジタル化、研究開発、人材育成等へ積極的に投資すべきである。商品やサービスの価値に見合う価格を形成することにより、企業は収益を高め、従業員や株主をはじめとするステークホルダーに分配することで新たな成長に繋げることができる。

また、個々の企業による努力は当然であるが、経済の新陳代謝を促し、生産性の高い企業へ資本や労働力を移動させることにより、経済全体の活力を生み出していかなければならない。その際には、労働市場の整備など、セーフティネットを強化することが不可欠である。

コロナ禍は中堅・中小企業や地域の企業に大きな打撃を与えた。日本経済再生のためには、その約7割(GDP・雇用ベース)を占めるサービス産業の生産性向上は官民挙げて取り組むべき重要な課題の一つである。われわれは、我が国のサービス産業の底上げを図るべく、サービス産業生産性協議会(SPRING)の活動を通じ、他の範となる、革新的かつ優れたサービスを全国各地から発掘し、普及していく。


コロナ危機を乗り越え、持続可能な経済社会を実現するためには、労使の信頼と協力を基盤とする生産性運動の推進が、今こそ必要である。

日本生産性本部は、昨年3月の定時理事会において、「日本の改革と生産性運動の新展開~基盤整備の3年から改革実践の3年へ」を旗印に、第2次中期運動目標を決議した。すなわち、①「生産性のハブ・プラットフォームとしての発信と実践展開」②「社会経済システム改革にむけた合意形成活動の推進」③「日本の人材戦略の再構築と中核人材の育成」④「付加価値増大を軸とした生産性改革と「成長と分配の好循環」の創出」⑤「国際連携活動の強化」である。われわれは、ポストコロナ時代を見据え、第2次中期運動目標2年目となる本年を、持続可能な経済社会の構築にむけた実践活動に取り組む年とする。

2022年1月1日
公益財団法人日本生産性本部
会長 茂木 友三郎